第220話 アジアを歩む②

準決勝は3試合。

そのうちの2試合が終わった。

1試合目はendmが無双し、2試合目も変わらない様子で走り続けた。


彼女は見つけた敵を端から倒しに行っているので、敵側も対策出来ない。

だからこそ2試合連続共に、キル数順位数を伸ばして1位に駆け上がっている。


その状態で迎えた3試合目。

てっきり彼女はまた同じようなことをするのかなと思ったが違った。


『3試合目はここに降りていいですか?』


とピンを指した場所は、敵が誰一人降りないようなランドマークだった。

俺らの降りる場所は候補が4つくらいあった。

そのうち、たぶん使わないであろう立ち回りの1つがここ降りのスタートだった。


「あれ、ここに本当に降りて良いのか?」


ここじゃさっきのような戦闘狂まがいの事は出来ないが。


『良いんです。私の考え聞いてもらえますか?』


今この状況でendmが話すことというのは、大抵まともじゃない。

が、それにしては珍しく理にかなった作戦だった。


この2試合で稼いだキル数は例年の1位の人よりも多いらしい。

だからここで順位ポイントを稼いでおくことで更に安全に行けるのではないか?という選択だ。

もっとも、じゃあ1試合目も2試合目ももう少し安定した立ち回りをしたらどうだ?と聞いたがしっかり無視された。


『ということでここに降ります』


「まあいいよ。」


1位通過は出来なくても、決勝進出は割ともう既に固い。

だからちょっとくらい緩くしても良いか。


「まあそうだよな~」


敵は当たり前のようにいない。

こんな島の端っこなんか誰が興味あるのか。


『武器揃いました~、やっぱり初動が安定するってでかいですよね』


まあ初手からendmが暴れるせいで、いつか一人になっちゃうんじゃないかとひやひやしてる俺の気持ちも考えてほしいものだな。


「こっからどうするんだ?」


一応立ち回りとしては、近くの街を狩りに行くのだが。

安定して勝つなら別にその必要も要らないと思う。


『そうですね…無理に戦闘しても…ですもんね』


たぶんこいつは、一瞬戦闘でもいいじゃないかとか思っただろうな。

まあここで堪えたのは偉い。


『とりあえず、こっち側に行きましょうか』


方向は街とは反対側。

本当に戦闘を避けるつもりだ。

久々にちゃんとしたムーブが出来るんじゃないか?


「どうだろうな~決勝はまた立ち回り変えないとね」


『まあそうですね…また話しましょうか』


流石に今の立ち回りじゃ甘さが目立つ気がする。

もう少し最適化にしたいところ…。


「まああとは、目標キル数とかを決めてると毎試合の目安が分かるか」


『あ、それはもうlucusがまとめてくれました。』


「え、まじか流石だな…」


情報収集感謝すぎる。

これでもデュオは敵チームだぞ?


『あ、敵居ますね』


「え、まじか気が付かんかった。」


ちょっと話の方に意識を向け過ぎた気もする。

俺は物影に隠れて、様子をうかがう。

敵は二人、どちらもそこまでの警戒心は無さそうだ。


『blancがスナイパーで先制攻撃して、私が攻めます。』


「了解」


と言っても俺のスナイパーの責任が重い気もするが。

ま、このくらいの敵なら頭一発で抜けるな。


「よし、行ってこい!」


しっかり頭に当てた。

endmはその瞬間獲物を狩る勢いで敵陣に駆け込んだ。

既にスナイパーのおかげで一人はダウン中。


俺も後から駆けつけようとしたが、既に戦闘は終わっていた。


『とりあえず2キル。計算通りですね』


endmが居るおかげで戦闘面の不安はあまりない。

強いて言うなら、他の奴らから反感を買い過ぎて決勝どうなるか、ということだが。


「とりあえず、安全地帯の方に向かうってことでいいか?」


『そうですね。とりあえずそちらに行きましょうか…ってあそこにも敵が居ますね』


「あ~そうだな。でもここで戦闘は控えるべきじゃなかった?」


『そうですけど…でもここで逃がすのは何と言うかもったいないと思いませんか?』


え?


いやいやちょっと待って?

あくまで3試合目は落ち着いて勝ち抜くんじゃなかったっけ?


『私ちょっとだけ、ちょっかい掛けに行きますね。ただリスクも高いのでblancは来なくていいです』


まあ二人ともやられたらそれこそピンチよな。

ローリスクで敵陣に向かうのが一番だ。


まあ一番は戦闘しないことだと思うんだが?


「分かったよ、無茶はせず戻って来いよ?」


『分かってます!任せてください!』


さて彼女は飛び出していった。

結末はどうなるか?

もう話さなくてもいいんじゃないか?






『無事戻ってきました~』


2キルちゃっかりしてきたなこのやろう。

endmが戻ってくるのはもはや分かっていた。

それくらいの強さがある。


「お疲れさん。で、どうする?」


ちょっと作戦から脱線し過ぎた気がするが。


『銃声聞こえるので倒しに行きませんか?』


ちょいちょい待てと。

今なんて言った?

倒しに行く?


「endm、流石にリスクが高い。ここは生存を…」


『じゃあ、スナイパーだけ貸してください!』


スナイパーっか。

まあ攻めに行くよりはここからチクチクやってくれる方がまし…か?

俺はエイム魔人の彼女にスナイパーを渡してしまった。


『よし、ちょっとだけやっちゃいます』


と彼女はスコープを抜いて一発。

また一発。


そしてラストに一発。


『あ、1キルゲット~!』


うん。知ってた。

スナイパーを渡した時点で悟ってたよ?


「endm、流石にちょっと場所を変えよう」


銃声で敵が来る可能性があった。

それに、生存第一という作戦はどこに行ったのだ?

もうキル数は十分ほどに稼げた気もするが。


『私も流石にもう良いかな。ここは下がりましょう』


あれ案外あっさりと納得してくれた。

まあここでグダグダ言われても困ったが。


「小屋でのんびりしとくか。」


安全地帯の中でも端の方だが、結構な安全場所だった。

endmは従順に付いてきた。


『決勝行けそうかな~。でもどうせなら1位通過したかったのでちょっとだけキル数増やしちゃいました。すみません。』


「まあ良いよ。今生きてるし。ただ決勝はもうすこし控えてくれるとありがたいかな」


『分かってますよ流石に私でも』


分かってたら準決勝でこんな暴れないと思うけどな~。

まあいいや。結果オーライというやつか。




その後は近くに来た敵に攻撃して威嚇したり、状況を見たりしてキルもいくつか追加で増やせた。

生存意識で終盤は動いていたので、そのまま3位でフィニッシュ。

最後は立ち回りを少し間違えてしまって少し悔しい。


けれど、結果準決勝は1位通過出来たのでまあ良いとしよう。




「お疲れ~」


大会も終わり、横でプレイしていたendmの方を向いた。

ちょうど彼女もゲームを閉じた様子で、


『お疲れ様です。次はスクワッドの準決勝ですね。頑張りましょ』


と言った。

リビングに戻ると、夜音がぽつんとソファに座ってる。


「ずるい~私も一緒にゲームしたかった~!」


いまだendmということを分かっていないご様子の夜音は駄々をこねていた。


『明日にでもまた一緒にしましょ』


「でも真白ちゃん強すぎるよ~」


『あはは、味方としてやれば楽しいんじゃないかな』


endmばっかり倒すところまで想像出来た。

まあいいか。


二人の親善に首を突っ込むのもどうかと思い俺はキッチンに立つ。



次はスクワッド大会か。

まあたぶんこの順調なら決勝までは簡単に行けるんじゃないかな。

ただ問題は決勝。

割と勢揃いの精鋭部隊と激突するのだ。

油断すれば、世界大会にすら足を進められない。

そういう次元にこれから立つのだ。


俺は世界を経験しているからこそ、アジアの実力がどこまでかは分かっている。

どれだけ周りが強くても、諦めずに勝ち残る。

それが今のチームなら出来る、そう信じている。


だからこそ今俺は頑張れている。




もっと気を引き締めて、頑張りますか。

スクワッド大会、どうなるか楽しみだ。


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【後書き】

ちょっと書きすぎたかもしれない。

まあそんな日もあっていいよね。

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