先生狩り

「若狭葵と会ったでありますか!?」

「う、うん」


 出勤した僕は、昨日同様にやる気で満ち溢れた瑚白に出迎えられた。僕のデスクが置いてあるという部屋に向かっている最中、そういえば葵と瑚白は同じ神楽坂高校だよなと思い葵のことを聞いてみると。瑚白は大いに驚いていた。


「葵は有名人なの?」

「有名どころじゃないでありますよー。神楽坂に通っている生徒なら誰しもが知っているであります」

「そんなになんだ……。たしかに特殊な子だもんね」

「ランク外のカムイながら、探偵としての実力は本物でありますからねー……。おまけにあの本心を見せない飄々とした態度。あのつかみどころのないところが良いと、数多の女子を虜にしていると聞いたことがあるであります。ワカ様、とも呼ばれているでありますよ」

「へ、へぇー……」


 どうやら葵は探偵としてシロガネの中でかなり名を馳せているようだ。たしかに昨日今日でその有能さの片鱗には触れている。おまけにあの飄々とした独特な雰囲気も相まって、神楽坂高校の有名人となったのだろう。なんとなく頷ける。


「瑚白は葵と話したことある?」

「無いであります!葵殿は椿殿と同じクラスに在籍してるでありますから。小生とは学年も違うでありますからね」

「あぁそっか、瑚白は一年生で椿は二年生だもんね」


 神楽坂高校はシロガネにある学校の中で一番生徒数が多いだけあって、校舎も大きい。学年により校舎が違うのもあって、同じ部活や委員会じゃないとよほどじゃないかぎり他学年の間で交流はないのだ。


「あ、着いたでありますよ!ここが先生の仕事部屋であります!」


 瑚白は全体的にシンプルな印象を与える部屋に僕を通した。物が少なく生活感を感じられない。


「ここが僕の仕事部屋?」

「であります!自由に使ってほしい、と神楽理事長は言ってたであります」

「物が少ないね」

「物も自由に増やして良いとのことでありますよ」

「それはありがたいなぁ。コーヒーメーカーとか置いてみようかな」

「先生はコーヒーが好きでありますか?」

「人並みにはね」

「大人であります……」

「そう?」


 仕事部屋をあらかた見て回った後、二人分の飲み物を用意しに一度部屋を出てからまた戻った。仕事部屋に最初から置いてあったソファに瑚白を座らせ、僕は作業机とセットのキャスター付きの椅子に座った。


「それで、昨日僕に言おうとしてたことって?」

「はい。それは先生狩りであります」

「先生狩り……?」


 なんとも物騒な名前だ。おやじ狩りみたいなものだろうか。なんにせよ、先生として派遣された以上僕はこの件に無関係とは言えないだろう。僕は瑚白に詳しい説明を促した。


「先生狩りはその名の通り、先生だけを狙った連続暴行事件であります。狙われたのはみな先生で、プラチナムに今人がいないのは先生と間違われないためであります」

「なるほど、だから昨日も今日も全然人を見かけなかったんだね」

「そうであります。被害者は先生だけでなく、先生に間違われた大人やプラチナムを出入りしていた生徒も含まれるでありますから。被害が重い人の中には、入院し未だ昏睡状態の人もいるであります」

「そんなに……」

「本当は福本先生が派遣されるのはもっと後にする予定だったそうでありますが、活動できる先生が軒並みいなくなってしまったことで急遽時期を早めたそうであります。神楽理事長はこんな時期に呼び出してしまって申し訳ないとも言っていたであります」

「それは謝る必要はないと思うけどな。シロガネの維持に先生は必要だからね。犯人の目星はもうついてるの?」

「今プラチナムと、葵殿や協力を申し出てくれた生徒総出で調査しているであります。それでもまだ事件は続いているであります……」


 瑚白はしょも……という効果音が出てきそうなほど申し訳なさそうな顔をしていた。先生狩り……なかなか根が深そうな事件だ。一体犯人は何が狙いでそんなことをしているんだろう?


「それ、僕も調査に加われないかな?」

「え?」

「危険は百も承知だけど……僕も知りたいんだ、真相を。一体犯人は何のために先生狩りなんてことをしているのか……それを僕は知る必要があると思うから」

「先生……」


 瑚白は考える素振りを見せた。


「……正直、小生は反対であります」

「瑚白……」

「でも、先生が望むのであれば小生はそれに従うであります。先生の行動はきっと正しい結果をもたらすと、小生は信じているであります。先生は、そういう人だと見てわかるでありますから」

「!ありがとう、瑚白」

「そうと決まれば、早速調査であります!先生はどうしたいでありますか?」

「どうしたい……」


 先生狩り、というワードを聞いた時から、僕の頭には昨日の三鉄の生徒たちが頭をよぎっていた。葵はなんでこんなことをするのか、と漏らしていたけど、もしかしたら彼らは先生狩りに関わっているのでは?そう考えてしまったのだ。


「三鉄高校に行ってみたいかな」

「了解でありま――さ、三鉄にでありますか!?」

「う、うん。もしかして瑚白はあまり行きたくない?」

「ち、違うでありますよ!別に見た目を馬鹿にされるから行きたくないとかそういうわけではないであります!」

「そ、そっか」


 瑚白、バレバレだよ……とは言わないでおく。瑚白の意志を尊重したいところではあるけど、他に手がかりはないし……。とりあえず僕は瑚白を宥めてから三鉄高校に向かうことにした。

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