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バードンがログインをし、私室から繋がったクランハンガーに向かうと既にそこには先客がいた。
細身で180を超える長身、茶髪のロン毛でややたれ目気味の優男が肩にオウムを乗せ大型モニター前に立っていた。デスペナ期間を終え、肉体を取り戻した男、ソルダだ。
「うぃーっす! 遅かったな。タイタンズがやったみたいで、ニュースはそればっかりだぜ。見たか?」
「リアルで見て急いでインしてきた所だ。記事の見出ししか見てないから中身はまだだな」
バードンたちが話をしているのは、現在進行中の大型イベント「敵飛翔体発射施設を破壊せよ」についてだった。このイベントは大型都市に向け、砲弾の代わりにMBが射出されてくるのを阻止する事を目的としている。前触れもなくMBが前線を飛び越え、拠点である大型都市に降り注ぐ事で始まったこのイベントは、現在射出予測地域が8か所あり、どれも前線から複数の敵拠点を挿んだ先に位置しているという所まで分かっていた。
先日バードンがインスタンスでおこぼれをもらった拠点も、そうした通り道にある拠点の一つであり、今二人が話題にしているのはその先にある目標をプレイヤーズクラン「タイタンズ」が破壊したと言うニュースだった。
「たしかもう1つ位は敵拠点エリアを挿んでたはずだったが、破壊したにしちゃぁ早すぎないか?」
「この間インスタンスで開放したエリアあったろ? あそこに抜け道となる洞窟があったらしいぜ。ってタイタンズのサイトに今回の動画が上がってるな、流石大手仕事がはえーはえ」
バードンの質問に答えつつ端末を操作していたソルダは、大型モニターに映るタイタンズの公式サイトを前に操作を始めた。
タイタンズとはタイタンフレームを使うクランの中では最大手であり、その名の通りタイタンフレームを使う者のみで構成されている。クラン内の上位実力者は、ゲーム内でも有名な者が多くクランの実力ランキングでもトップ3に名を連ねることが多い。別にタイタンフレーム至上主義とかそういうことは無いが、「ティ〇ーンズ」と呼ぶと機嫌を悪くる者は居る。
「お、あったこれだな」
ソルダは、サイトの目立つところに掲載されていた動画データを見つけると再生ボタンを押した。
クランのエンブレムから始まり壮大なBGMを奏でつつ始まった動画は、今回のイベント内容のあらましから始まり、地図や進行ルートの表示など分かりやすく表示し真面目な様子で進んでいった。
「相変わらず凝ってんなー」
「編集専用のメンバーが居るらしいぜ」
「そいつ楽しんでる?」
件の洞窟に差し掛かる頃には、各アクター(タイタンフレームのパイロットの俗称)のワイプやコメントのテロップなど、気が付いたらバラエティ番組の体を成していた。
地図を見る限り、かなり入り組んでいる洞窟の中を、鋼鉄のハングライダーにジェットエンジンを付けたようなパーツに拘束されたタイタンが駆け抜けてく。これは使い捨ての長距離輸送パーツで、飛んでいる姿を下から見ると矢印に見える事からジェットアロウと呼ばれている。タイタン単体で運用できる数少ない長距離飛行パーツで、速度は出るが小回りはあまり得意ではない。
なぜ今回タイタンズがジェットアロウを選択したかと言うと、洞窟内にはMB陣営が仕掛けたセンサーが多数あり、この洞窟を見つけ調べた様な隠密行動に特化したプレイヤーでない限り、高確率でセンサーに見つかりMBに知られてしまう。どうせ見つかるのならば対応される前に辿り着いてしまえば良い。と何とも脳筋な理由だった。
「あーこれ無理、俺これ無理、なんでこいつらジェットアロウなんかで突っ走ってんの? あほなの? ばかなの?」
「ヒヒヒヒッ! ンな事言ってっから1機落ちたじゃねぇか、さっき説明のテロップ出てたろ。どうせセンサーに引っかかるなら駆け抜けてしまえ的な奴。あーほらまた1機。ってワイプとテロップ見てると余裕あんなーこいつら」
洞窟を抜けると、その先は身を隠すす障害物など一切ない荒野が広がっていた。その先には巨大な砲身をもつ構造物と、少なくはない数のMBがいた。
巨大な砲身を持つ構造物のサイズは、周りに配置されているMBと比べるとかなり大きく、大特機の倍はあろうかというサイズだった。左右に赤い光の輪を四つ作り出すと一瞬で消え、砲身からプレイヤー拠点である大型都市に向けてMBが放たれた。
画面を半分に分割し、編集時に作ったと思われる全身図画が表示された。『ギガヤンマ』と呼称し分かっているだけのスペックが羅列されていくが、文字は小さく読もうと思って見なければ読めないレベルだ。ちなみに敵の命名権は最初に遭遇した者にあるが、ゲーム内で5日の期限が過ぎたり放棄したりするとNPC側がつけてくれる。今夏はタイタンズが付けたようだ。
「おっ、抜けたか。デカいな、これは何の形だ……ってトンボが後ろ向いてんのか。後ろの文字はスペックか? 小さいし切り替え早っ」
「あんなん様式美だろ、読む必要なんてねぇよ。っておいおい、あの赤いトンボの羽根見覚えあんぞ、この間の技研のヤツとそっくりじゃねぇか、あれの出所はこいつか?」
「今回初撃破って事は、技研のはどこで手に入れたんだろな。しかもレア度高そうなのに試験にまわして大爆発とか」
「そして俺は電子レンジにってな! うるさいわ」
ジェットアロウで一気に近づくと、次々に切り離し巨人たちが大地に降り立っていく。ひときわ目立つ全身真っ赤な機体が、ジェットアロウを切り離すと、降下中に普通のサイズの倍はありそうなリボルバー式のグレネードランチャーを構え発射する。
乾いた音を上げ曲線を描き飛びだしていった3発の弾は、ギガヤンマの側面に当たると周囲のMBを巻き込み、辺り一帯を火の海にに変えた。これは赤い機体、タイタンズのリーダー機スルトのアクター、ライトだけが購入権を持つ、どういう経緯で入手に至ったか不明だが、特殊でお高い『レーヴァテイン』と言う焼夷弾が原因だった。能力は「広範囲に長時間燃え続ける」らしい。
「開幕レーバテイン、トンボが火の海だ」
「ヴァなヴァ、レーヴァテイン。スルトも出し惜しみ無しだな、お高いだけあって相変わらずえぐいぜ」
次にカメラが映したのは、ギガヤンマの頭部だった。何体かのタイタンが、頭部を守るように集まったMBと乱戦を繰り広げていた。その中を縫うように進むタイタンが居た。
「ミニョなんとか持ってる奴も今回居たよなどこだ」
「ミョルニルな、機体名は『ライジン』って白系の色の奴だ。っと丁度今カメラが追い始めたぜ。こりゃ打つな」
白地に青と金の指し色のカラーリングに、両手で長柄のハンマーを構えるその機体は、周りのサポートもあり頭部を守るMBを体勢を崩しながらも躱しきると、その勢いのまま頭部にハンマーを振り下ろした。一瞬の光と雷のような轟音、カメラもホワイトアウトする。次に映ったものは、左目から顎に向かって大きく溶け落ちたギガヤンマの頭部と、そのアゴに噛み切られ上半身と下半身が別れたタイタンの姿だった。
「うおっ! まぶしっ!! って退場かい!」
「横から行けばいいのに何で真正面から行くかな」
「本当にな! ここまで来て即退場とか悲しすぎだろ」
各機体の戦闘ダイジェスト進み、タイムカウンターが30分ほど一気に進んだころそれは現れた。遠景からクローズアップされ映された飛翔体は、ムカデを横に伸ばし足の代わりに虫の翅を付けたような姿をしていた。NBが良く使う輸送機で、古代水生生物に似ている所から『アノマロカリス:略してアノマロ』と呼ばれていた。周囲の敵領域から援軍を引っ提げて現れると、戦闘領域に入り次第に腹部からMBを投下しはじめ、そのまま領域を抜けていった。
「ここでアノマロ! そりゃ四方敵に囲まれてるけどこれはキツイ」
「こりゃじり貧だぜ。弾もほぼ切れてっし、燃料も頑張って1時間持てばいい方だ」
「まさか第2陣を準備してなかったのか」
「いや、さっきチラッと映ってたが、通ってきた穴が崩れてたぜ」
「なら絶賛穴掘り中か」
また1機、また1機とタイタンズの奮闘空しく数を減らし残り3機となった所で、巨大な砲身が音を立て崩れ落ち、中心部も光が落ち沈黙した。作戦終了のシステムメッセージとともに、ファンファーレや指笛、歓声等の効果音が鳴り響き、画面には金色で大きく『勝利』の文字が輝いていた。
「「おーーーーー!! 倒したぁ!!」マジか! すっげぇ!! 最期地味だけど」
「砲口から放り込んだレーヴァテインが効いたっぽいな、あの後トンボの中で爆発おきてたし」
「あれな、デカいのは内部からって言うけどな。それに頭と赤い輪の噴出口も弱点にみえた」
「つーか、クリアさせる気あるのか!? タイタンズのトップ層でコレなのにパンピー層じゃ話になんねぇぞ」
「今回は15機で奇襲だからな。正面から行けば戦力は無制限だし、もし第2陣が間に合ってればもっと楽だった」
「あの後3回は降って来たから、倒したけど周りは敵だらけという」
「これは全滅かー」
そして満身創痍の3機は抵抗空しく物量に飲まれ撃破されていった。
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