第26話 心のモヤを取り除く為に
帰宅した俺は、何もやる気が起きずに帰り道の事を思い返していた。
獅堂には言葉を濁さずに全部話した。元々伊集院を彼女はとても嫌っていたし、そこまでは問題なかった。
だがその後獅堂は俺の事を気遣いながら、こう頼んできたのだ。
『綾瀬にとっては些細な事だったのかもしれない。だけど初めて私を怖がらずに綾瀬が接してくれたおかげで、今じゃ私にも友達が少しずつ出来るようになった。そんな綾瀬の事を私はほっとけないんだ。頼む影山、お前にこんな事を頼むのは酷だと分かってるが様子を見に行ってやってくれ‥」
獅堂とは出会ったばかり。俺は何も彼女の事をまだ知らない。悪いのは瑠奈だし、引き篭もって逃げているのも瑠奈だ。獅堂に頼まれたからと言って――
いや‥‥違う。
逃げているのは瑠奈だけじゃない。俺もだ。
正直言って、俺も流石に瑠奈の様子が気になっている事は事実だ。どれだけ仲間と楽しく過ごしていても、頭の片隅に影がチラついてしまう。それを向こうから連絡をよこすまで、自分からなんて馬鹿らしいと極力考えないようにしていただけではないか。自分が被害者である事を免罪符にして。
そもそも浮気されて単に別れただけなら、お互い話をする必要も全くない。普通に別れて、それで終わりだ。でも俺たちは違う。瑠奈は罪悪感で引き篭もり、俺もずっとモヤモヤを抱えたままでいる。思い詰めて取り返しのつかない事になったりしないかという不安もある。
早くスッキリしたいなら、誰が後か先かなんてつまらない事を考える必要なんて本当はない。そんな事は本当はわかっていた。それなら――
言いたい事は山ほどある。来るかも分からぬ返事を待ち続けるより、自分から会いにいってしまおうか?
「ああクソッ!!なんで俺がこんな悩まないといけないんだよ!!」
腹が立つ。別れてもなお心をざわつかせる瑠奈の事が。甘いなと思いつつ、会いに行こうとしてる自分も。でもスッキリして本当の意味で前に進みたい。
そう思うといても立ってもいられなくなった俺は、自転車に乗って爆走していた。連絡もせずに瑠奈の家に向かう。
感情が昂っていた事もあり、驚くほど早く着いた俺は息を整えてからインターホンを押す。
「はい‥‥え!?優斗くん!?ちょっと待っててね。すぐ開けるから!」
慌ただしく、今までお世話になってきた瑠奈の母――綾香さんが飛び出てきてくれた。
「優斗くん‥来てくれたのね‥」
「連絡もせずいきなりすいません」
「そんな事はいいの!瑠奈から全部聞いたわ。母親として、本当に――」
「ちょっと待ってください!綾香さんが謝る必要なんてありません!これは俺と瑠奈の問題です」
止めても尚泣きそうな顔で謝ろうとする綾香さんの事を必死で止める。今まで散々お世話になって来たし、話を聞いて辛かったのは綾香さんも同じなんだ。いや、俺よりもっと辛かったかもしれない。
家の中に案内された俺は、瑠奈の部屋に行く前にまず色々と聞いておく事にした。
「それより‥瑠奈はどんな感じですか?聞いていたようにずっと引きこもったままですか?」
「ええ。電話で優斗くんと話した時よりもっと酷いわ。ずっと私とパパも優斗くんに連絡しなさいって言ってるんだけど最近は返事もろくにしなくて。もういっそドアをぶち破ってやろうかとパパと相談してた所だったのよ‥」
「俺以外に誰か心配して来たりしましたか?」
「一人だけどうしても合わせて欲しいって来てくれた子がいるわね。初めて見る子だけど、獅堂さんといったかしら?とても美人な子だったのを覚えてるわ」
どういう事だ?瑠奈は友達が多い筈である。瑠奈の口から一度も名前を聞いた事がない、獅堂一人だけなんて。
「獅堂一人だけですか?」
「そう言えば、瑠奈は友達が多い筈だけど他には誰も来てないわね‥。風邪が長引いてると思ってるのかしら?‥やだ、なんかとても不安になって来たわ‥」
友達なら二週間近く学校を休んでいたら誰でも心配する筈だ。仮に俺がそれだけ休んでいたら、日和達皆は絶対に様子を見に来てくれるだろう。俺が瑠奈の立場であっても、激怒するが簡単に見捨てたりはしないだろう。
俺は一人じゃなかった。絶望してもたくさんの人に支えられてここまで立ち直る事が出来た。
なのに瑠奈には、一番苦しい時に本当の意味で心配してくれる友達が瑠奈にはいないのだろうか。
「‥‥っ!すいませんっ!瑠奈の部屋に行って来ます!」
俺は綾香さんの返事も聞かないまま、瑠奈の部屋まで走り出した。
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