第十話 番外編〜簡単にプロ作家になる方法です!

 最短でプロになる方法は、自分の作風を殺すこと。

 ただひたすらに万人受けする作品を生み出す機械になること。


 自分が嫌いだろうと。

 例え苦手だろうと。

 世間で流行ってるジャンルを書き続ける。


「ん……花蓮、プロ辞めるの?」


「編集者ちゃん!! なんでそんなことを言うんですか!?」


「編集者ちゃんじゃない……わたしには桑型美優くわがたみゆという名前がある」


「でも私の担当編集者ちゃんなのには変わりないじゃないですか!」


「……」


 役職ちゃん付けで呼ばれるのが好きではないに違いない美優。

 銀髪ミディアムショートの髪に、貧な胸——キュートな低身長にジトっと不機嫌な瞳。


 相変わらずの編集者ちゃんだ。


 さてさて。

 場所は喫茶店の一角。


「ん……とりあえず、このプロットは相当やばい。前に言ったはず……ざまぁハーレムもののプロットだけだして」


「え〜」


「こっちは趣味で出版してるんじゃない。冒険より安定性を重視してる……花蓮は流行りの作品を少しだけアレンジしたプロット書いて」


「でもぉ」


「ん……そういうプロット以外は読まない」


 ぷいっ!

 と、そっぽを向いてしまう美優。

 これは困った。


(編集者ちゃんのはたしかに正論! 実際、私も編集者ちゃんが担当になって、言う通りにしたら簡単にデビューできましたしね)


 より多くの読者が楽しめる作品を出す。

 商業での執筆とはすなわち、作者が楽しむのではなく、読者を楽しませる作品。


 書いていて楽しいなどはいらない。


 読者にとって読みやすく、楽しい文章。

 読者が読みたくなり、楽しめるストーリー。


 作者のひとりよがりの作品は無価値。


 それが全てなのだ。

 なんせ売れることが正義、商業とは金を稼ぐこと以外はなんの価値もないのだから。

 だがしかし。


(私、たしかにざまぁ系でデビューしてアニメ化まで行きましたけど……ざまぁ系嫌いですし、何が面白いかわからないんですよねぇ)


 とはいえ、莉央はざまぁ系が好きなようなので、一緒に付き合って見ているが。

 さてさてそれはともかく。


「でも私、ラブコメ書いても売れますよ?」


「ん……それは理解してる。花蓮のラブコメは天才的、今連載してるやつもすごく稼がせてもらってる。花蓮ほどのレベルなら、ラブコメも許可できる」


「だったら、どうしてこのプロットがダメなんですか!! ざまぁハーレム系のプロット以外読まないなんて言うんですか!!」


「ん……確かに私も感情的になった、この『新世代のラブコメ』がウリの花蓮のプロット……これがやば過ぎて、つい強いこと言った」


「やば過ぎてとは?」


「そのままの意味」


「おぉ!!」


 つまり、なんだかんだ美優は認めてくれているのだ。

 この最強のプロッ——。


「迫り来るゾンビ! 立ち向かう女の子たち! 無敵のゾンビを倒す方法は、ゾンビの目の前で百合百合して百合ビームを放つ事で!? ん……この見出し、正気を失う地雷臭」


「なんでですか!? 編集者ちゃんにはこの素晴らしいラブコメがわからないんですか!?」


「断言する。これはラブコメじゃない……ギャグアクション」


「なっ!?」


 最強のプロットを全否定された、だと!?

 よかろう。


「どうやら編集者ちゃんには、このプロットの良さをわからせる必要がありますね」


「ん……聞いてあげる、分からせてみて」


 なお。

 これから数年後、この作品はハリウ◯ドで実写映画化されて世界的にバズったのだった。

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