第245話 悲観
昼休憩、空気は一切明るくない。
むしろ重い空気が広がっていた。
3試合目、俺らは初動で散った。
総合順位も10位まで転落。
全ては俺のミス、完全にそれで全てが転んでしまった。
「あの時あーすれば」
そういう言葉がすぐ口に出る。
昼食中もあまりあまりのどを通らない。
『だ、大丈夫?blanc…本当に………』
『話聞くぞ?俺らは同じチームじゃないか』
wartとlucusはそう言ってくれるが何も反応できない。
それほど俺に責任感は積もっていたのだ。
見てはいけないと思ったが無意識に見てしまった。
励ましの言葉もややあった。
それはもちろん嬉しいし、やっぱり頑張ろうかな、そう思えるタイミングもあった。
けれど、〔期待外れ〕〔王者も落ちぶれ〕
などというコメントもやや見受けられた。
はぁ。
世界最強、そんなものはとっくの前に失っていた。
プロゲーマーという座を一時的に遠のき、ストリーマーとして配信業を営んで、
でも世間の目は違った。
世界王者が次々と入れかわるに対して、blancに対する目はどんどん期待の眼差しに変わっていた。
いつ世界に戻ってくるんだ、プロゲーマー復帰はいつか。
周りの期待が波のように押し寄せ、それがやがて俺にとっての重荷へと変わった。
「俺ももうきついのかな………」
たった1試合、されどもその1試合を落としてしまったのは大きく響いた。
「もう少し、もう少しだけ実力があれば。」
wartもlucusも俺の話を黙って聞いてくれる。
口を出さず、真剣に。
「時間が来た……か。いくか」
あっという間に時間は過ぎた。
ここで試合を終わらせる、というのは流石に俺のプライドが許さない。
でも…………。
『blanc、本当に大丈夫?』
endmが部屋に戻ってくるや否や、俺の方に近づいてきた。
『俺らは先行っとくわ』
lucusとwartはそのタイミングで部屋を出た。
俺も行くか………。
そう思って部屋を出ようと動いた瞬間だった。
『全てを抱える必要なんてないんだよ』
endmは優しく抱擁した。
「でも」
『でもじゃないよ、私達はチームなの。全てを背負わなくていい』
なんだか昔の夜音を見ているようだった。
学校に行けなくなって、自暴自棄に病んでいた時、
彼女が、
「今できることをすればいい、変えられない過去は思い詰めるものじゃない。未来を変えるためにあるものなんだよ」
中学生とは思えないほどの安心感。
なんだかendmはそれに似ていた。
『今までもよく頑張っている。たとえ過ちを犯してもそれを変えられないんだよ。
でもまだ学びにつながる。これからは皆で抱え合えば良い。何より誰もblancが悪いだなんて思ってないんだから、さ。』
endmはそう言うと、俺の前を歩みだした。
『まだ舞ってほしいな。君はこんなもんじゃないでしょ』
後ろ姿でそう告げて部屋を出て行った。
まあ確かにそうだな。
過去は変えられない。
endmも夜音もそう言った。
俺が一番よく分かってるじゃないか。
この3年間で俺の人生はガラリと変わった。
まだ3試合。
残り9試合もあるじゃないか。
たった1試合、これくらいが散ってしまおうとここで白い流星は止められない。
俺は気持ちを戻した。
「ごめんな」
誰もいない部屋にボソッとそう言って俺は部屋を離れた。
スマホを見ると、色んな人から連絡が来てる。
やっぱり顔を出したことで、っていうのはありそうだ。
クラスの人からも何人か来てるし、HESKALのメンバーからも何人か来てる。
うーん、分かってはいたが困ったことになったかな。
俺はふと目に入った1人の連絡を見る。
《おかしいと思ったよ、どうりで強いわけだ!頑張って!!世界を取って帰ってきてね!!》
春陽からだった。
俺は一言だけ。
《任せろ》
それだけ送信して、スマホをポケットに入れる。
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試合会場に向かっているとき、また謎の少女とすれ違った。
でも、彼女が向かっているのは招待観客席。
あれスクワッドには出ていないのか?
『王者ももう落ちぶれたものね、日本には良い言葉があるじゃない。
強者どもが夢の跡ってね。君の時代はもうとっくに消えてしまったよ。』
「だが……」
『デュオで巻き返せばいい?ふっ、バカな事言わないで。もう私たちの時代だから』
俺の言葉をさえぎってそう言った。
このまま彼女は進みだす。
けど、このままにさせない。
「せいぜい見てろ。白い流星はまだ輝き始めたばかりだ。」
まだ悔やむのも早い。
俺らの逆転劇は、ここから始まる。
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