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 バードン達の読みは当たっていた。

 各機射出後、プレイヤー達は降下ポッドの再点火を確認した後、一斉にミサイルをばら撒いた。そして、バードンもミサイルコンテナ型の両腕からミサイルを撃ち尽くすと次の腕に換装を始めていた。

 撃ち出したミサイルが豆粒になった頃、降下ポッドBが爆散した。ギガヤンマからの対空砲撃が始まった。それと同時に3番艦ナデリの観測室からのサポートが入り弾道予測エリアがレーダー内に表示され、バードン達は避ゲーに強制参加させられるのであった。

 その後、何発か外すも降下ポッドCを破壊し、砲撃がいったん止まる。ナデリによる解析の結果、砲身を変形させ角度をずらし翅をいつも以上に大きく赤くらんらんと輝かせているギガヤンマの姿が確認されたとの事だった。

 ほどなくして、太い赤く光る柱が空に現れた。その光はギガヤンマから伸びており、砲身をゆっくりと振りバードン達を赤い光に飲み込むのだった。

 それは大量のノギヤ粒子による薙ぎ払い攻撃だった。そしてバードン達にはさほどダメージは無かった。もっとも高度が低ければ違ったのかも知れないが、これはそもそもプレイヤー達を狙った攻撃ではなく、最初にばら撒かれたミサイルを打ち落とすための攻撃だったのだ。

 これによりほとんどのミサイルが撃墜。残ったミサイルもノギヤ粒子がばら撒かれたことで、活性化したMBによって撃ち落とされていった。だがいい事もあった。これにより破損したのか、ギガヤンマの対空砲撃は止まった。

 残った降下ポッドA、Dは、それぞれ活性化した飛行型MBによる体当たり攻撃を受けていた。ただでさえ装甲の薄い飛行型MBは体当たりをするも、逆に当たり負けて弾かれてしまい次々と墜落していく。が、中には降下ポッドに取りつく物も現れ初め、徐々に増えていくと遂にはMBによる蜂玉の様になり、降下ポッドAは制御不能に陥り自爆した。

 最後に残った降下ポッドDも似たような状態に陥るも、MBが取りついて来た下部分がもげて分離。残った上部分は一気に加速するとMBを巻き込みながら地表に激突したのだった。



 その衝撃波は凄かった。


「さっきのヤバかったな、一瞬だがシートに押し付けられたぞ」

「それだけ衝撃が強かったってことさね、そっちの機体の様子はどうだい」

「シールドさまさまだ。あれのおかげでほとんどダメージは無い」

「な、最初足固定されるからヤだなって思ってたが、飛んでくる破片は弾くし今回の衝撃波も防いだ。すげぇなコレ」


 プレイヤーの機体は、足元で固定された円錐状の盾の上に乗った状態で降下ポッドから射出されていた。


「何言ってんだい、そもそもエアロシェルはその為に付けてたんだよ、渡された資料みてないね?」

「え? そんなカッコイイ名前あったのか。てか誰かさんが指を曲げてくれたおかげでよくよめなかったんですぅー」

「あ゛?!」

「いえ何でもありません、これ外してイイノカナー?」


 わざとらしく話を逸らすソルダ。そこにナデリの観測室からグループ回線で入って来た。


『おめでとうございます。こちらの観測結果によりますと、降下ポッドの衝突により戦闘エリア内のMBの9割が消失。ギガヤンマも砲身及び胴体部分半分の消失を確認しました』


 この通信に対し素直に喜ぶ者、降下強襲の強襲部分がなくて残念がる者、様々な声が各種回線を飛び交った、そして誰かがボソッと言った。


「これってスクラップゾンビ案件じゃね?」


 誰かが言った一言。それがグループ回線で全員に伝わり一瞬静まり返り、再びざわめく。

「こちらアルファ1、全機スクラップゾンビ出現を想定して纏まって動くぞ。まずギガヤンマの首を落とす」

 全機が返事を返すと、バードン達は巻き上げられた土煙を抜け、様変わりしていた地表を目の当たりにした。MB勢力範囲の特徴である金属の銀世界が一変、土の地肌をむき出しにした荒れ地となっていたのだ。


「バードン、そろそろ」

「わかってる」


 ギルの声に被せ気味にバードンは答えるとシート脇のレバーを引き上げる。しばらくすると軽い衝撃と共にシートに押し付けられた。


「パラシュートの展開を確認、問題ありません」

「なぁギル、今のうちに腕替えとくか」


 バードンの軽口に諫める様にギルが返す。


「敵勢力が無くなったわけではありません。少数ですが生き残りがいますので危険です。それにスクラップゾンビが出現した場合は迎撃されるおそれもあります。御一考を」

「それもそうか、とりあえずギガヤンマの方に向かう」


 バードンはスラスターを吹かすとギガヤンマの方へ舵を切った。


「スクラップゾンビかー懐かしいな、お前らやったことある?」


 チーム回線で聞いてきたソルダの問いに対する二人の答えは「Yes」だった。


「そっかーんで、話は変わるがバードンのその腕大丈夫なのか?」

「あたしも気にはなってたのさ、ミサイル撃った後に交換してたのは見てたんだけど……それ壊れてるよね?」

「……だいじょばない。これは爆撃用の腕武器「元です」……元爆撃用の武器腕なんだ。作ってから中々使う機会に恵まれず、あっても水泳部の奴らの訓練に付き合って2回ほどしかなかった」


 バードンは途中ギルに訂正されるも滔々と語り始めた。


「今回は爆雷ではなく爆弾の投下。しかも上空から、待ちに待った本来の使い方を実戦で披露できる大舞台。話を聞いて直ぐに弾倉の拡張し爆弾のサイズを大型化、爆発力に特化した改造に作り直したのさ。そして作戦通りミサイルを撃ち終え、腕を換装。準備は万端。後は適切な高さまで高度が落ちるのを待つだけだった。そこに来たのがあの忌々しきノギヤ粒子砲。俺達には大した被害は出なかったとされるアレだが、実は盾の外にはみ出していた爆弾投下用のレールには当たっていたんだ。若干曲がった。だが投下出来ないレベルのダメージではなかった。そもそもピンポイントで狙う武器でもないしな。次が問題だった。何故俺はアレを想定出来てなかったのだろう。大質量を落とすんだ、衝撃波が来ない訳が無い。そして衝撃波は来た。レールの途中から吹き飛ぶならいい、残った部分から落とせば良いだけだから。だが実際は折れ曲がった。上に向かって、そりゃ下から衝撃波が来たんだ上に曲がるさ。だがそれでは爆弾が落とせない何故ならレールに詰まるから! こうして爆撃用武器腕『B9-2』は役目を果たす事無く両腕にぶら下がっているのさ。フッ、今思えば改造が全ての始まりだった。あの時に気づいていれば、こんな事にはならなっかた」

「え!? お前アレを粒子砲って呼んでんの!?」

「確かに粒子を撃ち出してはいるけどねぇ、出してるモノがモノだけに、実装されてもこっちじゃ使えないってのは困る」


 グダグダと語り自嘲気味に話をしめたバードンだったが、二人の反応はどこかズレていた。


「は?! そこ?! 喰いつくとこそこ?! もっとほらあるだろ、『折角のチャンス残念だったね』とか『B9-2の雄姿見たかったな』とか『壊れた姿も魅力的だよ』とかさあ! 俺は同意を求めてんの!」

「はいはい残念残念。んでソレどうすんだ? いつまでもぶら下げてはいられないだろ」

「ここまで近づいて1分の硬直とかちょっと危険だろ? MBもまだちらほら飛んでるしさ」


 求めた返しを得られなかったバードンは、数分前の自分の発言を棚に上げ、したり顔で返した。

 雑談に興じていると、メインカメラで遠くに捉えていた半壊したギガヤンマに異変がおこった。周囲の地面からもこもこと何かが噴き出すとギガヤンマを飲み込み、そのまま勢いを落とさず大きくなり、巨大な球体が出現したのだった。


『こちらアルファ1、見りゃわかる話だが一応伝える。ギガヤンマがスクラップゾンビの仲間入りをはたした。いったん距離を取って広いところに……って爆風でここら一帯荒野だな、そうだな……ここいらで準備をしておいてくれ。アルファ、チャーリ両チームはこのまま接近してギガヤンマの頭を探しつつコイツを釣る。状況開始!』


 全員アルファ1の指示に「了解」と返すと、ブラボー、デルタの両チームはアルファ1がマップにマーカー付けた場所に向かった。

 全身のスラスターをこまめに噴きながら速度を落とすとエアロシェルをソリのように使い地面を削りながらバードンは着地した。続いて軽い連続した破裂音を出すと機体上面に付けられたパラシュートの基部がパージされ、エアロシェルとのロックを解除する。16m近くある鋼鉄の巨人が大地に降り立ったのだった。


「とりあえずはー弾薬だな」


 広場の中心と外縁の中間地点に移動すると、バードンは機体を屈まさせ、両腕の爆弾の弾倉の底を地面に着けると、壊れた両腕をパージした。肩の根元から外された爆撃用の腕は歪んだレールを更に歪めながら地面に横たわる。続いて胴から伸びたヘカトンケイルの謎空間から細い虫の様な腕に支えられ両脇に現れたのが、長方形のコンテナに胴と接続する基部がついただけのパーツで、側面にペンキで「0.8」と書かれており端にシャッターが付いていた。バードンは腕の接続が終わりヘカトンケイルを収納すると、少し進んだ所で足を止め、両腕を再びパージする。そしてまた進むとヘカトンケイルを起動させた。

 バードンが次の腕を選んでいると、気になったのかソルダがコンテナに近づきいじり始める。


「自販機じゃん! てか前線価格(割り増し)じゃないじゃん?!」

「まかせろ、驚きの定価だ。感謝感激してくれてもいいんだぜ? これだって安いもんじゃないが、あんなのが出てきたんだ。必要経費って事で依頼主に請求さ。凄いぞ8割がたの弾の種類に対応かつ大容量! 市販品比約1.5倍という自慢の逸品だ」


 ドヤ顔で講釈たれるバードンをよそにアーネットも近づき操作を始める。


「どれどれ、……火炎放射器の燃料が無いじゃないか!」

「大丈夫だ標準サイズのタンクなら別の腕にある」

「あるの?! でもありがと。大丈夫さ、ほら」


 アーネットは背中を向けると、背面の左右のハードポイントにはそれぞれ大型の燃料タンクが装備されていた。


「んじゃなんで言ったんだよ」


 ソルダが突っ込むと、


「……8割対応って言ったから何となく」


 すこしバツを悪そうに答えた。


「「ええ……」」


 バードンが2回目のコンテナをパージしようと設置場所に移動しているとグループ回線に通信が入った。


『こちらアルファ1、スクラップゾンビが動き出した。ギガヤンマの頭部は正面上部に確認、攻撃の際には気を付けてくれ』


 各機の返事も終わりきる前に、アルファ、チャーリーの両チームがバードン達の方へ近づいてくる。それを追う様に地響きと共に砂埃を巻き上げながら巨大な鈍色の芋虫が現れた。全身を壊れたMBで覆われ、そのMBの兵装等が体の表面から四方八方に飛び出しワシャワシャとうごめいていた。

 グループ回線に通信が入る。


『チャーリー1だ。今ヘイトはチャーリー3が取っている。戦ったことない奴も居るだろうから、軽く説明するぞ。コイツの武器は巨大なボディによる突進と材料にしたMBの武装で、見ての通り全方位に攻撃が可能だから気を付けてくれ。倒しい方は至って単純、コアを壊せばいい。もう見た目からしてコア、赤くて丸い。見つけたら優先して攻撃してほしい。が、このコアは体内を動き回る上に表面には出てこない。運任せて攻撃してもいいが、まず当たらない。よって今回はタゲとってマラソン、スクラップゾンビが伸びきった所で、集中攻撃で頭の方を短めに切断。あとヘイト取った奴はマラソン役交代でいこう。最後は引き離して足止めからの、ダッシュで回収艇に乗り込む。パッと思いつくのはこの位か』


 通信用の画面に簡易的なスクラップゾンビのイラストが表示され、前から1/3の位置に縦に線が引かれた。そしてチャーリー1は続ける。


『頭の方にコアが残ったらギガヤンマの頭に注意しつつ攻撃、後ろの方にコアが残ったらチャーリー、デルタでマラソンンを続行。アルファ、ブラボーは切り落とした部位からギガヤンマの頭部の回収に入る。経験則上デカイ方にコアが残る率が高い。そのつもりで動いてくれ』


 スクラップゾンビの敵意を引いた機体が、スクラップゾンビを引き連れて戦闘エリアを大きく円を描くように周回し、残りが内側に陣取り側面から攻撃をするという作戦だ。もし別の機体が敵の注意を引いてしまった場合はその機体が先導役になる。無論、先導役は敵意を切らさないように攻撃をしながら移動する。

 チャーリー1の話が終わると次々と「了解」と返事が入る。そして途切れたタイミングでバードンがグループ回線で話し始める。


『ブラボー2だ。まず今俺の居る位置に弾薬補給の自販機を設置した。特殊な弾じゃない限り補給は可能だ。喜べ定価でのご奉仕だ』


 バードンの話に「タダにしろー(ソルダ)」などのヤジもあったが概ね好評だった。なにせこのゲーム、前線価格なるものが存在する。ワープなんてものが無いし無限インベントリなんて物もないので、物資の輸送にはそれなり手間と時間がかかるからだ。そしてバードンはマップにマーカーを設置し、話を続ける。


『そしてココに48発の爆弾が入った武器腕が置いてある。接触起爆式だが安全装置はまだかかっているから持ち運びは可能だ。んで、コイツをスクラップゾンビに踏ませればそれなりのダメージが与えられるはずだ』

『こちらデルタ3、そいつは魅力的だ。足元に落とせば良いのか?』

『安全装置がかかっているとは言え、強すぎる衝撃は避けたい。更に言えば安全装置の解除に2~3秒かかるからそれを見越した位置に置いて欲しい」

「デルタ3了解。ならソレは俺たちが置いてこよう。それとなぜ上でソレを使わなかたのか聞いても?』

『ああそれはk『こんな事もあろうかと!』』


 ソルダが答えようとしたがバードンが強引に上から被せた。ソルダが何か言ったのが気になったのかデルタ3が聞き返したが、食い気味に再びバードンが「こんな事もあろうかと!!」と被せ、何かを察したのかデルタ3は、次の話に移行した。


『……ではアルファチームはマラソンのルートをマップに書いてくれないか? ある程度の余裕をもたせたルート上に設置する』

『アルファ1了解。ポイントを指定した。デルタチームは向かてくれ。そして手順はスクラップゾンビが爆弾を踏んだら、その箇所から縦の範囲を集中的に攻撃、切断、その後はさっき話した通りだ』


 全員の「了解」の声の後に、デルタチームは爆弾の武器腕を回収すると、指定されたポイントに向けて飛び出していった。バードンは再びヘカトンケイルを起動させ、新しい腕を取り出した。


『デルタ3、指定ポイントに爆弾の設置完了、そっちに戻る』

『ブラボー2了解。安全装置を解除』


 設置の知らせを聞いたバードンは、手を伸ばしコックピットの側壁にあるプラスチックケースの蓋を指ではね上げると、中のツマミを

押しながら90度回した。


「安全装置解除信号の発信を確認……解除完了を確認しました」

『ブラボー2、安全装置の解除を確認、準備完了だ』


 ギルのアナウンスを確認し、バードンがそれを周りに伝えた。


「チャーリー3了解、こっちは間もなく通過する…………踏むぞ!」

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