第2話 僕

「なぁ、お前最近大丈夫か?」


そう言ってきたのは、幼馴染の佐山 悠(さやまゆう)だ。


「大丈夫って何がだよ?」


そう言うと悠は呆れて


「お前自覚ないのか?最近ずっと上の空だし。俺が話しかけてもなんかどっか気が散ってるし。まじで月偉らしくない。」


と話していると、割って入るように


「私もずっと気になってるんだけど、やっぱ悠も思ってたんだ。」


と同じく幼馴染の間宮 沙羅(まみやさら)が話に入ってきた。二人にこんなに心配される程僕はいつもと違ったのだろうか?と疑問に思いつつ。


「いや、特にはなんも…。」


と言うと


『いや!嘘つくの下手すぎかよ!』


と、二人同時に言った。

仕方なく僕は"夕暮れの魔法使い"について話した。彼女が頑なに名前を教えてくれないこと。年上の綺麗な女性であること。空を眺めるのが好きな人であること。笑うと可愛いこと。話しやすい気さくな人であること。彼女は夕方の河川敷に必ずいるということ。

全て洗いざらい話した僕に沙羅が言った。


「いや、それ月偉。好きなんじゃん!」


と沙羅はニヤけて言った。そう言われて僕は、はっとした。

僕が、彼女を好き?まさか、そんな訳ない。ただ、気になるだけだ。と思いながら


「いやいやいや、まさか。んな訳ないってば。」


「うわー照れてるー。」

「おもしろー」


「全く2人揃って僕をいじるな!」


『はいはーい!』


2人ともそう言うとその場を立ち去った。

まさかそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。

そんな事は無いと思う・・・多分?


少しだけ、僕の話をしよう。僕には、父親がいない。母と二人暮らしをしている。高校受験は失敗して、私立高校に通っている。母は、なんか友達感覚だけど、怒るととてつもなく面倒臭い。だけど母には凄く感謝している。僕が何不自由なく暮らせているのも母のおかげだ。

マザコンに聞こえるだろうか・・・?

まぁその辺は、置いておいて一応母一人子一人で仲良くやっている。

家に帰ってからしばらくすると母が帰ってくる。


「ただいま〜」

「おかえり〜」


伊波由美子(いなみゆみこ)45歳。独身。やんちゃで真面目な母。矛盾あるかな?尊敬よりも仲良くしてくれる母。まぁ結構楽しいかもな。


「月偉〜最近学校どう〜?ちゃんと勉強してる?」

「やってるって、母さん最近それ口癖すぎじゃね?」

「まぁ母親としては、気になるものなのだよ。ちゃんとやりなさいよ?」

「へいへい。」


こんなたわいもない話を今日もする。

まぁ勉強はしているんだ。僕は作家になるのが夢だから。まぁ一つも最後まで書き切れた事は無いけど。

だからこそかな、彼女のことを小説に書きたい。登場人物の一人に、いや主役に。そんな妄想が原因なのだろうか?

気になって、気になって気になって仕方がない。

“夕暮れの魔法使い”君の名前は、一体なん言うんだい?たかが名前をどうしてこんなにも教えてくれないのかと。疑問と謎が深く心に残る。



これは恋と呼ぶならそうかもしれない。


だが、僕はそれ以上に君のことが気になって仕方ないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る