第二話 女の子のおっぱいは凄いんです!

 プロラノベ作家にして、ラブコメ界の鬼才。

 それこそが梓花蓮の正体である。

 なのだが。


「うぅ、ネタが思いつきません……」


 現在、花蓮は自宅——幼馴染と二人暮らししているマンションの一室で、スランプに陥っている最中。


「締切も迫っていますし、今回は本気でやばいです……このままでは編集者ちゃんに身体を売って、締切を伸ばしてもらうしかないです……っ」


「嘘でもそういう事は言ったらダメなんだ!」


 と、聞こえてくるのは同居している幼馴染こと莉央の声。

 彼女は花蓮の方まで歩いてくると、そのまま言葉を続けてくる。


「あんまりそういう事ばっかり言ってると、勘違いされて危ないんだ!」


「私、可愛い女の子に勘違いされて襲われるなら、大本望ですよ! 例えば莉央ちゃんとか!」


「うぅ……花蓮はすぐにそうやって話を逸らすんだ!」


 と、頬を真っ赤にしている莉央。

 相変わらず莉央は可愛らしい。

 先日のラブホでも、ベッドの上でとても可愛らしい声を出してくれた。


「えへへ、莉央ちゃんは本当にエッチで可愛いですね」


「い、いきなり何を言うんだ!」


「あ、思ってたことがつい口から……」


「うちの何を考えていたんだ!!」


「それはもう先日の嬌声を——」


「花蓮のバカ!! 花蓮は変態だ!!」


 ポコポコ。

 ポコポコポコ。


 と、優しく花蓮のことを叩いてくる莉央。

 そんな莉央はしばらくして落ち着いたのか、花蓮へと言ってくる。


「ところで花蓮、ラノベのネタが無くて困ってるのか?」


「うーん、実はそうなんですよ……ほら、私は実際に経験したことをアレンジして、ラノベにするタイプじゃないですか?」


「初耳だ! というか、それってラブホの件も本にするってことなのか!?」


「……」


「どうして沈黙するんだ!! うち、あんな姿を本にされたら、恥ずかしくて外を歩けないぞ!!」


「えー、でも私とラブラブの姿を、色々な人に見せつけられますよ? それって素敵なことじゃないですか?」


「……す、素敵じゃないぞ!! 全然素敵なことじゃないんだ!!」


「とか言って、少し間がありましたよ? 本当は少し興奮したんですよね?」


「うぅ……っ!!」


 と、またしても恥ずかしそうな顔をする莉央。

 こういうところが莉央の可愛いところだ。

 けれど、あまり莉央にちょっかいかけるのも可哀想だ。

 この辺りで話を戻すとしよう。


「それはそうと、この花蓮……ただいまスランプなのです!!」


「そんなに胸を張られても……」


「そう、胸なんですよ!!」


「胸?」


 ひょこりと首を傾げてくる莉央。

 花蓮はそんな莉央へと、現在行き詰まっているシーン——そのネタ不足について説明していく。

 それを纏めると要するにだ。


「なるほど。つまり花蓮は女の子に抱きしめられる、リアルな描写が描きたい……だから実際に抱きしめてほしいわけだな?」


「はい、そうなんですよ! それではどうぞ、莉央ちゃん!!」


 言って、花蓮はくるりと方向転換。

 彼女は莉央へと背中を向けて、部屋の真ん中に立つ。

 すると。


「それではどうぞって、どういうことなんだ!?」


「私のことを背中から優しく抱きしめてください!! こう、おっぱいを背中に押し付けてですね!!」


「嫌だ! うち、そんな恥ずかしい事はできないぞ!!」


「もっと恥ずかしいことをいつもしているじゃないですか! この前なんて、正面から向き合ってベロ——」


「わぁああああああああああああああああっ!!」


「お願いします、莉央ちゃん! 私、このままでは編集者ちゃんに身体をめちゃくちゃにされて……ぐすんっ」


「ど、どうしてもか?」


「どうしてもです! 私、頼れるのは莉央ちゃんしか居ないんです! 私には莉央ちゃんが全て何です!!」


「うぅ……花蓮のためになるなら」


 言って、ゆっくりと近づいてくる莉央の気配。

 次の瞬間。


 ハグッ。


 と、背後から優しく抱きしめてくれる莉央。

 同時、香ってくる莉央の優しいにおい。

 そして、背中に当たるのは——。


(あぁ、莉央ちゃんの……たまりませんっ)

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