第25話 獅堂千楓は理由を知りたい
「獅堂さんは警視庁の超お偉いさんの娘さん!んで、瀬戸宮若葉生徒会長は日本有数のメガバンクの頭取の娘さんというわけだ!俺が知ってるのはそれくらいだよ!これで満足か?クソ野郎がっ!」
「それマジ?そんなお偉いさんの子供がこんな普通の高校に集まって、しかも二人ともとんでもない美少女なんて事ありえるのか?どんな確率だよ‥」
「知らねーよ!俺に聞くなよ!ラブコメっつーのはそういうもんだろ!?普通のちょっと優しい男子が何故かありえんくらい家柄も良くて可愛い美少女と、これまた何故かありえんスピードで仲良くなっていく‥そんなもんだろーがっ!!」
「待て太一、いきなりなんでそんなキレてるんだよ!?」
目を血走らせながら、怒り狂った太一は誰かに操られたように止まらない。
「これがキレずにいられるか!?だって今のお前超主人公じゃん!いや俺が言ったよ?お前にしか出来ない事だから、学園のアイドル達と仲良くなっていけって‥でも、でもよ‥毎日毎日、お前と日和ちゃんがイチャイチャしてる所見せつけられる俺の気持ちが分かるか!?姫野先輩とも瞬く間に俺より遥かに仲良くなりやがって!その上、優しくなろうとしてる瀬戸宮会長と一緒に仕事だと!?それだけじゃ飽き足らず‥おめえは‥」
怒りでわなわな身体を震わせながら、太一は教室の外でジッと俺の事を観察している獅堂をビシッと指差した。
「獅堂さんまで、お前に興味津々じゃねーかああああああ!!」
唾を盛大に撒き散らしながら太一が叫ぶ。
文化祭実行委員の会議から三日。俺の事を観察すると言っていた獅堂は、今日も忍者の如く俺を教室の外から観察していた。もう放課後にも関わらず、朝からずっとこれだ。
「だから何度も言ってるだろ?獅堂はマジででやべー奴なんだって!」
ここにきてようやく気づいたが、獅堂は俺が思っていたより変わり者だった。いや、出会った時からうすうす気づいてはいたのだが‥
何度も監視をやめろと言ったり目的を聞いても答えてくれない。ただでさえ最近学園内で目立ってきてるというのに、正直迷惑でしかないのだが、もう諦めて放置している。
この会話だって聞こえているだろうに、獅堂は表情一つ変えずに教室の外から俺を見つめている。本当に恐怖でしかない。
「優斗おおお!俺はなああああお前が瑠奈ちゃんと付き合った時も、日和ちゃんといい感じになってる今も、実は応援してたんだよおおおお!でももう許さんっ!代われ!俺にもラブコメさせろおおおお!ハーレム作らせろおおおお!」
「ちょ‥!落ち着けって!」
掴み掛かろうとする太一から間一髪で身をかわす。
もう一度ゾンビと化して襲いかかろうとした太一を、今度は部活が休みの恭二が引きがしてくれた。
「全く‥何やってんだかお前は‥。別にいいじゃないか。優斗の周りに俺たち以外の人が増えて。お前も知ってるだろ?優斗が辛い想いをしたこと」
「知ってるさ!でも‥それでも羨ましいんだよおおおおお」
終いには血涙を流す太一に、今度は茅野と早乙女がドン引きしていた。
「はいはい、バカも大概にしときなさいよ?羨ましいのは分かったから少し落ち着こ?いつにも増してアンタキモいわね‥。でも影山がラブコメしてるって思うのは私も同意かな」
「後藤っち‥流石の私もドン引きだよ‥。でも確かに今の影っちってマジで主人公みたいだよね」
「そ、そうかあ?会長とはまだ一度も会話した事ないぞ?」
「「「そうだよ!!」」」
放課後残っていた他のクラスメイト全員から一斉に賛同されてしまった。よく周りを見渡せば、太一と同じように今にもゾンビ化しようとしている男子がワラワラと近づいてきているではないか。
ちなみに今、日和はいない。もうすぐ小百合さんの誕生日みたいで、栞ちゃんとプレゼントを選びに早々に帰っていってしまったのだ。
つまり鶴の一声で俺を救ってくれる者は、この場に誰もいないという事である。よし、全力ダッシュだ。
「あっ、俺今日用事あったんだった!太一、教えてくれてありがとう!それじゃあみんな!また明日!」
「「「逃げんなコラああああああ」」」
校門からだいぶ離れた所で振り返ってみると、流石にもう誰も追ってくる気配はない。
「はあ‥はあ‥巻いたか?」
「大丈夫か?修行が足りないようだな‥どうした?そんなに驚いた顔して」
!?!?
息を整えて顔を上げると、すぐ横に獅堂が立っていた。
「本当に忍者かよ!!」
「まあ、似たようなものだ。正確には全然違うが。私の家の事は話せば長くなる」
「そんなに気配を上手く消せるなら、隠れる時もちゃんとすりゃあいいのに‥」
「いつもちゃんと隠れているだろう??」
「‥まあいいけどさ。てか獅堂とまともな会話をするのって初めて会った時以来か?」
獅堂の監視する発言から三日間、いつもすぐ側で見られているのに彼女から話しかけられる事は一度もなかった。こちらから話しかけても「私の事は気にするな」しか言わない。
「‥すまなかった。お前からは悪人の匂いはしない。だが稀に匂いに現れない悪も存在する。だから日常生活で本性を表さないか観察させてもらったのだ。まずは信用に足る人物かどうか確認させてもらった。‥‥綾瀬は私に何もいってくれなかったから」
「綾瀬って‥」
匂いって伊集院にも言ってたけど何なんだろう。正直そんなんで人の善悪がはかれるなんて、にわかには信じ難い。
だがそれよりも綾瀬って‥瑠奈のこと?
何故獅堂が瑠奈を?瑠奈の口から獅堂の事を一度も聞いた事がない。それなのに、目の前の獅堂は一瞬悲しげな表情を見せた。
「いくらなんでも綾瀬は風邪にしては休みすぎだ。綾瀬は何も話してくれないし、一度も会ってくれない。影山は綾瀬の恋人だろう?なのにさっきの教室での会話は何だ?」
何も知らない獅堂は、俺が瑠奈に酷い事をされたと考えたわけか。だから俺が本当に悪人じゃないか、獅堂なりのやり方で観察していた。
「なあ影山、教えてくれ。綾瀬と一体何があったんだ?」
俺にそう問いかける獅堂は、とても必死だった。
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