第34話 姫野胡桃は暴走し出すと止まらない
翌日の放課後、俺と胡桃先輩は予定通り日和と柊木先輩が遊んでいる姿を影から見守っていた。
場所はショッピングモール。昨日柊木先輩の様子を聞いた時は若干二人が上手くやれるか不安があったものの、どうやら杞憂だったらしい。柊木先輩も会話に慣れたようで、日和もとても楽しそうに見える。
二人がモール内の椅子に腰掛けた所で、日和から可愛らしいLINEスタンプが送られて来た。いつでも来ていいという日和からの合図である。
「さ、行きましょう先輩!いいですか?あくまで自然に。自然にたまたま成り行きで合流する感じにしますからね?」
「待って優斗くん‥まだ心の準備が。それに、あんな幸せそうな愛梨を騙すような事して本当にいいのかしら‥」
「別に悪い事はしてないし、最終皆仲良く遊べば問題ないですって。ほらっ、日和も楽しそうだしいつまでもウジウジしてないで!」
「きゃああ優斗くんって意外と強引!?お姉さんドキっとしちゃった!」
「‥そういうのマジで今いらないです」
「‥‥ごめん。調子乗っちゃった‥」
ようやく出る気になってくれた先輩が、あろうことか腕を絡め出す。
「え?ちょっと先輩!?!?」
突然押し付けられた日和よりも大きなアレの感触。
よく見ると、緊張しすぎているのか全く目の焦点が合っていない。俺の声は届いておらず、必死で解こうとすれど先輩の力が強すぎてそのまま日和達の前まで来てしまった。
「‥‥‥」
何してるの?と日和の射殺すような無言の視線が怖い。柊木先輩は胡桃先輩がまさか自分の前に現れるなんて思ってもいなかったのだろう。
胡桃先輩は目の焦点が一向に定まらないまま、何故か高笑いしながらヤケクソ気味に柊木先輩に話しかけた。
「おーほっほっ!ききき奇遇ね愛梨!日和ちゃんも!二人も放課後デート中なのかしら?」
「‥いきなり何なの?学校では目が合っても逸らす癖に‥。横の男の子は学園で有名人の影山優斗くんよね?何で胡桃が影山くんと腕なんか組んでるの?」
あまりに不自然な胡桃先輩の言動。さっきまで固まって見ているだけだった柊木先輩が途端に不機嫌になってしまう。
その空気に押されたのか胡桃先輩が一層テンパリ始め、俺が説明を考える前にどんどん話を進めていく。
「私達も今‥ほら‥アレよ!ラブラブデート中なのよ!」
「はあ!?ちょ、先輩。何言って‥」
「影山くんは綾瀬さんと別れたばかりなんじゃないの?それに最近は学校で日和ちゃんとイチャイチャしてる事なんて皆知ってる話よ?」
怒涛の質問責め。俺って今そんなに有名なのか‥と感心している場合じゃない。一刻も早く誤解を解かなければと思った矢先、あろうことか胡桃先輩が俺の腕を胸に挟み込んでとんでもない事を言い出した。
「あー‥アレよ!!優斗くんは私と付き合ってるのよ!!!最近なんか家族も同然で毎日のように家にいってあんな事やこんな事してるんだからっ!!」
「‥‥え?彼女と別れたばかりなのに日和ちゃんとイチャイチャして‥実は本命は胡桃だったって事!え??ガチ屑じゃない‥」
「ちょっと待ったああああああああ!!柊木先輩、嘘です!胡桃先輩の言った事全部嘘ですからっ!胡桃先輩とはたまたまそこで会っただけですからっ!」
「じゃあ、何で腕組んでるの?そんなむ、胸の間に腕挟み込んだりして‥ハレンチだわ‥」
「えっと、これは、その‥」
「‥それに家に毎日のように行って‥あああんな事やこここんな事をしてるってのも本当なの?」
「あー、それはですね‥」
こんなの一体どう説明すればいいんだ?
顔をこれ以上ないくらい真っ赤にさせた柊木先輩に今すぐに本当の事を言いたいが‥そんな事をすれば作戦は台無しだ。
「‥やっぱり‥ガチ屑じゃない‥」
慌てて力づくで胸から腕を引っこ抜くが、柊木先輩はゴミのように俺を見てしまっている。
これは非常に不味い。このままでは、俺の評価が意図せず急降下しっぱなしである。
とりあえず放心状態の胡桃先輩を慌てて力づくで後方に連れていく。大声で非難したい気持ちを抑えて、まだどこかおかしくなった胡桃先輩にヒソヒソ声で問い詰めた。
「どういうつもりですか!?腕なんかいきなり組んで‥しかもあんな事言って‥」
「うう‥ごめん。緊張でわけわかんなくなっちゃって。怖くて‥何かにつかまっておきたかったのおおお」
「くっ‥そんな涙目で真面目に謝られると何も言えねえ‥。とりあえず、さっきのは全部嘘だってあとでちゃんと柊木先輩達に説明しといてくださいよ?分かってますね?あくまで一緒に遊びたいって言うだけでいいんですからね?」
「うん‥ごめんね‥お姉さん頑張るね‥」
やけに潮らしい胡桃先輩を連れて、気を取り直してもう一度二人の前へ。
視線が‥主に俺に対する視線が超痛いんだが。日和も胡桃先輩があんな事を言ってしまったからか妙に圧が凄い。
「さっきはごめんね?その‥よかったらなんだけどせっかくだし皆で一緒に遊ばない?」
ようやく胡桃先輩は正気を幾ばくか取り戻してくれたみたいだ。当初の自然を装う演技こそ出来なかったが、真っ向から勇気を出して誘う事が出来たのだ。結果としてはこっちの方が良かったように思う‥のだが――
「‥私はいいけど。日和ちゃんはどう?浮気真っ只中の影山くんとなんか嫌じゃない?」
「‥ん‥だいじょぶ‥。‥それに‥聞きたい事が出来ちゃった‥特に‥私がいない間‥家で二人で何をしていたのかとか‥ね?‥ゆうくん‥?」
未だに勘違いしてゴミのように俺を見る目を続ける柊木先輩。いつもの愛らしい笑顔も無く、無表情で俺を見つめる日和。
先が思いやられる長くなりそうな一日が始まった。
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