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 ギアーズ・コンクエスト(略してギアコン)。フルダイブタイプのVRシステム搭載ゲーム機が普及して数年、「数百種以上のパーツで無限の組み合わせ!」「既存パーツの改造及び、プレイヤーによるパーツの作成が可能!」「全てのロボ好きの為に!!」と謳い発売されたゲームである。

 プレイヤーはサポートAI『デジタルファミリア(通称DF)』と共に、ギアフレームとタイタンフレームの2種類のロボットを使い、星の機械化を推し進める『メタルバグ(通称MB)』を倒し、星を手に入れる事を目的としてる。



 人類の降り立った星レタ。そして移民船団が降り立った地、アンカーポイント。ここは地上に降り立った移民船を中心に街を形成し、この星における人類の首都の役割を担っている。そしてそこの外延部にあるクランハンガーエリア内の1つ、銀色の盃が描かれた扉の先に男は居た。


 壁越しに聞こえる工作音、天井に埋め込まれている巨大な換気扇の回転音、そんな音が響く空間に、全体的に四角く彫りは深いがどこか東アジア風な顔立ちをした男が立っていた。

 男が両腕を組み見上げる先にあるものは、全長15m以上はありそうな鋼鉄の巨人だった。男の搭乗機で機体名をコットスという。頭部が胴体の上ではなく、胴体の前面上部に張り付くように付いており、一見すると頭の無い巨人の様な姿をしていた。


 ゲーム内には二種類のロボットの規格があり、それをギアフレームとタイタンフレームという。ギアフレームはプレイヤーが乗り込み操作することで動くのに対し、タイタンフレームはプレイヤーが巨人になって、体を動かすかのように操作する。この特徴からギアフレームの外見が多種多様なのに対し、タイタンフレームはあくまでも人体の姿で固定されている。


 見上げた先のロボットの前面にある搭乗口は開かれており、無人のコックピットをさらしていた。そして、腕周辺の作業用アームが離れると、ハンガー内に設置されたスピーカーから落ち着いた男性の声が響いた。


「バードン、五連レーザーハンドの動作確認準備が整いました」


 バードンと呼ばれた男は無人のコックピット内のスロットに刺さっている350ml缶ほどの円柱に向けて答えた。


「ギル、始めてくれ!」


 するとギルと呼ばれた円柱がライトをペカペカ点滅させ答えを返す。


「了解、マニュピレーターチェック開始します」


 再びスピーカーから返事か来ると、機体の左肘から先を少し曲げ前に出す。そして、太くて丸い指を、小指から順に一本ずつ曲げて伸ばしてを行い、親指までいった所で手首から先を回転させ、止まった所でサムズアップをする。ロボ好きに脈々と受け継がれてきた伝統的なマニュピレーターチェックの動作だ。

 バードンはニヤニヤしながらそれを眺めると、反対側も同様に動作させニヤニヤする。そしておかわりをするとニヤニヤし始めた。バードンはロボットの腕パーツ、とりわけ武器腕や武器を内蔵した腕パーツが好きなのだ。

 ちなみに「五連レーザーハンド」はバードンが分かりやすいように名前を付けて呼んでいるだけで、その名の指す通り五本の指の先からレーザーを放つ事ができる。正式にはメーカーや製作したプレイヤーの決めた型番や名前が存在する。

 武器腕、肩から先をその武器のためだけに調整し設計された事だけあって、似たような性能の手持ちの武器と比べると、連射性や命中率等が高いとう利点がある。だが、欠点として改造で装填数を増やすことは出来ても、弾の補充が出来ないという問題を抱えていた。そのことから、継続力が低いという評価となり、メインとして使うのは一部の物好きが使う程度の不人気武器となっている。

 しかし、その欠点を解消できる珍しい物をバードンは持っていた。年始のお年玉くじで引き当てたという、イマイチな入手経緯をもつレア装備。その名を「携帯換装機:ヘカトンケイル」。専用施設でしかできないパーツ換装を、事前に登録した左右それぞれ50個の腕パーツ限定のとはいえどこでも行えるというゲーム内に3機しか存在しないレア装備だ。難点は作動中は動けなくなる事と、修理費が非常に高い事で、しかもコアパーツに1度装備すると外せなくなり、知らずに機体を落としたバードンは、その修理費で貯金を吹き飛ばしたことがあった。

 このような条件はあるものの、ヘカトンケイルによって武器腕の弾切れによる継続力の低さというものは解消されたのだった。

 くじでばら撒かれたヘカトンケイルを含むいくつかの装備は、一部からチート装備だと騒がれ面倒な事もあったが、人のうわさはなんとやら、最近はそんなに騒がれなくなっている。

 バードンがニヤケていると、出入り口の自動ドアの開く音がして軽薄そうな男の声が響いた。


「おーす! どうだった? タイミングばっりちだったっしょ、お礼してくれてもいいんだぜ? そう具体的にはレアドロップ品をくれてもな!」


 そこの声は聴きなれたクランメンバー、ソルダの声だったが若干くぐもっていた。その声に対しバードンは振り向き答える。


「もう戻ったのか早いな、もう1日位かかると思って……って何死んでんだよ、やけに早いと思ったら死に戻りかよ。今回は遠くからチクチクやるだけとか言ってなかったか? あー、あとドロップ品はクラン倉庫にあるから好きにしてくれ」

「マジかよやったぜ! って爆死じゃん! かろうじてタイタン用の人工筋肉がマシな部類か? そしてスーパーウルトラショッキングピンクの塗料、名前は聞いた事あったけど現物を拝めるとはなぁ、たまにコレ一色の奴とか見かけるよな」

「完全にネタカラーだよ、ダブったらペイント弾にでもするか」


 閉じた自動ドアの前には、デカデカと「貸出」と書かれた電子レンジ位のサイズの金属製の箱に四本の車輪付きの足が生えた物体と、その上につかまっている赤いオウムが居た。そして声は金属製の箱に付いたスピーカーから出ていた。

 プレイヤーは倒されるとデスペナルティとしてゲーム内時間でで24時間、リアルで6時間。元の姿を再生するのに時間がかかる。そしてその間機体に乗れなくなるのだ。また、機体の修理費や元の姿に戻るための費用もかかるため金銭的にもペナルティがかかる。再生待ちの間プレイヤーはログアウトをしているか、ソルダの様に仮の体をレンタルして拠点をうろつく者が多い。ごく一部ではあるが、再生用培養液に漬かりひたすらボーっとしている者もいるという。


 キュルキュルと小さな車輪を回しながら進むその物体から飛び立ったオウムは、ハンガー内に配置されている止まり木につかまると、しっとりとした色っぽい女性の声で話し始めた。


「ダーリンは事故死なの。原因は技研よ、文句を言って半分修理費は出させたけど死亡は死亡だから1日はこの姿なの。早くカッコイイダーリンの肩に戻りたい」

「おーぅ、かわいいドーラ僕もさ、君の重みを肩に感じられたいのがこんなに寂しいだなんて――」


 三文芝居を始めたオウムと箱をよそに、バードンは気になった事をソルダに質問する。


「技研? 今回のって『大砲愛好会』の集まりだったんだろ? 住人が参加してきたのか?」

「違う違う、技研つっても技研の研究員が来たんじゃなくて、技研の試作兵器の実地試験って依頼を受けた奴が居ただけさ」


 『技研』とは、ノギヤ技術開発研究所の通称で、ゲーム内のNPCが運営する組織の1つである。MB支配領域に散布されている物質を研究し、ノギヤ粒子と名付けた。それは人体に有害で、電波を撹乱し、MBを活性化させる機能を持っていた。技研はそんなノギヤ粒子を使って様々な技術を研究開発している。ノギヤエンジンをはじめ画期的な発明品を出すが、とりあえず故障する事で有名で、運が悪いと爆発する。ノギヤ製パーツを購入したユーザーがまず最初にすることは、故障率を下げる改造を行う事である。そしてこのゲームではNPCのことを指す通称として『住人』と呼ぶ者が多い。


「技研の試作兵器の試験運用って……」


 そんな定評のある技研製の試作兵器の実地試験、無事に終わる訳がないとバードンは察した。その試作兵器は爆発したのだと。


「まーまー、いいもん撮れたから見せてやるよ。ドーラ、大会の動画だしてくれ」

「はーぃ」


 無駄に色っぽい声でドーラが返事をすると、ソファー前に置かれた中型モニターに映像が流れ始めた。

 森の中、はるか遠くにうっすらと見える白い棒状の建造物、敵拠点が見える。そしてそれに向けて肩にキャノン砲を積んだギアフレームが砲撃をしていた。


「ちっさいな、どんだけ離れてんだよ」

「だいたい40km位だなエリアまたいでるし」

「遠いな、これって目視で狙いをつけるんだろ?」

「そそ、1人3発で2周すんの、ここら辺は興味ないやつが見ても面白くないから……1週目のトリまで飛ばしてくれ」


 ソルダの声にドーラは反応すると映像が切り替わった。

 そこに映っていたのは大特機の倍はあろうかというサイズで野砲のような姿をしていた。そしてその前にちょこんとギアフレームが鎮座していた。


「前に居るのは火器管制用か?」

「そうなんだよ、狙いやら出力調整は前の機体でやってる。こっからが凄いんだ。……始まるぜ」


 ソルダが言い終わると同時に画面内の野戦砲が動き始めた。後部上面がスライドし、中から4本のアームが伸びて輪状のパーツに組上がった。タービンの回る様な甲高い回転音が響き始めると、輪状のパーツの内側に赤いモヤのようなものが現れ回り始める。しばらくするとそのモヤは速度を上げ、輪状のパーツの内側に赤い輪を作り上げていた。

 赤い輪はだんだん濃くなりそして唐突に消えた。次の瞬間轟音と共に赤い光を纏った弾丸が飛び出し、木々をなぎ倒し真っすぐに飛んでいった。

 そして拠点の右上を抜けて飛び去って行った。


「当たらんのかい!」


 思わず突っ込むバードンにソルダは笑いながら返した。


「これがねー外すんだよ。締まらないだろ? でも気にするところはそこじゃないんだ。こいつの弾は40kmの距離を真っすぐ飛んで行ったんだ。むしろライダー(ギアフレームのパイロットの俗称)は風や重力を想定して撃ったんだぜ。俺を含め周りの奴はみんな曲射だってのに……」

「あんだけデカけりゃ、そりゃ飛ぶんじゃないのか? それより弾と一緒にまき散らされた赤いのってノギヤ粒子だろ? 撃つ度にばらまいてちゃ使いもんにならないだろ」

「近くに居たがそんなに濃度上がらなかったぞ、ってまぁ続きというか次を見るか。ドーラ、2週目トリに行ってくれ」


 ドーラが返事をし場面が飛ぶ。1周目と同じように赤い光輪を作り出す試作機。


「ここからだ」


 次の瞬間輪状のパーツが2つに分かれ分かれ外側に向きを変える。すると機体上部で1つの輪を描いていたノギヤ粒子は薄くなったものの輪状を維持したまま2つに増え羽の様に左右に広げた。しばらくすると左右2つの赤い光の輪は元の濃さに戻ると、左右それぞれのパーツが更に別れ4つの赤い光の輪を作り出した。4つの輪が元の濃さに達すると、輪は一瞬で消え、次の瞬間内側から光が漏れ膨張すると映像は終わってしまった。


「この結果は知っていた。いつもの技研だな」

「そのおかげで参加者全員吹っ飛んだけどな!」


 バードンが率直な感想を述べると、ソルダは食い気味に半ギレで答えた。バードンはさっきの動画で気になった所を聞くことにした。


「さっきの映像で気になるところがある。ドーラ、試作機が4本のアームを出すところをで止めて出してくれないか」


 画面に2周目の展開シーンが映る。バードンはモニターに近づくと画面を見つめると指をさしこう続けた。


「この4本のアームの部分ヘカトンケイルのアームに似てないか? 特にこの関節の部分」


 キュルキュルと音を立て四角い物体がモニター前まで寄ってくる。


「どれ?」

「これだよこの右上の黒い部分」

「それ鳥だろ」

「……おわかりでしょう」

「もういいよ?! ってアームの関節のとこか? とりあえず見比べてみようぜ」

「ギル! ヘカトンケイル展開中の画像で関節バッチリ見えてるやつだしてくれ」


 バードンが振り向き機体に向かって叫ぶと了解の声と共にモニターに複数の小窓が現れ画像が映し出された。


「な、似てるだろ」

「並べて見ると確かに似てんな。関節の軸受けパーツとか、そこから覗く内部パーツのデザインも。なんだこの試作機、MB由来のもんで出来てるのか」

「この見た目はそうだろうな」

「量産化されんのかな、特殊なMB素材なら数出ないだろうし、レアもんになりそうだなー」

「いやいや、アレってノギヤ粒子ばら撒いてんじゃん、量産されちゃダメなヤツだろ、特に共生派とかに渡ったら面倒でしかない」

「よくある展開だな。バケモン対人類だったはずなのに気が付いたら、人類対人類になってるヤツ。そんな事より小型化だ、頼むぜ技研」

「技研だし小型化は怪しいな。でもモノがモノだけに別企業から破壊ミッションとかはありそうだ」

「全力で守るぜ。俺の為に」


 このゲーム内の企業には派閥のようなものがあり、裏では割と物理的に殴り合っているのだ。

 その後も、二人は動画を頭から流しながら、雑談に興じるのだった。

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