第24話 瀬戸宮若葉はキャラ変したい

「私が生徒会長の瀬戸宮若葉せとみやわかばよ。一年生も一度くらいは見た事があるのかしら?ここにいる皆は、これから一緒に文化祭を盛り上げていく仲間になるわ。せっかくだから仲良くして頂戴ね?」


 これが噂の生徒会長‥。何というか、異次元だ。語彙力を失ってしまう程に、美貌が異次元。入学式で一度見た時は、何も考えずにぼーっと見ていたが近くで見ると凄い。


 俺なんかが口で容姿を順に説明するよりも想像して貰った方が早いかもしれない。アニメで美しいブロンドヘアの聖騎士や、戦乙女のキャラを見た事があるか?生徒会長は正にそのイメージにぴったりだ。実は異世界から来て向こうでは聖騎士団長を勤めてましたっと告白されても、無条件で信じてしまいそうになる。


 それでいて、スタイルは制服の上からでも抜群だ。男の理想が詰まってると言っていい。獅堂が着物の似合いそうな和の美人なら、会長はドレスが似合いそうな洋の美人。


 日和も横で「‥ふわぁ‥」と息を漏らす程である。だが、どこか会長の様子がおかしい。笑顔がぎこちないというか‥無理して親しみやすく振る舞っているような感じがする。


 噂で聞いていた、怖ーい生徒会長はそこにはいなかった。辺りを見渡すと、会長を見る皆の顔も妙に引き攣っているように見える。俺と同じ事を考えているのかもしれない。


 するとこの空気に耐えられなくなったのか、他の生徒会のメンバーの一人がいきなりぷっと吹き出した。それに釣られて他の生徒会メンバーもクスクスと笑い出してしまう。


加奈かな‥!」


 会長がピクピクと眉間にシワを寄せるが、加奈と呼ばれた一番最初に吹き出した女性は全く物怖じせずに言う。

 

「あははは!みんなビックリしちゃってるよ会長〜。やっぱりキャラ変はもうあきらめた方がいいんじゃない?もう手遅れだって!もう遅いってやつ!!」

「‥貴方は黙っていなさい」

「おいおい加奈。言ってやるな。会長はこう見えて案外傷つきやすいんだぞ?後で嫌味言われるのは俺なんだからな?」

「はいはーい!気をつけまーす!」

「二人とも‥後で覚えておきなさい!それより副会長の貴方達も軽く自己紹介してちょうだい」


 キャラ変?そりゃあ大歓迎だ。怖いより、優しい方がいいに決まってる。それにしても、一瞬揶揄う二人にだけ放たれた会長の冷気が物凄かった。やはり会長は獅堂と同じ氷属性なんだろうか?あまり怒らせない方が良さそうな事だけは確かだ。


 それから全員で六人いる生徒会の中から先程の二人の軽い自己紹介が始まった。


「副会長の篠宮加奈しのみやかなだよ!若葉とは苗字が似ててややこしいから、私の事は加奈ちゃんでいいよー!私と誠司は若葉の幼馴染でもあるの。若葉は怖いと思うけど、本当は凄くデリケートで可愛い子だから仲良くしてあげてね?」

「同じく副会長の雲雀誠司ひばりせいじです。分からない事があれば俺に何でも聞いて欲しい。俺に出来る事なら何でも力になるよ。皆で最高の文化祭にしよう。会長とも話してみるといい。意外と話すと子供っぽくて面白いぞ?」

「二人とも‥本当に‥後で分かってるわよね?」


 加奈先輩と雲雀先輩が幼馴染で恋人同士だとは聞いていたが、どうやらこの二人は会長とも幼馴染のようである。ワナワナと怒りで震える会長にビクともしないあたり、三人は本当に仲良しなのだろう。


 どことなく加奈先輩と雲雀先輩は雰囲気が親友の早乙女と恭二に似ている気がする。どっちも美男美女だが、とても親しみやすい波動を感じる所も同じだ。


 会長はわざとらしくコホンと咳払いした後、またぎこちない笑顔を浮かべて会議を進め始めた。


「本当はみんな自己紹介をして欲しいところだけど、今日は時間がなくてごめんなさいね。まあまだ文化祭まで時間があるし、ゆっくり話をしていきましょう。じゃあ、早速だけど――」


 会長が、本題に入ろうとした時大人しそうな男の先輩が手を挙げた。


「か、会長。待ってください。まだ来てない人が一人います。お腹痛いって言ったきりずっと帰ってこなくて‥」

「そうなの?大丈夫かしら?連絡はした?」

「と、とんでもないです!僕なんか連絡先持ってません!相手はアイドル的存在なんで‥」


 可哀想に‥なんて残念な先輩だ‥。こんな皆の前で‥。


 この場にいないアイドルなんて胡桃先輩しかいない。みんなの前でそれを言うなんて‥悪気は一切無いと思うが、もっと他に言い方あっただろ。間接的に胡桃先輩がう◯こで遅くなってると言ってるようなものだ。


 心の中で合掌していると、外からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。


「ごべんなざあああい!おながが‥お腹が痛くてええええ!!あっ、日和ちゃんと優斗くんも一緒!?やったああああ!!ってうげへえ‥伊集院くん一緒‥めっちゃやだ‥」


 ガラッとドアを勢いよく開けて開口一番自己申告してしまう先輩。俺たちを見てパァっと目を輝かせたと思ったら、伊集院を確認してズーンと沈んでしまう。


 うん、何というか‥あけっぴろげな性格な所が胡桃先輩のいい所でもあるんだが、俺の心配を返して欲しい。


「あははは!私あの子めっちゃ好きかも!!超面白い!!超可愛い!!」


 加奈先輩は大爆笑だ。その様子を見て、はあ‥と会長がため息をつく。胡桃先輩が先程手を挙げた男子の横に座った後、ようやく会議が始まった。


 会議といっても、今日は初めての集まりで難しい内容ではなかった。一つ目は今日この場で各学年の実行委員の代表を決める事。二つ目は来週の会議までに各クラスの出し物を決めておく事を宿題にされた。最初のうちは週に一度だけ会議で現状報告し、文化祭が近づくと今後決めていく役割によっては忙しくなるらしい。


 最悪な事は、一年の代表が本人の希望もあり伊集院になってしまった事だ。


 何となく嫌な予感がした為、票が集まらない事を承知で俺も立候補した。伊集院を軽蔑している獅堂も立候補してくれたが、同じ一年生だけの多数決で伊集院となった。


 伊集院と獅堂は一票差。俺に投票してくれたのは日和だけだ。おそらくだが、さっきの伊集院と獅堂の教室のやり取りが一票に影響を与えたのだろう。


 他の生徒達には伊集院の本性などまだ知る由もない為、表面上いい人でリーダーシップがありそうな伊集院が選ばれるのは仕方ない。


「それじゃあまた来週集まるから、みんな忘れないように。分からない事があったら、生徒会に聞いてね」


 何はともあれ、今日の会議はもう終了みたいだ。それにしても、伊集院の俺に向けた勝ち誇ったニヤけ面だけがやけに気になる。


「くっ‥面倒な事にならないといいが‥」


 席を立とうとした時、後ろで獅堂が苦々しげに呟いた。俺も全く同じ気持ちだ。面倒にならない事を祈るばかりである。


「ごめんねっ!優斗くん、日和ちゃん!今日はなんか加奈ちゃん先輩が私を誘ってくれてるから‥私‥貴方達以外の人から誘って貰えるの久しぶりで‥その‥」

「何謝ってるんスか先輩!よかったじゃないですか!」

「‥ん‥よかった‥胡桃ちゃんに友達増えて‥とっても嬉しい‥また一緒に帰ろうね?」

「可愛すぎんだろちくしょおおおおお!」


 胡桃先輩も誘って三人で帰ろうと思ったが、先輩には先客がいたらしい。ハイテンションな先輩と別れ、日和と二人で帰る事に。


「‥ごめんね‥ゆうくん‥さっきは‥力になれなくて‥」

「え?何のこと?もしかして投票の事?」

「‥ん」

「いや、俺に投票が集まらない事は分かってたしな。日和が投票してくれただけで100万人分の価値があるよ。本当ありがとうな」

「‥ふふっ‥ん‥何があっても‥がんばろうね‥」


 和やかな空気の中、二人一緒に帰る。しばらく歩いていると、俺は後をつけられている事に気づいた。


「‥なあ獅堂よ?それで本当に隠れてるつもりか?」

「む、この私に気づくか」

「気づくもなにも、思いっきり出ちゃってるだろう‥何もかもが。‥で、何のつもりなんだ?」


 柱に一応隠れてるつもりらしいが、ものの見事に全てが出てしまっている。


「バレてしまったら仕方がない。これから暫く、お前の事を観察させて貰う。私の事は気にするな」

「だから、気にするなって言われても無理なんだって!何でそんな平然とした顔してんだよ!?せめて一緒に帰ろうよ!めちゃくちゃ怖えからさ!」

「‥獅堂さん‥よかったら‥一緒に帰ろ‥?」


 日和も獅堂を誘うが、少しだけ彼女は考える素振りを見せた後――


「いや、後ろでいい。横に並ぶのは友達だけだからな。誘いは有難いが、私とお前達は友達ではない。なに、私の事は気にするな。ほら、こうやって隠れて見てるだけだから」

「コイツめんどくせぇええ!!!」


 そう言って獅堂はまた柱の影に隠れ出した。勿論全てを曝け出しながら。


 諦めた俺たちは、丸見えの獅堂に後をつけられながら帰宅したのであった。

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