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 前線基地のハンガーエリアの一角で、1人の女性プレイヤーが携帯端末片手に声を張り上げていた。


「はぁ?! なんで居ないのよ! え?! なんで?! なんで?! なんで?! 馬鹿じゃないの?! 知らないわ! さようなら!!」


 そう言うと携帯端末を地面に叩きつけた。


 アンカーポイントから北西に進んだ先にあるラーバン地方。そこにある前線エリアの1つ、『ラーバン-3』。そこの前線基地内にある電話ボックスの中にバードンはいた。

 ギアーズ・コンクエストは、現実世界と比べてゲーム内で4倍の加速時間を採用しているため、現実世界とゲーム内で通話を行う事が難しい。そのために用意されたのが『電話ボックス』だ。電話ボックスに入り通話を開始すると、ゲーム内の速度が4倍遅くなり、リアルと同じ速度になる仕組みになっている。


「──ああ、わかった、いやいやお大事に。大丈夫だ、人も多いしいけると思う。そうか? 分った戻しとく。じゃあな」


 そう言い受話器を置くとバードンは電話ボックスから出た。


 このゲームでは、移動にかかる時間がネックになっていた。惑星1つがフィールドとなっているからだ。

 インフラの整ったエリアならいざ知らず、前線基地ともなると、鉄道は走っていないし、空輸はコストが高い上に撃ち落とされる可能性がある。そうなると鉄道を使えるエリアは鉄道、その先は大型トラックによる陸路、もしくは自力で移動というのが多くなる。すると移動にかかる時間が2~3日等と長くなるエリアが出てきてしまった。そして、その間プレイヤーは何をしていたらいいの? という問題が起きてしまったのだ。

 そこで導入されたのか『自動移動システム』だ。これはあらかじめ時間とルートを指定しておくと、プレイヤーがログアウトしている間に自機と自キャラを移動しておいてくれるシステムだ。そしてプレイヤーは移動が終わった後の時間にログインすれば、移動先でログイン出来るという寸法だ。むろん移動中にログインしたら、移動中の機内から始まる。

 プレイヤーは開発にファストトラベルを求めたが、『ゲーム内でワープマシンが開発されない限り実装は無い』と突っぱねられた。それを聞きゲーム内で調べるプレイヤーも現れたが、未だにワープに繋がる技術ツリーすら発見されていない。


 バードンは前線基地のハンガーに向かうと、自分のハンガーの隣のハンガー前に立った。そこには『スクタリ改』ソルダの機体が格納されていた。バードンがハンガーに設置されているコンソールパネルを操作すると、ズンと重い音を立て、ソルダの機体がハンガーごと後ろにスライドし奥に消えていった。

 そして、ソルダのハンガーを戻した事で空いた空間は、奥から別の機体を乗せたハンガーがスライドしてきて埋まっていった。

 今回ソルダはリアルの都合で参加できなくなってしまったが、バードンが今いる基地では拠点防衛戦が起ころうとしていた。

 MBはMBが支配するエリア内での総数が一定量を突破すると、隣のエリアに進出してくる。これはゲーム内で『スタンピード』等と呼ばれ、今回このエリア『ラーバン-3』の北に隣接するMBの拠点でそれが起こったのだ。

 そして、MBが攻めて来た時に機体をハンガーに置いたままにしておくと、MBにプレイヤー拠点を攻撃された際に、一緒に破壊される恐れがあるため、ソルダに頼まれたバードンは、ソルダの機体をクランハンガーに送り返したのだ。ちなみに、『自動移動システム』で移動したプレイヤーキャラは、ログインしない限りNPC状態なので、防衛戦等戦闘が始まるまでにログインしないと隣のエリアに避難を始めてしまうのだ。


 侵攻開始を知らせるサイレンが鳴り響き、長距離攻撃の装備をした機体が遠くの敵に向けて攻撃を開始した。

 前線基地の建物の上に1体のタイタンフレームがたたずんでいた。全身ツヤのある黒一色で、所々に鎧風の装甲が張り付いている。顔の部分は白くフランス人形の様に整っており、オレンジ色の機体の熱を逃がすための放熱索が頭髪の様にたなびいていた。右手には真っ赤なハルバード、左手には腰から伸びたスカート状のスラスターのコントローラーが握られていた。

 その瞳の先はMBが現れる方角を向き、これから来るであろう敵を待ち構えている様だった。

 眼下では長距離攻撃の装備したギアフレームやタイタンフレームが、せわしなくハンガーを出入りしていた。あるタイタンフレームは基地の敷地から出ると横に進み周りに他の機体が居ない事を確認してから、肩に担いだミサイルランチャーを一気に撃ち出し、空になったミサイルランチャーを担いでハンガーに戻っていった。他には下半身をキャタピラに変え両腕は巨大な大砲、肩にはミサイルといったロボットと言うより戦車と言った風体の機体が、列をなして基地から出て行っては、一斉射撃を行い、戻って補給をし出て行っては一斉射撃を繰り返していた。

 隣のエリアから向かってくるMBたちは、レーダーに映る範囲でも点ではなく面に見える密度で押し寄せてきていた。長距離攻撃をしているプレイヤー達は、密集しているMBを範囲ダメージを出せる武器を使う事で効率よく削り、防衛戦序盤の定石に則って行動していた。

 黒いタイタンフレームは、カシャっと軽い音を立て、下あごの部分が真下にスライドすると排熱ダクトが露わになり、薄っすら白い煙を吐き出す。そして収まると、再び軽い音を立て閉じた。

 そのまましばらく眺めていたが、建物から飛び降りるとスラスターを器用に操りフワッと着地し、ハルバードをくるくる回し肩に担ぐと、プレイヤーが鉄と火薬でせっせと耕しているエリアに向かって進んでいった。


「B-2~4エリア弾幕薄いぞ!」

「おい、今誰かカタパルトで戦闘エリアに飛んでいかなかったか?」

「誰だ! 俺が撃った場所に被せてくる奴は!」

「まだ長距離タイムぞ? 初心者か?」

「補給ってきま~」

「C-5~9! もっと撃て撃て!」

「マジかよ巻き込むと減点食らうってのに、誰か止めなかったのか?」

「痛ってー、反撃も増えてきたぞ」

「いてら~」

「またかよ! なんだよ! 真似すんな!」

「おいのりでもするんだな」

「レーダー見たら西の端に向かってる機影があるなコレか? あっちには無人の前哨基地があったはず」

「っしゃー! フルヒット!」

「漏れたの狙いにしても、まだ早いだろ。密集地は中央だし、まぁそっちに撃たなきゃいいか──」


 オープン回線でのプレイヤー達の会話を聞き流しつつ、バードンは射撃準備に入った。

 腰から伸びる積載量重視の太くゴツイ四本の脚、そのふくらはぎ部分から展開したアウトリガーは、地面をガッチリと掴み機体をより強固に固定した。両腕の肘から先は巨大な六角柱が3本繋がった形をしており、先端のコンテナハッチは開かれミサイルの赤い弾頭部分が見えていた。背面には左右二門のキャノン砲が背負われており、まだ撃つ気はないのか巨大な銃身が天に向かって延びていた。そして機体上部、本来なら頭部がありそうな位置には各種センサーを組み合わせたレーダーパーツが乗っていた。


「目標空域、及び斜線上に機影なし、角度調整、よし。っと発射」


 バードンは機体の肘を動かし発射角度を整えると、左右のレバーにあるトリガー3回引くと、目標空域に向け左右3発、計6発の大型ミサイルを発射した。

 撃ち出されたミサイルは、バードンの指定空域に到達すると側面装甲が剥がれ落ち、中から200個の小型の爆弾をばらまいた。しかも、それが6発ともなると、かなりの密度をもって広範囲に破壊をもたらしたのであった。


「敵MB、小型71、中型8撃破、その他複数にダメージが入りました」


 ギルの報告が響く。

 小型に分類されるサイズ帯のMBは、複数の爆発を食らえばなす術もなく破壊され、破片をまき散らし天を舞う。中型に分類されるMBは、小型の8倍ほどのサイズ帯で、装甲も厚く今回の爆弾で仕留める事は難しい。それでも何発も食らえばダメージは蓄積され破壊される。

 ギルの報告を聞きつつバードンは背面装備のキャノン砲の射撃準備を始める。

 前線基地が集めたデータに頭部のセンサーで補正をかけ、背面装備のキャノン砲を同時に二発撃ち出した。反動がコックピットを駆け、四本の足とアウトリガーが地面に少し食い込んだ。

 撃ち出した二発の砲弾は、先程の絨毯爆撃で足をやられ動けなくなっていた中型MBに見事突き刺さり爆散させた。すかさず再装填を行い待つ事20秒、その間にターゲットが吹き飛んだのを確認し、別のダメージを与えていた中型に狙いを変える。が、新しく狙いを定めた中型MBは再装填中に別のプレイヤーによって破壊されてしまった。

 このゲームは、一定以上ダメージを与えていれば止めを自分が刺さなくても、ポイントは貰えるため、横殴りには限度はあるがわりと寛容だったりする。今回の様な大人数での乱戦のでは、複数のプレイヤーが同じ敵をターゲットにするなどよく見られる光景だった。むろん単独討伐の方がポイントは高い。

 そして今回の防衛戦ではミッション中に溜めたポイントに応じて報酬が支払われる。


「残念ながら、先程の爆撃エリア内の中型MBは掃討されました」


 ギルの言う通り、バードンが爆撃し被弾したものの生き残った中型MBは8機居たが、1機倒して再装填している間に残りを全て打ち取られてしまった。


「こいつはリロード速度が課題だな、仕方ない外すよりかはマシだろう。大型に当ててポイントを稼ぐ。リストアップしてくれ」

「了解、……マップに表示します」


 キャノン砲の弾は大きくて威力も高い分値段も高い。バードンはタッチの差で対象が破壊されて空振ってしまう可能性のある中型MBより、確実に耐えるであろうが、大きく当てやすい大型MBへと狙いを替えた。

 大型MBは大型輸送船並みに大きくそして動きが遅い。そのぶん装甲が厚く攻撃も激しい。更には小型の母艦のような役割も持っているのだ。こいつらが集まるとMBの拠点が建築されると言われている。


「割と削られている様だがまだいけそうだな、受け止めてくれぇ!! わたしの愛を!!」

「……どうしたんですか?」


 ギルの問いに少し恥ずかしそうにバードンが答える。


「昨日一挙放送やってて、見たばっかなんだ。似てた?」

「左様ですか、練習を推奨します」


 バードンはそういうと一番近くにいる大型MBへ向けて砲撃を開始した。そして大型MBは8発の砲撃を食らうも倒れず、9、10発目の装填中に止めを刺され爆発を起こし撃破された。


「もう一回転位いけそうだな」


 マップに表示されている赤い斑点を眺め、バードンはそう判断すると、ヘカトンケイルを起動させ、先程と同じミサイルの武器腕を取り出すと、MBの密集地帯へ向け撃ち放つのだった。


「まぁまぁ稼げたな。戻って装備は中距離用に替えよう。もう早い奴はDラインまで来てるだろ、そろそろ中盤戦の開始だ」

「了解しました」


 バードンは画面端に表示されているスコアの数値に満足すると、機体を戦前基地に戻すのだった。


 『ラーバン-3』のエリアマップは他のエリアと比べると広めで、縦にA~O、横に1~15と番号が振られた一辺10kmの賽の目状に区分されてる。とはえいえ、地形の関係上必ずしも正方形という訳ではなく、端の区画は削られたりすることが多い。

 今回は北に隣接するエリアから侵攻を受けたため、Aの行の区画からMBが現れている。そしてプレイヤーの拠点である基地はH-10にあるため、序盤は基地周辺で長距離射撃を行って大雑把に数を減らし、ある程度近づいてきたところで格闘戦に移行する流れだ。そこで押し切れば残党掃討戦に変わり、押し負ければ拠点を破壊されるまで防衛戦が続くのだ。

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