アジア大会編

第219話 アジアを歩む①

endm用にもう一台PCを設置した。

これはHESKALから頂いたもので、

まったく同じものを保持していたので棚に保管していたのだ。


『本当に申し訳ないです…』


凄く彼女が居づらそうだが、まあ気にしてもどうかなと思い触れないでおく。

マウスやキーボードは、流石に彼女が使っているものを用意するのは困難極まりない。

ただ、棚に置いていたいくつかのうち、一番使いやすそうなものを選んでもらった。


「どうだ?それでいけそうか?」


『そうですね。流石に絶好調とかまでは行けませんが、割と本来通りの力が出せそうです。』


「良かった。」


なんとかPC問題は解決した。


彼女に設定は任せた。

俺が今後使う可能性は無きにしも非ずだが、今は使わないからendmに貸し出しておいてもいいだろう。


『準備出来ました。本当に感謝でいっぱいです』


「いいよ、頑張るのはこれからだ、な?」


『ですね…気合いを入れます。』




アジア大会準決勝。

世界への挑戦を競う大会の始まりだ。


ゲームは3試合。予選と同じだ。

キルポイント、順位ポイントの配分も変わっていない。

ただここに居るチームはどれも予選を勝ち抜いてきた腕のある人たちだ。


しっかり対応して…


と思った矢先、彼女が突発にこんなことを言いだした。


『私思うんです。』


「ほう?」


急に話始めるものだから俺も少しびっくりした。

今はまだ街に降りたばっかりで、どこからも銃声は聞こえない。

皆資源や武器、アイテムを集めることを優先しているみたいだ。


『なんで皆最初から全力を出さないんだろうって』


「と言いますと?」


『私、1試合目から暴れてきます』


「え?」


ん?今のは聞き間違い?

俺の耳には、今から手あたり次第凸っていきますという風に聞こえたんですが?


『では行ってきます~!』


と彼女は飛び出していった。

止める暇もなくまずは、1パーティを壊滅させていた。


「え、えぇ」


あれendmってこんなやつだったっけ?

俺の中では、安定してかつキルも取って、みたいな人じゃなかった?

初動から全力疾走で狩りまくるのは見たことないが。


『全部終わりました~!次の街行きませんか!』


と当たり前のように街に降りたパーティをすべて終わらせてきたようだ。

キル数は6。

初動でこんな稼げたらもはやもう無理してまで攻める必要はあるまい。


「これ、中盤までそんなに攻めなくても…」


『ポイントは取れる時に取らないと!』


「え、あ、は、はい」


何も言い返せない。

なんでだ、俺の今までの常識は違うかったのか?

そう思わせるくらいに彼女は暴れ始める。


『こっちやりました、blancの方にもいるみたいなので助けに行きますね!』


助けに行く、というのは建前で私が全員倒しますねと言っているようなもの。

やばいこの人人格でも変わったか?


「ちょ、ちょendmさん。」


『はい、どうしました?』


3つ目の街にでも行こうかとしているところに俺が声を掛けた。


「これ大会っていうのは分かっているよね?大丈夫だよね?」


『もちろんですよ、アジア大会準決勝の1試合目ですよね?私でも覚えてますよ』


ですよねー。

てっきり忘れてるのかな~という唯一の考えは簡単に捨てられてしまった。

大会で、ランクマのごとくハイペースを続ける彼女。


もちろん俺も何もやっていないわけではない。

彼女を死角から撃とうとしている敵に対して、俺が対応したり後ろから攻めてきている敵の注意を俺に逸らしたり。


ただ、そんなことをしたところで彼女の暴走には何も関連性がない。


『こんな感じですかね、しばらくじっとしましょうか』


やっと落ち着いたか…と思うのはもはや違う。

すでにキル数は14に達した。

3キルは俺が稼いだもので、11キルは彼女1人で暴れまくったものだ。


「まあ実際成功したから良いの…か?」


『そうですよね、じゃあ2試合目も……』


「絶対だめだ。降りる場所を変えて安定に立ち回るぞ」


『えーなんでですか』


なんでって、流石にリスクも高すぎる。

リターンは多くても、これじゃあ決勝進出にも行けない最悪の展開だって見えてしまう。

もう少し安定に立ち回りを……。


「まあこの試合だけなら暴れても許すけど…」


既に14キルを取った今。

多少はリターンが大きくなっている。

これなら2,3試合目でよほどのヘマをしない限り割と決勝まで行けるんじゃないかな?


『え、良いんですか!?』


あ、まずいさらっと言ったことを完全に鵜呑みにしてしまった。


『じゃあここの街行きましょ~!』


明らかに距離が合っていないにも関わらず、どんどん攻める。

次の安全地帯と照らし合わせても、なんなら不利になるだけ。


今日のendmおかしすぎるよ。


「あ、待って~」


そんなことをしてるあいだに彼女はどんどんと街に近づいている。

俺一人は流石に厳しいと、後ろを頑張って付いて行く。





彼女のリミッターは既に外れていたが、2段階にでも付いているのかなというくらいさっきよりも暴れ具合は増している。

これじゃあもはやendmの独壇場とまで言える。


『終わりました~!』


残り人数は4人。

俺らを外せば2人なので実質1パーティ同士の戦い。

キル数は20ぴったり。


endm、暴れすぎや。





結局ラストも彼女がすべてを持って行ったのだった。

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