1 5/8

 シャトル内では各チーム交えて情報交換や手順の確認をしていた。時間が足りなかったのだ。説明不足な上に準備時間が1時間は短かった。

 まず全体の役割分担としては、Aチームは、接近戦主体の機体で構成されており、ギガヤンマの頭を落とす役割を与えられていた。バードン達Bチームは、ギガヤンマの頭回収およびサポート係。残るC、Dチームは戦闘全般担当とされていた。そして全機に特殊な通信機が追加で装備され、高濃度のノギヤ粒子下での長距離通信を可能としていた。

 そして、シャトル内で「大気圏突破ごっこ」を楽しんだバードン達は、3番艦デナリに無事着艦したのだった。

 無重力艦内のお約束『動く手すり』で盛り上がり、時間を浪費するもせかされ、降下ポッドの格納庫に着いた。外壁が外された4機の降下ポッドが並び、その中に置かれた円形の壇上に、重装備のギアフレームが3機づつ背中を向けあって格納されている。その姿は見るものを圧倒し、なにかくるものがあった。そして好きモノの彼らは歓声をあげSS(スクリーンショット)を撮りまくるのだった。ちなみにSSの撮り方は、その機能を持たせた物を使用して行う。バードンは板状の携帯電話端末にSS機能を持たせており、ソルダは専用のカメラ一式(レンズや三脚等、各種オプション有)を使っている。


 周りの機体をSSに収めつつ、ソルダがバードンに話しかけた。


「事前での取り決めでわかってたとは言え、中々ゴツイな」

「ハードポイントが空いてたら、とりあえずミサイルを装備しろってヤツだろ? 成功率を上げる為だから仕方ない」

「見ろよどいつもこいつもどう見ても重量過多だ。ブッパ後即パージとは言えなぁ」

「人の事言えた義理じゃないだろ」


 バードンは親指をたてクイッとある方向を指す。背中に2本のキャノン砲を装備した機体があった。そして両脚の側面と肩アーマーの両端、腰のサイドアーマーにはミサイルコンテナを括り付けられていた。

 バードンの指さす方へカメラを構えたままのソルダが振り向く。


「ヒュー♪ なんてイケメンな機体だ! さぞご高名なライダーの物に違いない」

「アンタのだろ、ったく相変わらずアンタのは見た目詐欺だねぇ、パッと見は初期機体なのにさ」

「カッコイイだろ?」


 ソルダの機体、「スクタリ改」の外見はこのゲームでプレイヤーが最初に手に入れる機体「スクタリ」に似ていた、ソルダがその外見を気に入っており、見た目は「スクタリ」に追加装備を付けた様な姿をしていた。しかし装甲、フレーム、各内部パーツは最新の上位グレードの物を使用しており、見た目初期機体の最新マッスィーンとなっていた。ちなみにギアフレームのパイロットはライダー、タイタンフレームのパイロットはアクターと呼ばれている。

 カメラを構えたままソルダは降下ポッドに沿って進んでいく。「スクタリ改」の右側には、肩と腿が大きく膨らんだオレンジと水色の機体がいた。右手には細長い筒状の銃があり、銃身と右肩パーツは太いチューブで繋がっていた。左手には大型の四角いライフルがあり、これも暖帯が銃身から左肩に向かって伸びていた。そして他の機体と同じく空いているハードポイントにはミサイルコンテナがついていた。


「姐さんのは火炎放射器と……左手の何? 口径デカイけど」

「フルオートショットガンさ480発いける」

「わぉ、詰まりそう」

「そんときゃ、鈍器だね」


 その更に右隣、「スクタリ改」の左側には、左右の腕それぞれに異なる大型のミサイルコンテナを生やした機体がいた。バードンの機体「コットス」だ。他に漏れずミサイルコンテが付いている。


「こいつは前に見たことあるな、ニンジンとゴボウか」

「八百屋でも始めるのかぃ?」

「プレイヤーメイドのパーツで、ニンジンもゴボウも正式な商品名なんだ。それぞれミサイルがそんなような色形をしているから分かりやすいといえばわかりやすいんだけどな、ちなみにニンジンが小型ミサイルであの中に48発入ってる。全弾一斉発射がウリだ。ゴボウは4発のバンカーバスターで弾速がかなり速い」

「弾薬費が怖いねぇ……って今回アチラさん持ちだったね」

「『弾薬費で手を抜かれたらかなわん、武器弾薬費はもつ』とか所長が言ってたな」

「周りのスタッフたちギョッとしてたけどな、きっとあれ所長が勝手に言ったって感じだぜ」

「一応確認したら、ミッションの説明に追記されてた」

「その結果が、このミサイルコンテナ作戦だからねぇ」


 カメラから顔を離すとソルダが自機の足元にある円柱状の台座を指さした。


「なぁ、あの足元の円盤が大気圏突入用の装備か、ひっくり返んねぇの?」

「一応鈍い角度がついた円錐になっているのと、それなりに重たいから平気らしい」

「へー、あとアレってバリュート?」

「どうだろうな、もっと柔らかいイメージだけど、……バリュートってバルーンとパラシュートをくっつけて出来てるかららしいぞ、知らんけど」

「どっちだよ!?」

「うるおぼえって事だよ」

「んー少なくとも繊維系じゃねぇしなぁ、無難にシールドでいいいか」

「シールドが開かない!!……」


 そんな話をしつつ他の周りの機体をSSを撮ったりしながら見てまわっていた。


 しばらくし、館内放送でせかされると各プレイヤーはそれぞれ機体に乗り込み最終チェックを済ませると、降下ポッドに外装が取り付けられていく。


「なーお前らポッドから飛び出す時なんて言う?」


 チェックを終え暇なのか、そんな事をチーム回線でソルダが言い出し、続ける。


「俺はさぁ『レッツ!! パァリィィィイ!!』が良いと思うんだよ」

「あれかぃ? 東北筆頭」

「違うな、そのイントネーションは……大統領王のマイコゥだな」


 それぞれ別のゲームの主人公を答える二人に対しソルダの返答に若干溜めてソルダが変えす。


「バードン正解」

「ウェーィ」

「あーはいはいアレね、みんなで言うの?」

「んーハモって言うのも何か違うかー。大統領王は常に1人って言ってたからな。やっぱ俺だけで言うぜ」


 勝手な事を言うソルダに呆れつつアーネットが別の案を出す。


「何だいそりゃ、ならあたしは『清き静穏なる世界の為に』を推すね」

 アーネットの案に何か触れるものがあったのか、急にテンションが上がったソルダは、ドリルかな? という速さで手のひらを反し話にのっかるとバードンに振る。

「おーダンデスの冒頭の奴か、シチュエーションも似てっしいいな! バードンは何かあっか?」

「いいと思う。一応『任務了解』とか思い浮かんだが、アレ自爆の時も言ってたなーってなって特にない」

「なら姐さんので行こう、あれならハモってもずれてもかっこいいからな」

「いやまて、ハモる前に誰かが言った後に続くほうがいい」


 纏めようとするソルダに待ったをかけ、バードンは続ける。


「いいか、まず1人が『清き静穏なる世界の為に』と言いそれに続いて残りが続く。こっちの方がよりっぽいだろ?」

「たしかに。なら姐さんに音頭を取ってもらおう。言い出しっぺだしな」

「あたしゃかまわないよ。ふふ楽しくなってきたねぇ」

 こうした射出時の掛け声問題は、各チーム内でも行われていたのだった。


「作戦宙域に到着しました。これより降下ポッドの射出作業に入ります。作業員は速やかに退出してください。作戦宙域に到着しました。これより──」


 ビー、ビー、と警告音と共に館内放送が繰り返される。そして退出が終わったのか放送と警告音が止むと各ポッドが釣り上げられ、床が左右に別れ開いていく。眼下に広がるのは鈍く銀色に光を反射する大地、惑星レタだった。そして降下ポッドが次々と射出されていった。


「レタは銀色だった」

「そりゃMB勢力圏内だからねぇ」

「端の方見ろよ! 何となく茶と緑と青が見えんだろおお?!おぉぉぉぉ!!」


 降下ポッドにつけられた外部カメラの映像を見てつぶやいたバードンに、冷静に返すアーネットと興奮気味のソルダが続いたが最後は驚きの声に変っていた。ソルダが喋り終える寸前にカメラ映像のに赤いフィルターがかかり、強いGを感じ、大きな揺れが起こったからだった。


「ぬんーーー」

「あーっはっはっはっは」

「おおおおぉぉぉぉ!!」

 三人は奇声をあげ、降下ポッドは作戦領域へ落ちていく。


 バードン達が奇声をあげたりすることに飽きてきたころ、グループ回線に通信が入って来た。


『こちらアルファ1、タイガーレイジだ。今回のグループリーダーをやらせてもらっている。早速だが最終確認だ。あと少しで作戦領域に突入しタイマーが起動する。ゲームスタートだ。って言っても、もうしばらく落下し続けるだけだがな。まず俺らの火力不足を補うために、今乗ってる降下ポッドを援護しなきゃならん』


 今回のギガヤンマ討伐ミッションの問題は時間と火力不足だった。

 今までの討伐記録から得た情報の一つに、『奇襲でギガヤンマと接触した場合、ミッション開始後30分経過で周囲のエリアから増援が現れる』と言うものがあった。四方のエリアから一気に来るため捌くことはほぼ不可能とされており、30分が奇襲作戦のタイムリミットとされていた。しかも、今回のミッションでは作戦エリア突入から約5分は降下に費やし、回収用シャトルが離着陸に10分を要するため、実質15分、シャトルを危険に晒しても25分以内に終わらせなければならなかった。

 これは技研側も把握していたようで対応策が用意されていた。

 それが、『各機体射出後の降下ポッドを質量兵器としてギガヤンマにぶつける』と言うものだった。もちろん直撃したらギガヤンマとといえど吹き飛んでしまう。それに対して、技研のシミュレートでは4機の降下ポッドは撃墜されるも破片が降り注ぎ、ギガヤンマやその周辺にダメージを与えるという結果を出した。

 これに対しプレイヤーは、『技研のシミュレート?』と眉をひそめ補強案を考えだしていた。『直撃はまずいけど、ぶつける位の準備をしないと届かないのでは?』『むしろ降下中にミサイルばら撒いて、当たれば儲けもんのデコイにしたらどうだ?』『それって撃ってパージすりゃいいから多少重量過多でもいけるな』等と言った話し合いのもと、『そういや弾代、技研持ちじゃね』の一言が決め手となり、ハードポイントに余裕がある者はミサイルを積んでいく方向で話が纏まった。

 やりすぎてギガヤンマの頭が吹き飛んでしまったら? と言う意見も出たが、『火力が高すぎてミッションに失敗したが生還した場合、報酬無し+機体の修理費-回収した素材』と『火力が足りずに全滅した場合、報酬無し+機体全損』を比べると、生還>>|越えられない壁|>>全滅の図式となり反対意見は無くなった。もちろん『頭を回収し生還して報酬を受け取る』がベストなのは言うまでもない。


『ザ……ザザ……っと粒子濃度が上がって来たな。各機とも支給さザ……た通信機の電源の入れ忘れに注意しろよ。ザザ……次はそっちからの通信に切り替える。ザ……まずはフェイズ1だ。焦らずに行こうザザ……通信終わり!』


 通信を聞き終えるとバードンは、前面モニターの脇にあるスロットに固定された350ml缶ほどの円柱、ギルに声をかける。


「ギル」

「降下時からオンになってますよバードン」

「なら問題は無い」

「こちらブラボー1。そろそろだ、準備はいいか? って聞こえてんのか?」


 チーム回線にソルダの声が流れる。


「ブラボー3、聞こえてるよ。準備オーケーさ!」

「ブラボー2、こっちも問題ない。いつでも行ける」

「おっけオッケー、まぁこっちが良くても射出まではシャトル任せだかんな、って上部ハッチが開いたな。んじゃいくぜ」

「清き静穏なる世界の為に!」


 アーネットの掛け声にバードンとソルダが続く。


「「清き静穏なる世界の為に!!」ッフォーーー!!」


 3人は大空に飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る