第3話 クラスのあの子の様子がおかしい

 夏休みも終わり二学期が今日から始まる。制服に着替えていざ学校へ行こうとしている時、瑠奈からLINEが届いた。


《おはよ!別のクラスだから寂しいけど、昼休み会いに行くからね♡あ、あと浮気は許さないんだからっ!」


 ご丁寧に可愛いキャラスタンプとセットである。普通の彼女からだと「か、可愛ええ‥」と朝からテンションが上がるメッセージだが、生憎そうはならない。伊集院と一緒のクラスだから寂しくないだろ?や別に会いに来なくていいぞ?と言いたいところだが無難に返事を返して家を出る。


 登校時間はいつも一人だ。前までは隣に瑠奈がいればなあ‥と考えていたが、家が近くなくて本当に良かった。


 浮気は許さないんだからっ!‥‥か。それにしても、一体どういう心持ちで瑠奈はこんなLINEを俺に送りつけて来るのか。玩具で遊んでいる感覚なんだと思うが、もはや呆れを通り越して笑えてくるのだが。


 うーん、瑠奈にしても伊集院にしても考えれば考える程イカれてると思うのは俺だけか?お互い曲がりなりにも好き同士なんだったら、誰か他の奴と楽しそうに会話してたり、触られたりしてるの想像するだけでも普通は嫌だと感じるもんだと思うんだけどなあ。好きな人が他人に抱かれるなんて言わずもがなだ。


 それなのに伊集院は瑠奈が俺と付き合ったままな事を容認し、瑠奈もまた伊集院が他の女子と関係を持つ事を容認している。  


 うん、怖いわ。コイツらの感性が怖い。イカれてるよ本当に。


 夏休みに瑠奈と伊集院の関係を知って確かに俺は絶望を知った。その後よく眠れない日々が続いたが、今ではむしろ清々しい気持ちでいられている。当然復讐する事は微塵も忘れてない。だけどボロボロに傷ついた分、悪夢から目を覚ます事はできた。


 何事もポジティブに考えなきゃな。流石にあんな事があって恋人を作るとか当分出来そうにないが‥‥。瑠奈が特殊なだけだと頭では分かってるんだけど、結構なトラウマにはどれだけ強がっていてもなっている。


 まあ、恋愛だけが人生じゃない。時間はかかるだろうが気長に克服していこう。生きていれば、俺の事だけ好きになってくれる人だってこれから現れてくれる筈だ。


 それに日常生活だって楽しく送らないと人生もったいない。あくまで復讐する時との気分のオンオフは大事に切り替えていこう。


 学校に着き始業式という無駄な時を過ごした後、教室に入ると先に戻っていたクラスメイト達から出迎えられた。


「よお、優斗!久しぶりだな。てかお前、夏休みの間結構遊びに誘ったのにさあ‥」


 爽やかな笑顔がよく似合う長身イケメン、おまけにバスケ部エースなこの男は相模恭二さがみきょうじ。イケメンと言うだけで俺みたいな狭量な奴は腹立たしく思いたい所だが‥何を隠そうこの男、とんでもなく性格まで良いやつなのだ。俺がもし女の子だったら他の多数の女子と同様に、恭二に間違いなく惚れてる。


「恭二ぃ〜、それは仕方ないんだよ?影っちはどうせ家で彼女さんとイチャイチャ朝から晩まで夏休みはやりたい放題してたんだし。何をとまでは言わないけど!ね!影っち?」


 悪戯っぽく俺にウインクするのは恭二の幼馴染の早乙女舞さおとめまい。誰がどう見ても恭二に惚れており、周りからはバレバレなんだが肝心の恭二本人が気づいていない可哀想な子だ。恭二にアピールしたくてメイクを頑張っているせいか見た目は少しギャルっぽい。何気に初めてあだ名を俺に付けた人でもあり当時嬉しかった事を覚えている。‥結局早乙女以外呼んでいないが。

 

「優斗‥‥お前まさかもうそこまであの瑠奈ちゃんと‥‥!?お前だけは俺の心の友だと信じていたのに‥‥絶交だあああああああ」


 絶望してそこで天を仰いでいるバカは俺の中学から友達の後藤太一ごとうたいち。顔はいいのに脳内が痛い。常に卑猥な妄想ばかりしており、あまつさえそれを隠そうとしない。本人には言わないが、俺はコイツのそんな飾らない性格が好きだったりする。実際友達想いのいい奴なのだ。


 太一‥確かに童貞は卒業したが瑠奈はお前の思ってるような女子じゃないんだぞ。

 

「あはははは。また後藤が馬鹿やってる〜。そんなんだからアンタはいつまで経っても彼女出来ないんだよ?」


 そう言って後藤を揶揄うのは茅野凪かやのなぎ。早乙女とは大の親友。茅野が言うには、早乙女の恋愛相談に乗ってあげているらしい。でも茅野本人は絶対楽しんでいると思う。Sっ気の強い人。俺が思うにSな茅野とMな後藤は付き合えば絶対上手くいきそうなんだが。前茅野にそう言ったら強めのビンタをされた。


 ガヤガヤと騒いでいると、教室に戻ってきた生徒が俺たちの元に集まってきた。そう、うちのクラスにはスクールカーストが存在しない。美男美女やそうでないもの、所謂陽キャラ陰キャラ等お構いなしに仲がいい。本来なら恭二や早乙女、茅野辺りがスクールカースト頂点に君臨するもんなんだろうが、彼らが誰に対しても社交的でただただイイ奴なのでそうならなかったのだ。


 一通りクラスメイトが集まった所で何故か太一がキョロキョロしだした。目が血走っているのが非常に気持ち悪い。


「あれ?俺らのアイドルの日和ちゃんは!?俺あの子見る為に学校来てるようなもんなんだけど!?夏休みで会えなかったから今すぐ成分を補給しないと」

「「「何それキモっ‥‥」」」


 その場にいる女子全員から容赦のない罵倒が太一に浴びせられるが同情の余地はない。本人は気持ちよさそうだし、まあいいだろう。


 あれ?言われてみたら見当たらないな。後藤が血眼になって探している日和ちゃんというのは、クラスメイト皆から可愛がられているクラスのアイドルの小日向日和こひなたひよりだ。銀髪で白雪のように透明感溢れる真っ白な肌と聞けば、クールな美人を想像するかもしれないが彼女はてんで違う。なんと言うか、とてつもなく子犬っぽいのだ。それも小型犬。もっと言うとポメラニアンっぽい。


 身長は150センチ行かないくらいだろうか?小さな顔に合った端正な顔立ち、くりっとした大きな瞳が相まって非常に幼い印象を受ける。にも関わらず、身体はとんでもないわがままボディであり男子達の目は自然と胸にいってしまう。瑠奈の倍以上あるのでおそらくFかGだろう。


 とにかくあらゆる仕草含めて存在が可愛らしいのだ。故に女子からは妹やマスコットのように愛され、男子からは神聖視されている。俺には瑠奈という大切な人がいた為に、これまではあまり他の子の事を脳内でも可愛いとか考えないようにしていたが今となっては違う。


 小日向日和は皆の言うとおりマジで可愛い。


 しかも基本男子とは話さないし俺も例外ではなかったのだが、高校入学して一ヶ月くらいからやたらと距離感近く話してくるのだ。こっちはモフりたい衝動を抑えるのに必死である。


 まあそのせいでクラスの男子から、主に太一からは射殺すような視線を受けて困るのだが‥‥と考えていると早乙女が笑顔で教室の出入り口を指差した。


「あっ!日和きた!」

「‥ん!」


 小日向日和の登場で男女皆が一斉にほわわ〜んとした笑顔になる。俺もつられて笑顔になってしまった。


 ミディアムのサラサラヘアーのてっぺんに今日もアホ毛を立たせながら、スタスタと早乙女の側に駆け寄りピタッとくっつく。早乙女に頭を撫でてもらうのが学校での毎朝の恒例となっている。


 撫でられた小日向は何とも気持ちよさそうな顔だ。どういう理屈か分からないが、彼女の気持ちと連動するようにアホ毛がブンブンと揺れている。


「‥ん」


 ひとしきり満足そうに早乙女に撫でられ終わった後、何故か小日向が俺の方へ駆け寄ってきた。早乙女の時と同じように身体はピトっとくっつけられている。


「え?え‥?小日向さん?一体どうしたんですか?」


 思わず敬語になってしまう俺を、小日向は意にも介さず何やら必死に頑張って背伸びしている。そして俺の頭が小さい手で慈しむように撫でられ――


「‥よしよし」


 唖然。クラスの誰もが小日向日和の行動に唖然としていた。勿論俺自身が一番唖然としている。


 そして俺に抱きついたかと思うと、とんでもない事を言い出す。


「‥ゆうくん‥えへ‥私の彼氏‥」


 ‥‥‥‥‥あの、小日向さん‥‥?君は一体ナニヲ??


「「「えええええええええええええええええええええ」」」


 クラス全員がその場で大絶叫した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る