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 アンカーポイントの外延部にある大型空港、そこにあるシャトル用の大型ハンガーの一つに男達は集められていた。

 様々な装備に身を固めたギアフレームが並び、広く空けた所には小さな朝礼台と人影があった。

 そこには異様にテンションの低いバードンの姿があった。


「鬱だ……」

「おいおいまだ始まってもいねぇのにどしたよ?」

「確認せず即答した俺も悪い事は理解している。だがこれは無い、技研のミッションって! なんか爆発するじゃないですかヤダー! ヘカトンケイル壊れたら貯金吹っ飛ぶわ」

「でも一回は耐えれんだろ?」

「そういう問題じゃなぁない。しかもこれ……」


 バードンは周りを見渡し続ける。


「……11、12、って少なくね?」

「そこそこ名前の売れてる奴も……まぁ居るが、いくら情報が出そろってきたとはいえ、タイタンズの15機と比べるとなぁ」

「あっちは同じクランで連携バッチシってのもデカイ。こっちはクランエンブレム見るに全然揃って無い。しいて言えば俺らが同じって位か」

「なんか策位あるんだろ? でなきゃ、カネをドブに捨てるってもんだ」

「……技研の策」

「大丈夫だ、技研のパーツを使って無ければ問題は無いぜ……多分」

 集合場所に着いたバードンとソルダは集められたプレイヤーの少なさに不安を覚えた。そしてそれは他のプレイヤーも同じで周囲からは「少なくね?」「住人も参加するタイプか?」等が聞こえる。


 そんなざわめきを知ってか、壇上に一人の男が立った。年のころは40位、黒縁メガネに黒髪を後ろに撫でつけた髪、神経質そうな雰囲気を持ち細身で白衣を纏っていた。男は周囲を見回すと、白衣の襟の部分に付けたマイクをオンにすると話し始めた。


「今回は私が発案し依頼したミッションへの参加に感謝する。単刀直入に言おう。ギガヤンマの頭だ。私はギガヤンマの頭が欲しい。もう一度言いう、ギガヤンマの頭が欲しい。そう、君たち傭兵には日々のMB排除や素材確保など感謝はしている。だがこれはダメだ! 発見された8体のギガヤンマ、それももう残り1体。他にも居るかも知れないだろう。だが、居ないかも知れない。そして新しい個体が発見されるまで待ちたくもない。今! すぐ! 可及的速やかに私は欲しい! だいたい弱点だからと言って毎回律儀に破壊する必要があるのかね?! いやない! あるはずがない! そもそも君たちは頭部の重要性を分かっていない。今まで欠片程度しか手に入らなかったが、それでもあの砲撃を制御しているというのは……ん? なんだ? ……ああ分かった」


 壇上の上で白熱し、早口でまくし立てている男に、後ろに控えていた別の白衣の男が小走りで近づき耳打ちをする。


「ん! んっん! すまないね、話がそれてしまった。それだけ頭部が重要だという事だ。故に今回のミッションの成功条件に『ギガヤンマの頭部の回収』という条件を付けさせてもらった。むろんそれに際して必要と思われる装備は用意した」


 ざわめく会場に男は眉をひそめる。一瞬話が止まったが、話は再び始まる。


「安心するといい。私とて世間の評判位は知っている。今回はどうしても欲しいのだ。実用試験とそれに伴う改修は済んでいる」


 再びざわめき「毎回やれよ」など小声で聞こえてくる。それにカチンと来たのか言に熱が帯びてくる。


「……そもそもだ、我々は研究者であって開発者ではない。調べ、見つけ、解明するのが仕事だ。なーのーにーだ! やれ安定しないだの爆発するだのお門違いも甚だしい! そんな事はもっと暇な奴にやら……ああ、ああ、分かっている」


 少し前に耳打ちした男がまだ近くに控えており、脱線した男の話を止めた。そして何事もなかったかのように話が再開する。


「では、簡単に流れの話をさせてもらう。君たちはこの説明会の後、約2時間後に輸送シャトルに乗ってもらう、そのまま宇宙に上がってもらい、衛星軌道上で待機している移民船3番艦デナリと合流してもらう。あいつらと来たら足元を見おって、くだらん交渉事を押しつけた挙句に技術提携まで、まぁ奴らが星間航行中に培った技術に興味が無いと言えば嘘になるが、我々の技術と対価が取れているか言えば実に怪しい。そもそも……」


 今回の技術提携云々の話は研究所の総意なのか別の白衣の男もうなずくばかりで話の脱線を止めない。

 そして、急に出てきたデナリの情報にざわめく会場。1番艦エベレストと2番艦エルブルスは着陸し、それぞれ首都機能の中心として機能している。周辺には街並みが広がりデナリが着陸するスペースなんてものは近くに無い。いったいどこに着陸するのだろうか。更に、航行中に移民船はそれぞれ独自の技術を発展させていたという設定がある。エベレストはギア―フレーム、エルブルスはタイタンフレームの技術をもたらした。ならデナリは何をもたらすのだろうか、脱線する話をよそにバードンは次の追加要素に夢を含まらせていた。


 そんなこんなしているうちに唐突に話は終わる。


「……そう! 解らないから欲しいのではない! 我々は制御できているのだ。そう。ただ答え合わせをしてみたい。別段……、あーんん! そう、デナリには降下ポッドを用意してもらっている。君たちはそれに乗り降下、ギガヤンマの撃破を行ってもらう。詳しい手順は各DFに送っておくから、それを見て疑問質問があれば周囲のスタッフに聞いてほしい。……あー言い忘れていたが、私がノギヤ技術開発研究所所長のノギヤだ。では各自準備に入ってくれ」


 唐突に話が終わり二人はDFからタブレット端末にデータを送り詳細を見ながら愚痴っていた。


「ったく説明が下手糞な住人【AI】ってどうなんだよ。しかも所長だし」

「なー、俺は所長なんて初めて見たよ。肝心の内容がかなりおざなりだったな。終いにはDFに聞けって……最初からそれでよかったんじゃないのか?」

「言えてる。んで、あーっと……『本作戦は3人1チーム。計4チームで行います』っとんで俺は何チームかなぁーー……B-1ってこれか? Bチームか」

「多分それだと思う。俺のにはB-2って書いてあるし。てことは俺はブラボー・ツーって事か同じチームだな」


 一瞬の沈黙の後にソルダが神妙な面持ちで口を開く。


「まてまて『B』を『ビー』と『ブラボー』どっちで呼称するか論争が勃発しそうだ。ちなみに俺は『ブラボー』がいい」

「なんてこった! 俺もブラボー派なんだ! 争いなんて無かった」


 ピシガシグッグッをしつつ、残りを確認している所に一人の女性が近づいてきた。


「よっソルダ、来てくれてありがとう感謝するよ」

「いやこっちこそ感謝しまくりだ。まさかの宇宙から降下とはなぁ。楽しみでしかたない」

「そいつは良かった。で、こっちがBチームでいいのかい?」

「おいおいおいおい! 今なんつったぁ?『ビー』だよなぁ『ビー』! 『ビーチーム』なんてモンはここにはねぇんだぜ?! あるのは『ブラボーチーム』だけだぁー! アダダダダダダ!」


 指をさし、まくし立てるソルダに対し、その女性は差し出された人差し指を握りあげ、曲がらない方向に曲げる。ドーラはソルダの肩から飛び立つと離すようにとわめいていた。それをうっとうしそうに手で払いながら女性は尋ねた。


「一緒だろぅ? ここはBチームであっているのかい?」

「アダダダ! そっち曲がんない方向だから! あっハイ、Bチームですから指を離せよ! ください!」


 そこに爽やかイケボが入り込む。女性の後ろに控えていた大きな虎からだった。


「アーネット、まずは他のメンバーに挨拶をしませんか?」

「そうさ……そうね、こんにちはチームメンバーさん初めましてだね? 私はアーネット、ソルダとは『大砲愛好会』繋がりなの。そしてこっちのDFでアムールトラのダイン。よろしくね」

「DFのダインです。アーネット共々よろしくお願いします」


 ダインに促され自己紹介をするアーネット達、それにバードンが返す。


「これはご丁寧に、その指を掴まれてるヤツと同じクランのバードンです。こちらこそよろしく。あと口調は楽にしてくれ、そっちの方がこっちも気が楽だ。そして、こっちの腰にぶら下がっているのがDFのギル」

「よろしくお願いいたします。アーネット様、アイン様」


 挨拶を終えたアーネットとバードン。そして指を解放されたソルダ。Bチームが集まった所で、ミッションの確認を再開した。


「要するにだ、お前がギガヤンマの頭を回収係で俺らがその護衛って感じか」

「おう、俺を守れよー。報酬の有無に直結すっからな」

「そもそもどうやって回収すんさ、バードンに頼むって事はヘカトンケイルを使うんだろうけど、コンテナ型アームとかにいれるのかねぇ」

「ギガヤンマって何か大きさに個体差があるとかどっかで見たぞ。ってそういえばまだ受け取ってないな。ちょっくら聞いてくる」


 そう言うとバードンは技研の関係者と思われる住民に向かっていった。

 そして約10後にバードンは戻って来た。


「貰って来た。受け取り書にサインと説明の動画見て終わりとかちょっと怖いな」

「技研製とはいえ、一応イベントのキーアイテム扱いな訳だし、爆発はしないんじゃね」

「なんたるメタ発言」


 バードンの感想にニヤつきながら返すソルダ。そこにアーネットが興味津々な表情で質問を投げかける。


「で、何型だったんだぃ?」

「聞く? 聞いちゃう? ネタバレしちゃう? え?聞きたくない? でも言っちゃいまーす。こいつがな! あっ指は止めっつアッー!」

「だよな! お前だって知らないもんな。って言っていいのか?」


 ドヤ顔で答えるも再び指を曲げられ、絶叫をあげるソルダに突っ込みつつバードンが答える。


「かまわないよ、モノによっちゃぁこっちの装備を変える可能性も出てくる。言っとくれ」

「ん、んん! では発表します!」


 バードンは2人の前に立ち宣言すると、腰からギルを外し正面に持つ。するとギルからドラムロール音が再生された。


「ドルルルルルルルルルルゥ……ダン! ハンマー!」

「「ハンマー?」」


 ハードンの発言に2人は疑問で返した。


「そうギガント・ヘッド・ハンマー! だ。略してG.H.H! アレだな見せた方が早いな。説明の時にもらった動画あるから見よう」


 ハードンは、そういってタブレット端末を操作し動画を再生させた。


「あーなるほどね、ギガヤンマの頭込みで設計された武器って事か、何かに使えそうだな」

「初めてマジマジと換装シーン見たけど、結構時間かかるねぇ」

「そうか? あんな棒切れパーツ何種類も持ち歩きたくないぞ。あと時間なー出し入れ合わせて大体1分位、この長さが広まってチート云々騒ぐ奴は結構減ったんだよ」


 アクションゲームで戦闘中に1分無防備になるのはかなりリスクが大きく、戦闘エリア外に下がってしまえば簡易ハンガー(有料)があったりする。


「いたねぇ、そんな奴ら。あたしゃ聖剣のほうがよっぽどたちが悪いとおもうけどね」

「あっちはシンパ? 信者? が多いからなー」

「イケメンの話はよそうぜ、んで俺と姐さんに注意事項とかあるか?」


 ソルダが話を変える。


「そうだな……武器腕は控えて欲しい。さっきの動画でもやってたけど、持ち上げてるときの補助やってもらいたいからスケルトン持ってきてほしい。足元はアウトリガーやアンカーで固めるから、ひっくり返るとかそういうのは大丈夫だと思う。あと姐さん?」


 スケルトンとはギアフレームのコックピット内の装備の1つで、搭乗者の肩から指先にかけて装着する骨格フレームの様な物を指す。これを装着し起動させると、搭乗者の腕の動きに合わせてギアフレームを動かせるようになる。腕パーツの形状によっては動かせない範囲があるので、注意が必要である。


「スケルトンなオッケー、あと姐さんてのはアーネットのあだ名だ。響きが似てるしそんな感じだろ? それと、お前が思ってるほど武器腕メジャーじゃねぇからな」

「まぁそう呼ぶヤツも多いね、スケルトンね了解、こっちも普通の腕パーツだから問題なしだね」


 他のチームと作戦会議、各機体の調整で時間はあっというまに経ち、集められた一行はシャトルに乗せられ宇宙へと飛び立っていった。

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