信じたい気持ち
「福本先生は、空架高校を知ってるか?」
三鉄高校の屋上に着いた僕たちは、操に促されそれぞれ好きな場所に座った。操は屋上のフェンス越しに景色を見ている。
「もちろん。僕もシロガネの学校に通ってた時期があったからね」
「それなら話は早い。なら、三鉄と空架の関係も知ってるか?」
「あまり仲が良くないっていうのは知ってるよ」
「……それだけで済めば良いんだけどな」
操の顔はどこか浮かない。何があったのか僕が尋ねようとする前に、操が先に口を開いた。
「先生狩りの犯人。あたしは空架を疑ってる」
「え?」
操のまさかの発言に、僕は呆気にとられた。
空架高校と言えば、シロガネにある学校で一番偏差値の高いエリート校だ。頭の良い生徒が集まる学校なだけあって、素行が悪いという話は聞いたことがない。でもその分、他校の生徒を見下し陰湿な嫌がらせを行う生徒も少なからずいるという。そのターゲットになりやすいのが、偏差値が一番低い三鉄高校だ。そのため三鉄と空架の因縁は僕がいた頃から問題になっていた。
でも。操が空架が犯人と思い至るまでにきっと何かがあったはずだ。三鉄と空架の因縁以外の何かが。
「どうして操はそう思ったの?」
「……前にな、あたしを慕ってくれてる奴らが大怪我したことがあったんだ。先生狩りに巻き込まれてな」
「!」
「そいつらがな、見たんだよ。空架の制服着た奴らに襲われるところを」
「……」
……操の発言はにわかには信じがたい。まさかあのエリート校である空架の生徒がそんなことをするだろうか?いくら三鉄と空架の間に因縁があるとは言え、三鉄の生徒を襲うことなんてするだろうか……?
「……信じないよな、さすがに」
「小生もにわかには信じられないであります。あの空架の生徒が三鉄の生徒を直接襲うなんて……」
「けど、あたしはたしかに聞いたんだよ!あいつらがあたしに嘘をついたことなんてなかった。だから――!」
「操」
僕は操を制した。今の彼女は熱くなっているように見えたので、少し頭を冷やしてもらおうと思ったのだ。操は不満気に、でも僕の言葉を聞いて止まってくれた。
「僕はシロガネの生徒みんなの味方でありたいと思ってる」
「……それがどうしたんだよ」
「だから操の証言だけで空架の生徒が犯人だと決めつけるわけにはいかない」
「!……そうかよ」
「だから、僕はこれから空架に行く」
「え?」
僕の発言に、今度は瑚白が反応した。操も驚いたように僕を見ている。
「本気か?先生」
「うん」
「空架が怪しいってあたしが言ったのに?」
「僕は操も他の生徒たちのことも信じてる。だから犯人をはっきりさせるためにも、空架には行かないといけないと思うんだ」
「あたしを、信じてる……」
「しょ、小生も先生を信じてるであります!先生が行くならどこまでもついていくであります!」
「ありがとう、瑚白」
僕のことを慕っています!と純粋な目で語りかけてくる瑚白を見やり、頭を撫でる。そんな僕たちを見ていた操はというと。
「……そんなこと言われたら、止めるわけにはいかないよな」
まだ納得していないようだけど、大きな息を吐いて笑を浮かべていた。
「わかった。あたしは止めない」
「ありがとう、操」
「その代わり、あたしも空架に連れて行け」
「え?」
「え!?」
操は不敵に笑っている。
「あたしが黒幕って睨んでる奴らの本拠地に特攻するんなら、あたしも行かないとスジが通んないだろ。安心しな、先生のことはあたしが守ってやるから」
「そ、そんなものかな……?」
「なんだ、あたしじゃ不満か?これでも三鉄のバン張ってんだ。実力ならお墨付きだぞ?」
「しょ、小生もいるであります!先生のことは命に替えてもお守りするであります!」
「ふ、二人ともありがとう……?」
なぜか張り合い出した瑚白と操を横目に見ながら、僕は窓の外に目をやった。空は鈍色の雲に覆われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます