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 タイタンズの撃破報告からリアルで1週間、──ゲーム内で4週間が過ぎ、8機いたギガヤンマも残すところ1機となっていた。


 人類の降り立った星レタ。そして降り立った地、アンカーポイント。ここは移民船団が降り立った場所で移民船を中心に街を形成し、この星における首都の役割を担っている。そこの外延部、クランハンガーエリア内の1つにある、銀色の盃が描かれた扉の先に男達は居た。


「ギガヤンマも残すとこ1機かー」

「あそこの抜け道は全部潰されてっから最後に回されたって話だぜ」

「あー、洞窟戦争は嫌な出来事だった」

「ンな事言ったって、俺らも参加してたじゃねーか」


 いやだいやだと肩をすくめるバードンに半笑いでソルダが返す。

 洞窟戦争──ギガヤンマへの抜け道を潰すために、一部のクランが企業を通じてそれは発行された。抜け道を伝ってMBが侵入してくるのを防ぐという名目での「洞窟の破壊」ミッション。

 これに反発したのが、この星の既に滅んでしまっている古代文明を研究する団体、先住先史古代文明研究学会だった。彼らは地下に埋もれた貴重な遺跡も破壊されると非難「洞窟の破壊阻止」といミッションを発行したのだ。

 ギアコンでは、同意の上で行わる対戦を除くプレイヤー同士の戦闘行為は、PKとして犯罪行為と扱われ、賞金首にされるなど規制されている。しかし、ミッション内容がかち合った者どうしで発生する戦闘は、ミッション上の敵対勢力として処理されるためPKとしてカウントされないのだ。

 本来なら「輸送トラックの護衛」と「輸送トラックの破壊」等、作戦時間は短く、人数も2~5対2~5程度ですぐ終わる小規模なものなのだが、今回は数と範囲が多く期限も長かった事、そして不特定多数で行われる対人戦に興味があり、それぞれの陣営の主張に興味は無くとも、対戦に興味のあり参加する者が多かった事から大規模に発展。そうして勃発したのが洞窟戦争と呼ばれるモノである。

 ちなみに両陣営に別れてさえいれば問題ないので、一部プレイヤーは作戦目標そっちのけで戦いに明け暮れる者もいた。

 最終的には、残ったギガヤンマへの抜け道が確実に潰されたエリア以外のギガヤンマが撃破された事で、「洞窟の破壊」ミッションが完了し終結した。


「もしかしたら遺跡を調べる事で何かファンタジーな技術が出てくるかもしれないだろ? それを壊すなんて、あぁなんと野蛮な」


 わざとらしい動きをつけ嘆いているバードンに、タブレット端末をいじりながら適当にソルダが返す。


「おいおぃ、目ん玉かっぴらいてよぉ~くお前の機体の横っ腹をよく見るんだな」


 バードンは自機の胴体側面に付いている円柱状パーツを眺め一言。


「かっこいいだろ!」


 バードンはドヤ顔のサムズアップで返した。


「はぁ~、それより聞いたか? タイタンズの貰った報酬のエネルギーブラッド濃縮装置ってやつ」


 エネルギーブラッド(EB)はタイタンフレームの燃料で、人で言う所の血液にあたる。全身に巡らせ、EBに溶けているエネルギー成分を消費し人工筋肉を動かす事でタイタンフレームは動く。今回タイタンズが手に入れた装置はEB内に溶かすことのできるエネルギー量を増やす装置、タイタンフレームの稼働時間を延ばす装置なのである。


「見た見た凄いなアレ、しかも改造可能なんだろ。どれだけ金が掛かるが分からないが、更に性能上がる。単体ギルドで撃破だからポイント総取りできたおかげで手に入ったらしいが」

「我らゴブレットも! って、3人しかいねぇうえに1人不定期ログインだからなぁ」

 ソルダは機体の並ぶハンガーを見る。1と書かれたハンガーにはバードンのコットス、2と書かれたハンガーにはソルダのスクタリ改、3と書かれたハンガーにはシートが被せられていた。

「たっつん居ても3機じゃ頭数が足りないな」

「地道にいこうぜ、全損とかお前がシャレになんねーだろうし」


 機体や装備は壊れると修理するまで使用不能になる。そしてバードンの機体に装備されているヘカトンケイルは修理費がとてもに高いのだ。

 何か思いついたようでバードンがニヤついた。


「あれだ、大量破壊兵器。クルセイダース方式だ」

「廃課金様と同じ手を使えってか? いくらかかったか知らねぇがアレもすごかったな。弾も高けりゃ使用権も高い。使用権買うのに課金ガチャ限定のレアアイテム複数必要とか、聞くだけで吐きそうだぜ。しかも住民の評価が下がるっておまけつき」


 ソルダはケケケっと笑って返したが、最終的には苦々しい顔をしていた。


「あいつらは住民の評価とか気にしないからな。だがまぁ動画は面白かった。あんなもんめったに見られないだろ。見た?」

「見た見た。大量破壊兵器連発しでギガヤンマとスクラップゾンビまとめて吹き飛ばしたやつだろ? スクラップゾンビって大量破壊兵器でイッパツなのな。アレか? 多段ヒット的な」

「アレでスクラップゾンビ潰せるなら制限ゆるくしてもいいのにな、制限の直接的な原因てスクラップゾンビなんだろ?」

「動画のテロップ信じるなら『最新型』の大量破壊兵器らしいかな。前とは威力も金額も違うんだろうぜ」

「……貧乏に負けたぁ~♪ってな」

「イツんだよ」


 大量破壊兵器はその名の通り大量に破壊する兵器の総称で、俗に言う「MAP兵器」である。既に何種類か存在し、プレイヤーが新たに開発すればその数は増えていく。使用するのにゲーム内外でコストがかかり、さらに使用するためにはプレイヤーのランクに制限まである。そして、使用したらしたで汚染物質をばら撒き、それの処理の費用まで請求される。これに加え、使うとプレイヤーの傭兵ランクが下がるという。使用時のデメリットととめんどくささから、使う者の少ない兵器である。

 しかしゲームのサービス開始直後は、必要な物はゲーム内の金銭のみで、その他のデメリットは存在せず、むしろNPCが積極的に使用していた。プレイヤーからも、そこそこお高いボム程度の扱いで使われていた。

 そこに新たな敵が現れはじめたのだ。大量破壊兵器でMBを大量に破壊した場合、破壊されたMBの残骸が集まり芋虫の様なMBが現れたのだ。その見た目から「スクラップゾンビ」と言われ、プレイヤー達はそれを面白がり、いかに巨大なスクラップゾンビを作り出すかという遊びがはやり始めた。そしていつしか作り出されたそれらは放置され始めた。

 なんせ残骸が素材なので硬くは無いが、素材になったMBの数だけHPバーをもっており非常にタフ。そして、ろくな素材が取れず、むしろ弾代の方が高くつくこともあった。

 放置されたそれ等は、集団で拠点に押し寄せ、いくつかの拠点は落とされたり被害が出てしまった。そんな事があり、使用に様々な制限がつけられる経緯となった。


 ちなみにクルセイダーズは、ミサイルタイプの大量破壊兵器を使用した。ギガヤンマ手前のエリアと巣で1発づつ撃ち込んで巣周辺のMBを一掃。巣や一部の離れた位置のMBは残ったものの、スクラップゾンビが出てくる前に突破、道中の敵は無視して一気に次のエリアへ。ギガヤンマに近づくと、1発をギガヤンマに発射。ギガヤンマは倒せず、さらに周囲のMBで出来たスクラップゾンビが発生。ここでさらにの2発を発射し、ギガヤンマとスクラップゾンビをまとめて破壊した。そして、悠々と帰路に就くも、最初に撃った時に発生したスクラップゾンビに遭遇し全滅。

 彼らも単独ギルドでクリアしたのでポイントは総取り、何を手に入れたかは言わないものの、ポイント総取りのリザルト画面は動画に載せていた。


「っひー! 何度見ても最期のトコ笑うわ『げぇっゾンビ!』っておま……ってわりぃ電話だ」


 話ついでにクルセイダーズの動画を見て笑っていると、お風呂が沸きそうなメロディが流れた。


 ソルダは動画を停止し、尻のポケットから棒状の端末を取り出すと、操作し耳と口に当てる。


「おう、この間はお互い災難だったな、イイモン見れてもあれじゃぁな、えっ?! ハハハ! ちげぇねぇ! んで何だ? あーあーイイねイイね、あーおう、聞いてみるからチト待っててくれ」


 そう言い端末から耳を離すと、ソルダはバードンに聞いた。


「降下強襲作戦やるらしいけどs「行く!!」」


 食い気味で答えるバードンに苦笑いのソルダは再び端末を耳に当てる。『降下』で『強襲』ロボ好きにはたまらない単語だ。


「行くってさ。んでいつ? はやっ。ああ多分平気だろ。んじゃ明日、おーじゃなー」


 端末をポケットに戻すとバードンに告げた。


「リアルの明日の昼12時からミーティングでその後に開始だってさ、今日はどうする?」


 少し考えるそぶりを見せ、バードンが答える。


「ん~日課やってから、軽く準備して落ちるわ」


 ここ最近バードンは「MB捕獲ミッション」を日に3つ用意されるデイリーミッションに当てていた。お目当ては、ミッション時に支給される「速乾性セメントスプレー:コカトリス」だ。これを使い切らずにクリアし、余ったコカトリスをコツコツと溜めていたのだった。

 ソルはアレ? っといった表情で聞き返す。


「日課って、この前やっと1本分集まった! って喜んでたじゃん、虫取りまだ続けてんの?」

「大型ミサイル作って思ったのさ、これ相当大型の敵相手じゃないとムダが多すぎるなって、だから次は小型の数をそろえようと」

「あのメンドクサイのをよくやるぜ。まぁいい、俺は先に落ちる。そのうち正式な依頼のメールが来るって言ってたぜ、じゃなー」


 そう言い放つとソルダはログアウトした。

 残ったバードンはデイリーミッションをこなし終えると、コットスの色を変えて遊んでいた。ヘカトンケイルに収めた多種多様な武器腕のおかげで、大抵の状況には対応できてしまうため準備と言ってもあまりする事がないのだ。

 そこにメールの着信。

 内容は先程ソルダが話していた。降下強襲作戦への依頼だった。時間や集合場所、簡単な作戦の概要に機体のレギュレーション等が書かれていた。だがバードンの目に留まったのは差出人の所だった。そこに記されていたのは『ノギヤ技術開発研究所』そう。このミッションは『技研』発行のものだったのだ。


「えぇ……」

 バードンは困惑していた。

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