いざ三鉄へ

 三鉄高校。そこは学園都市シロガネにおいて悪い意味で有名な学校だ。

 力自慢の生徒が集まっている三鉄では、まさに力こそすべて。他の学校には必ずいる生徒会長なんて存在はおらず、代わりに生徒たちをまとめ上げる番長という存在がいる。番長になるためには他の生徒たちを決闘でねじ伏せ、自分の力を証明する必要がある。


「……という学校なのでありますよ」

「それなんて世紀末?」


 三鉄高校に向かう途中、僕は瑚白から三鉄のことを聞いていた。神楽坂以外の学校のことをそういえばよく知らないな、と思い聞いてみたところ予想以上に世紀末な返答が返ってきて驚いた。世界って広いね……。


「今の番長はなんて子なの?」

「小生も知らないであります。三鉄に知り合いがいるわけでもないので……」

「そっか……。番長の子から話が聞けたら一番早いと思ったんだけどな」


 ツテがない以上、地道なところから手をつけていくしかない。となると……。


「聞き込み……いやでも三鉄の子がそんな素直に話してくれるかな……?」

「福本先生?」


 僕が悩む素振りを見せていると、瑚白が不安げにこっちを見てきた。僕はなんでもないよ、と笑いかけて安心させようとした。


(不安なのは瑚白も一緒、だよね。なら大人の僕がしっかりしたところを見せないと)


 そう思い直し、僕は瑚白を連れて三鉄高校の敷地に足を踏み入れた。



「あぁ?なんだてめぇ」


 三鉄高校の敷地に入った僕たちを、絵に描いたような不良たちが出迎える。


(まぁこうなるよなー……)


 僕は瑚白を庇うように立ち、あくまで毅然とした態度で彼らに対応する。


「僕は先生狩りについて調べるためにここに来たんだ。君たちの中で先生狩りについて知っている人がいれば出てきてほしい」

「あぁ?先生狩りぃ……?」

「んだよ、俺らのこと疑ってんのかぁ?」

「これだからは大人はよぉ。見た目だけで判断しやがって」

「――それは違う」


 僕はきっぱりと否定した。


「僕は君たちの疑いを晴らすためにここに来たんだ。少しでも自分の行いの正しさを証明したいのであれば、僕に話を聞かせてほしい。……どうか、お願いします」

「先生!?」


 三鉄の生徒たちに頭を下げた僕の耳に、驚いた声をあげた瑚白の声が届いた。念のため瑚白に、僕を先生と知らない人の前では先生って呼ばないように言ってたんだけどな……。それも今では遅いけど。


「へー、面白いやつだな」


 ざわつく生徒たちをよそに、そんな声が聞こえた。顔を上げると、自分から道を開けた生徒たちの間を堂々と歩いて、一人の少女がこっちに向かって歩いてきていた。


「あたしらに頭下げる先生は初めて見たよ。あんた、名前は?」

「僕は福本カズネ。こっちは補佐の月枝瑚白だよ」

「よ、よろしくお願いするであります」

「ご丁寧にどうも。あたしは笠目操かさめみさお。ここの番長やってんだ」


 快活そうな雰囲気のポニーテールの少女は、名乗った後でにかっと笑った。


「君が番長?」

「あぁ、そうだよ。悪いか?」

「いや、番長の情報をまったく仕入れないで来たからこんな早く会えると思わなくて……」

「んだよそれ。ま、話あんならついてきな。あたしも先生狩りのこと調べてたんだよ」


 操は僕たちに背を向け歩き出した。特攻服のようなデザインの黒い制服の背中には、でかでかと番長と刺繍が施されている。


「どうするでありますか……?」

「行こう。どの道ヒントなんて無いんだから」


 瑚白にどうする?と目で問いかける。


「も、もちろん先生にお供するであります!小生は先生の補佐でありますから!」

「う、うんありがとう」


 僕の上着の裾から手を離そうとしない瑚白を案じつつ、僕たちは操の後を追った。


「悪いな、散らかってて。先生が来るって知ってたらもっと片付けてたんだけどさ」


 三鉄高校の校舎の中を、操を先頭に歩く。操は散らかっている、と言ったが……正直散らかっているの一言で済ますには世紀末すぎた。

 壁には様々な落書き。床にはポイ捨てされたであろうゴミが散らばっている。


「あ、姐さん!今日もお疲れ様です!」

「よぉ、元気そうだな。風邪引かないように気をつけろよ」

「はい!」

「姐さん!さっき空架のやつらが……!」

「その話は後で聞く。今は客をもてなすのが先だ」

「姐さん!」


 操はすれ違う様々な生徒たちに声をかけられていた。みな操を慕っているのが見ててよくわかる。


「悪いなバタバタしてて」

「ううん、普段の操のことがよくわかるよ。操は面倒見が良いんだね」

「そうか?普通だと思うけどな。そんなん初めて言われたよ」

「他の子たちのことを見てれば操が慕われてるのがよくわかるからさ。普段から操が気にかけてあげてるんだなっていうのがすぐわかったよ」

「先生は他の奴らのことも見てたのか?」

「?うん。どんな生徒であれ、僕の生徒なことには変わりないから」


 操は一度足を止め、目を見開きながらこっちを見ていた。


「……初めてだ、あんたみたいな先生は」

「福本先生は素晴らしい教育者でありますからな!」

「なんであんたが誇らしげなんだよ……」


 操は頭を乱暴に掻くと、居心地が悪そうに目線をさまよわせた後で僕を見つめた。


「あんたのことはよくわかったよ、福本先生。あんたが他の先生とは違うかもしれないってこともな。だから、あたしが知る限りのことを話す。それで良いな?」

「うん、もちろん」


 操は僕たちを屋上に通した。どうやらそこで話すらしい。頷いた僕を見て、操は満足そうに笑った。

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