第265話 降りやまぬ雨

第9試合

Day2の3試合目だ。


第8試合では、敵に苦しみつつも割と高順位を保てた。

1位から落ちたのは仕方ないと皆思っているので、ここは何も言わない。

問題は次の試合だった。


「これ次どこ降りればいいんだろか」


また固定の街を降りても、狙い降りしてくる敵が何人か居るだろうなぁ。

だからといって別降りしても、今なら追跡される可能性もある。


『lucus~これ次どうするの~』


『んーそうだな……こことか?』


とピンを指したのは、固定で降りていた街とは別のところ。

配信用とかで、たまーに降りている街だった。


『あ~ありですね。ここなら敵も少ないでしょうし』


「だな。じゃあここで」


俺らそう言って降りる場所を変えた。

ただこの変更は更に地獄に墜とされることになった。







『あれ、なんか敵多い…あれ?』


wartの声とともに俺も周りを見る。


「確かにちょっと多い……な」


何パーティだ…?3くらいか?

思った以上に来ている。


『多いな、なんでだろう。俺の予想なら1パーティ居るかいないかなのに』


彼曰くの話だが、前試合でのアーカイブもちらっと見て立ち回りをしているだとか。

その上でさっきの試合、ここに降りている敵は1パーティだけ。しかも周りに敵なしという状況だった。


『合わせに来ている可能性も…ありますね』


endmの発言に空気は重くなった。

確かにさっき見たパーティが1つある。


「読んできたか……完全に俺らを潰しに来ているな」


相手は確か今ランキング8位とかだった気がする。

ここで3位である俺たちの攻撃を止めて、優位に事を運ぼうって言うことなのか。


『とりあえずここの敵からやるぞ!』


「おっけ、すぐいく!」


戦わないと勝負の行方は分からない。

彼の指示場所に皆で集まる。


『ここの敵撃ちます~!行きます!』


endmの宣戦布告で試合が始まった。

今この街には俺らの他に3パーティいる。

この戦い中に、残り2パーティがどこからかやってくるかもしれない。


と考えると早く終わらせるのが吉だ。


武器運には恵まれていなかったが、ピストルだけでも戦えないわけじゃない。

これでも世界ランキングを取ったことがあるからな。


「ナイス~!次行くぞ!!」


3人は終わった。残り1人はendmがすぐ倒す。


『次こっちから!』


戦いはまだ終わらない。

むしろここからだ。

敵がどんどんラッシュ感覚で押し寄せてくる。


「俺が前に出るから、lucusは後ろから頼む!」


『分かった!』


endmが他で駆り出されている以上、今俺が戦うしかない。


『後ろからも来るかも!気を付けて!!』


wartの忠告を聞きつつ、敵と正面でやり合う。

敵は4人。

また1vs4かよって一瞬脳内をよぎったが、今は後ろにwartもlucusも居る。

そう安心感を持てる。


相手は初動だからか、スナイパーライフルは持っていなさそうだ。

ただ数で押されてしまう可能性も十分にあるので慎重に戦いたい。


ピストル1丁での限界を頭に入れつつも、勝負を挑む。

後ろからlucusとwartがアサルトライフルで攻撃してくれるので、割と楽だった。

ただ敵が撃つ攻撃はすべて俺にヘイトが向いていた。


「うおっと、やべえな」


4人の敵が一点に集中するとなると、まあまあにきつい。

出来るだけ射線を掻い潜りつつ、ピストルを撃つ。


うん、ピストルが弱い。


あまり使い慣れてないのもあって、全然ダメージを入れられない。

とここで悲報が入ってくる。


『うわ~!やばい!後ろから来てるよ~!』


wartはそう叫んだ。

うん、大ピンチだ。


『endm、そっちはどうだ?』


『ごめんなさい!ちょっと苦戦中です!』


とendmも全然出られそうにない。

割と行ける状況だったのが、めちゃくちゃピンチに変わってしまった。


『ごめん!私たちは流石にきついかも!!』


『そっちは任せた、俺らが出来るだけ食い止めるから、逃げれるなら逃げてくれ』


lucusとwartはそう言って離れていく。




よって今この状況は、また1vs4に切り替わった。


「はぁきついなこれ。」


流石に不味い状況。

endmも割と苦戦しているし。負ける可能性すらあるのではないか?


とりあえず、前の敵を……と思ったら既にもう目の前だった。


「うわ!?」


急に来た弾をギリギリで避けると、少し下がろうとする。

だが、そう甘くない。


「後ろも!?」


後ろに敵が回っていた。

挟み撃ち、これは流石にきつい。



ここでlucusとwartがダウン、キルは2キル持って行ったよう。

これたぶんだが、生き残る作戦じゃなく、キルを持って行く方がいいかもな。

はっきり言ってこの勝負で勝てるわけがない。


「挟み撃ちきつ」


とりあえずひたすら身を引くが、どこに行っても敵が待ち構えている。

なんとか避けているが、もうタイムリミットだ。

この先行き止まりか……。


そう脳内を駆け巡った。





とendmがこのタイミングでやられた。

ちょっときつかったか、と思う。

1人で既に2人持って行っている状況に無理やり敵が絡んできたような感じだったので、仕方ない。


残りは俺だけ。

1vs4という状況で、行き止まりに合う。




もはや選択の余地もない。


「ここからどこまで暴れられるか…………だよな」


持っている武器は依然として同じ。

この1丁の頼りない武器がどこまで通用してくれるか。




やってやろうじゃないか。





敵4人はどんどん近づいてくる。

撃ちながらということもあり、俺は避け続けないといけない。

隙が生まれるタイミングがほとんどない。

ただ僅か、その一瞬でダメージを稼ぐ。


「まずは1人」


頭に当てるのは大前提。

じゃないとなお厳しくなっていく。


敵はこのまま押し切れるだろうと、距離はどんどん詰めてくるばかり。

あと一人、それだけ持って行きたい。

じゃあもう避けることを辞めて、エイム重視に切り替える。

最後の抗いが始まる。


ただ立ち尽くし、ひたすらにエイムを敵の頭に当てる。

確殺は間に合わなくとも、後から来るであろう別パーティがしてくれるだろ。

そう信じて、俺はダウン状態を狙う。


敵の攻撃のピントがついに俺に向く、その前に1人持って行った。


「よし………まあ妥協ラインとしてはこれでいいな」


ここにきて沼にハマった感覚がする。

endmも今日はさほど調子がよろしくないみたい。





この第9試合でランキングはもちろん降下した。

3位から7位への転落。

これは割と痛手。

ただここから昇華していくのが俺たちだ。


ここで気分がマイナスになる人などもう居ない。

全員前を向いていた。

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