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 『コカトリス』、ゲーム内でメタルバグ研究所(以下、MB研)と呼ばれる組織が所有する兵器で、速乾性のセメントを噴射し相手の動きを阻害する事が出来る非破壊兵器を指す。MB研の発行するMB捕獲のミッションを受ける事で、手榴弾3つ分の『コカトリス』が支給される。そして、このミッションで使い切らずに余らせると、残りの分を入手できる。ちなみに使用せずに失敗して入手しようとすると回収されてしまう。またこのミッションで余らせるのは難しく慣れが――(攻略サイトより抜粋)



『……コカトリスとは、あのコカトリスでいいのか?』

『MB研のコカトリスであってるぜ』

『100とは?』

『100発分って意味だ。分かりやすくていいだろ?』

『それは中々マz……凄いな』

『ちなみに本邦初公開! 出来立てのピッカピカだ!』

『大丈夫なのか? それは』


 アルファ1と会話しつつ、シャトル向かていたバードンは、搭乗口の近くに着くなりヘカトンケイルを起動した。そして右腕に現れたのが、レールに挟まれた機体よりも大きなミサイルだった。左腕には各種センサーやアンテナの集合体が現れ、せわしなく動いていた。

 機体をかがませ、噴射口を下にして地面に設置させると、左腕が集めたデータが次々と入力され、スクラップゾンビをロックオンする。


『中身以外は市販品だから大丈夫だろっと、準備完了。時間も無いしいくぞ発射』


 残りの時間もわずかな事もあり、バードンは急いで発射する。白煙と轟音をあげコカトリス100は弧を描き上空へ飛び立った。


『よし! 撤収だ! 船に向かえ! 殿は俺が務める!』


 アルファ1は、バードンの突然の発射発言に若干驚きつつも指示を出す。

 削りを行っていた機体は指示に従い、スクラップゾンビから離れシャトルに向けて走り出した。

 残ったのはヘイトを持っているアルファ1とそのサポートをしているデルタ2だった。


『殿と言ったが、アルファ1何か策があるのか? それとも素晴らしき自己犠牲の精神か?』

『そんな大それたものじゃない、逃げる手立てはあるのさ。コイツはイジェクト・コア搭載機だからな、足には自信がある。それにタゲを維持しておかないと、あのデカブツミサイルが途中で落とされたら元も子もないだろ。なに、コカトリス無くても元々その予定だったさ』


 イジェクト・コアとはギアフレームに搭載可能な装備で、コックピットに移動能力を持たせた脱出装置の総称である。


『手だてがあるのなら問題は無い。脱出機か……、いいな。んじゃお先に、無理すんなよ!』


 アルファ1の答に納得したのか、デルタ2はそう言うと、マラソンルートから外れシャトルに向かって去っていった。

 アルファ1一人になり、残弾を気にすることなく撃ち尽くす勢いで弾をばら撒くと、レーダーに映ったミサイルの位置を確認する。思っていたより近くにミサイルは来ていた。斜め上からスクラップゾンビの側面に突き刺さるコースだ。ヘイトも確保し撃ち落とされる事もほぼ無いと確信したアルファ1は、コックピット内のシート脇のレバーをロックを外し一気に引き上げる。バックパックのブースターが一気に全開になると、バックパックとコックピットは、機体を置いて上空へ飛び立ち、戦闘機の様に見えなくもない形に変形すると、そのままシャトルの方へ一気に飛び出した。残された機体は地面に激突し地面を削り止まった。後ろに迫ったスクラップゾンビが踏み潰そうとした瞬間、響き渡る轟音と灰色の煙に一帯は包まれていった。


 一方、バードン、ソルダ、アーネットのブラボーチームは既にシャトルに乗り込んでいた。そして次々と機体が戻って来てはシャトル内のハンガーに収まり固定されていった。

「煙が凄くて見えねぇが、こりゃ当たったな」

「レーダー的には最後交差してたしな。当たったさ。完成して早々に日の目見てそれが有効打とか最高だ。用意した甲斐があるってもんだよ、クリア後のリプレイ動画が楽しみだ」

「アタシは、もうちょい活躍の場が欲しかったねぇ」

「仕方ねぇさ、今回はこいつのお守りが役目だったんだ」

「ほら燃料の遠投とかあったじゃん?」


 バードン達がやれることは終わったと、まったり会話をしている所にグループ回線が入る。


『こちらアルファ1! 直接着艦は無理なんで近くに不時着する! 誰か運んでくれ!』

『おいおい、凄い勢いで抜き去っていったのに停まれないのか』

『まかせろ、丁度シャトルの前だ。乗っけてやるから近くで停まれよ!?』

『頼んだ! 善処する! 平らな土地が無ければ着陸は無理だ!』


 切羽詰まったアルファ1に追い抜かれたデルタ2、シャトルにたどり着いたチャーリー1が反応する。

 アルファ1は、速度を落としランディングギアを出し着陸に挑戦するも、でこぼこの地面に弾かれバウンドし、ランディングギアは折れ、そのまま胴体着陸し地面を削りながらシャトルを100メートルほど過ぎたあたりで停止した。すぐさまチャーリー1が追いかけ回収するとシャトルに乗り込み、全員の搭乗を確認するとシャトルはロケットに点火、タイムリミットまで残り20秒という所で離陸した。


『ぼくにはまだかえるばしょがあったんだ……』


 飛び立つシャトルの中でアルファ1はぽつりとつぶやき、まわりから突っ込まれるのであった。


「よくぞ戻った! さあ! 可及的速やかにギガヤンマの頭部を提出するのだ! 早く! 早く! 急げ! 走れ!」


 デナリに着くと、そこにはハイテンションにまくし立てるノギヤ所長が待っていた。待ちきれずにシャトルで上がってきたようだ。

 バードンは急かされながらシャトルから機体を下ろし、格納庫内の空いているエリアに移動する。他のメンツも集まり、皆の前でヘカトンケイルを起動させ、G.H.Hを取り出した。そして、両腕を切り離しすと、G.H.Hは無重力のため宙に浮かんだ。すかさずノギヤ所長はギガヤンマの頭に飛びつくと、牽引車に引掛けられG.H.Hごと去っていった。


「てか何か一言あってもよくね? こう……ねぎらいの言葉的なヤツ」


 呆れたソルダのツッコみから始まり、周りも騒ぎ出す。


「それよりなんで所長いるの?」

「待ちきれなかったんじゃね?」

「ほおずりしてたぞ」

「マジか」

「あっ、クリアになってる」

「ホントだ、え? なに? ここで解散?」

「マジかーどうやって降りんだ?」

「とりあえず落ちるわ、おつー」

「お疲れ様~」


 そしてミッションがクリアされた事に気が付いた面々は解散し、去っていった。

 さらにその2時間後にデナリは、一番艦と二番艦と正三角形をつくる位置に着陸し、バードン達はそこでやっと船から解放されるのだった。



 降下作戦により最後のギガヤンマが倒され、大型イベント「敵飛翔体発射施設を破壊せよ」は終了した。

 最後のギガヤンマに向けて正面から攻略を進めていたプレイヤーの中には、今回の降下ミッションに対して文句を言う者も現れたが、3番艦ナデリの到来によりもたらされた技術ツリーという大きな話題の前にかき消されてしまった。

 そしていつものクランハンガーエリア内の1つ、銀色の盃が描かれた扉の先に舞台は移る。

 バードンとソルダはハンガーにあるソファーでだらけていた。


「なー、この間の報酬なんに決めた?」


 2人は今回のミッションの報酬のカタログをタブレット端末で眺めていた。ゲーム内通貨から今まで発売されてきた技研の商品、そして目玉は今回のミッションの成功によって作成された物も載っていた。


「まだ決定はしないけど『ノギヤ粒子砲』一択だな、初期ロットとかどんなヤラカシが残っているのか楽しみでしょうがない」

「わかる。ノギヤエンジンの初期ロットとかプレ値ついてるもんなそして『収束加速砲』な、ノギヤ粒子使ってないだろ」


 バードンが『ノギヤ粒子砲』と呼ぶそれはカタログには『収束加速砲』という名前で載っており、さすがにノギヤ粒子をばら撒くのは宜しく無いということで、新たに作られた専用のエネルギー粒子を装填し運用する形となった。


「売るなら買うぞ?」

「売らねぇよ、背中に担ぐんだから」

「くれよ! 1個じゃ片腕しか作れないんだよ! 2個ないと両腕揃わないんだよシンメトリーにならないんだ! 美しくないだろ!?」

「知るかそんなの、加速器を背負って両腕をそこに接続とかすりゃイイんじゃねぇの?」


 ウザ絡みするバードンにソルダが面倒くさそうに答える。


「ん~……採用、それでいこう。片腕それぞれで100%で撃てないのは残念だがそれは量産品でもいいしな」


 それだ、という顔で何かを思いついたバードンは、カタログの映っていたタブレット操作し報酬を決めると放り出し、壁の大型ディスプレイに世界地図を映し出す。


「次は防衛戦にでも行こうぜ、マイナーな所なら激戦でたのしそうだ」

「いいぜ、どこにする?」


 そう言い、何か所かピックアップして次の戦場を決めるのだった。

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