第33話 小日向日和は気が気でない
「‥‥‥ん」
むーと少し考えた後、日和が予想外に首を振った。
「‥‥‥やだ」
「日和!?」
「日和ちゃん!?」
俺と胡桃先輩のお願いはあえなく却下されてしまう。可愛らしくほっぺたを膨らませて不満全開だ。
「‥胡桃ちゃんだけ‥毎日ずるいもん‥」
「本当に何もないのよおお。ただ一緒に遊んで、一緒にご飯食べたりしてるだけなのよおお」
「‥‥やっぱりずるい‥楽しそう‥」
「日和、俺からもマジで頼む!マジでこのままじゃ我が家が胡桃先輩に乗っ取られそうなんだ。先輩ってば本当に毎日ベッドで自分の家みたいにゴロゴロゴロゴロ――」
「‥むー‥ゆうくんの‥浮気者‥」
「「誤解が凄い!!」」
「‥それに‥胡桃ちゃん‥私に隠し事してる‥」
日和はぷくーっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまったままだ。
つんつんつんつんつんつんつん
「私が大好きな日和ちゃんに隠し事なんかするわけないじゃない!ね?日和ちゃああああん!」
「‥‥私も大好きだけど‥むー‥‥」
胡桃先輩が膨らんだほっぺたをつついたり、むにゅむにゅすれど日和は一向にこっちを向いてくれない。
どうしたものか。日和は快く協力してくれると思ってたが‥。どうやら完全に拗ねてしまったらしい。
拗ねた日和も愛くるしくて仕方ないが、今はそんな事を言えば怒られてしまいそうだ。
それにしても、最近よく日和が胡桃先輩に言う「隠し事をしてる」とは何なんだろう。
「小日向、落ち着いて考えてみろ。姫野先輩が仲直り出来れば、毎日優斗の家に行く事もなくなる。ヘソを曲げてるよりも協力した方がいいんじゃないか?」
「‥ん‥それはそうなんだけど‥」
「えへへ。うん、私も恭二の言う通りだと思うな〜」
俺たちの様子を見かねて助け舟を出してくれたのは、今や有名なラブラブカップルになった恭二と早乙女だ。
今までは見てるこっちがヤキモキさせられていたが、今はお互いがとても幸せそうで何よりである。
「俺からもマジで頼む‥日和ちゃん。このままだと俺が嫉妬で狂っちまいそうなんだ‥最近さ‥夢を見るんだ‥この手で‥親友を‥このままだと‥現実でも俺は優斗を‥うう‥頭が‥」
「太一!?まさか俺を殺したりしないよなあ!?!?」
「え、ああ‥うん。ははは、俺が優斗を殺す訳ないだろ?」
「そそそそうだよな!よかった‥」
「当たり前だろ?‥‥まだ理性がある今のうちは」
「!?!?」
目がマジすぎランだが。俺の命の為にも、一刻も早く胡桃先輩には仲直りしてもらわなければならない。
「日和、私からも頼むわ。この馬鹿がこんなんだと私も調子狂っちゃうからさ‥」
「‥‥んー‥みんなして‥」
茅野も一押ししてくれた事で、日和がようやくこちらを向いてくれた。
「‥わかった‥でも何をすればいいの‥?」
「ありがとう日和ちゃああああん!!」
「‥ん‥くるしゅうない‥」
感極まった胡桃先輩がガバッと抱きつくと、日和はまだ少しだけ頬を膨らませながら話を聞いてくれた。
そんな日和に、俺たち二人で作戦内容を話す。簡単な話だ。日和が胡桃先輩の親友――
「‥でも‥私一回も柊木先輩と‥話した事ないよ‥?」
「愛梨も日和ちゃんファンクラブ永劫会員だからきっと大丈夫よ!日和ちゃんが誘えば、鼻息荒くしてYESしか言えなくなるに決まってるわ。ちなみに私が一号会員ね?私達をそんじゃそこらのファンの子と一緒にされたら困るんだからっ!!」
本人未認定のファンクラブ会員で何故かドヤる胡桃先輩に、若干引き気味のクラスメイト達。
柊木先輩の事は気になって一度見た事がある。一見すると真面目そうな委員長タイプの美人女性だったが‥。果たしてそんなに上手く誘いに乗ってくれるのだろうか。
俺も日和と同じでまだ少し不安を感じるものの、胡桃先輩曰く何の問題もないらしい。
「‥わかった‥やってみる‥」
「ごめんな日和。俺も教室まで着いていきたいんだけど、変に思われるかもしれないし一人で頼めるか?」
「‥大丈夫だよ‥胡桃ちゃん‥柊木先輩もう来てた?」
「来てるわ」
「‥ん‥行ってくるね‥」
そう言うと、早速日和はスタスタと教室を出て行き、その後10分も立たず帰って来た。
「‥‥」
「日和?」
「日和ちゃん?」
だがその表情はとても暗い。
やっぱり、いくら日和といえど初対面で遊びに誘うなんて無理だったか?もしかしたら、気味悪がられて酷い言葉を浴びせられたのかもしれない。
「‥もしかしてダメだった?日和ちゃん、本当ごめんね。嫌な経験させて」
「ごめんな日和‥」
「‥ううん‥明日の放課後に決まったよ‥頭の良さそうな美人さん‥でも柊木先輩‥」
戸惑いを浮かべながら、日和は続ける。
「‥頷くだけで一度も喋ってくれなかった‥他の先輩達は‥笑ってたけど‥」
詳しく聞くと、近づいた瞬間からロボットみたいな動きになってコクコクと頷くだけだったらしい。ぎこちない動きでLINE交換した後は天を見上げて神に感謝して目に涙を浮かべていたらしい。
「先輩‥それって‥」
「うん、愛梨‥私よりガチじゃん‥ありがとね日和ちゃん!あっ愛梨の事は気にしないで?ちょーーっとオタすぎただけだから」
「‥??」
胡桃先輩ですら知らなかった柊木先輩のオタぶりに、明日への不安がより一層募るのであった。
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