第180話 葛藤、そして決意


「お疲れ~」


wartの掛け声に合わせて皆で乾杯する。

特に手元配信で事故る様子はなかった。

割と心配していたのは俺だけで、他のメンツはそこまで考えてなかってらしい。杞憂だったな。


「それにしてもblancのあのプレイはなんなんだ」


「え~うん…」


なんなんだと聞かれてもなぁ。

いつも通りやったとしか返せない。

強いて言うならいつもより照準合わせを意識したくらいか?


「あれは上手かったですよね…私もああいうプレイがしたいです」


そう言ったendmは礼儀正しくちょこっと座ってお茶をすすっていた。


「いやいや、endmも大概でしょ」


「でも命中率スコアが…」


「いや、あれは…」


割と思った以上に根に持ってるな。

と言っても仕方ないとしか…


「endmならすぐ行けるって」


そうカバーのつもりで言い返したのだが、


「でもblancはピストル縛りですよね、ちゃんとやってたら、今頃ぼろ負けですよきっと」


完全にendmはダウンモード。

場の空気も若干暗い。


「endm~大丈夫だって。blancより上手いって確実に」


wartのそれはもはや慰めれてるのか?

endmは依然として起き上がらないが。


「すみません、ちょっとだけ場を離れます」


「あぁ」


wartの声もむなしく、そのままendmはどこかへ歩いていった。


「仕方ないっちゃ仕方ないからな」


lucusはそう言った。

俺も正直そう思ってる。

たまたま出たとはいえ、ちゃんとルールに乗っ取りフェアプレイで出たものだ。

じゃあ1位にならなければ解決したか、と言われるとそうではないし、endmもそうは望んでないだろう。


「俺が見てくるか」


せっかくペアになったし、話を聞きに行こうかな。

wartとlucusに若干不安の目を投げられたが無視だ。

どうにか自分でしたい。



相変わらずlucusの家は広いなって思う。

無限に続くかのような長い廊下、それにたくさんの部屋。

俺が住んでもいいんじゃないかくらいには部屋が空いている。


窓からの月の明かりに照らされながら、廊下をてくてくと歩く。

その先にあるのは、とある建物の屋上。



「やっぱり居たか」



その屋上にはendmが空を見上ながら立っていた。


「なんか色々とごめんな」


「いえ、blancが謝ることではありませんから」


彼女は少し寂しそうにそう言う。

俺はなにも言い返せないまま、彼女の横で月を見上げていた。


2,3分の長い沈黙、それを突き破ったのは彼女だった。


「私まだ何も大会で成績を残したことがないんです。」


え?本当に?

と思わず聞き返しそうになったのだが、ここはおとなしく黙っておく。


「blancは言うまでもなく、wartもlucusも色んな大会でトップを取ってます。でも私はろくに大会出たこともないし、賞を一度も取ったことがないんです。」


なんというか、凄く意外。

あれだけ化け物だと全然狙えると思うけどな。


「大会を最後まで通してやったことがないんです。

家庭的事情でずっとゲームに手を回せなくて」


「あ、今回は大丈夫です。ちゃんと代わりの人を用意しましたから。」


なにか事情を察した気がする。

でもここで聞くのはなにか違うと思うし、彼女なりになにか考えがあるのだろう。

家庭事情に踏み込むのはモラルに反する。


「だから、ちゃんと大会に挑戦したくて、」


「それで今回の世界大会は、フルで手が回せるからこそ本当に頑張りたくて」


「でも焦りが見えてきて、」


彼女の目にはうっすら涙。

凄く優しい天使的存在。

そんなendmでもこうして悩んでいることがあったんだなって思う。


「私の取り柄はエイムそれだけなんです。でも今日blancに抜かされたことで、もう…」


この子は全然分かってない。

そんなことで悩む必要なんかない。


「endm、ここで止まる必要はない。それに焦らなくて大丈夫だ。今回俺たちはペアだ。敵じゃない」


「でも…」


「大丈夫だって、優勝を取るんだろ?」


俺はおもしろおかしくそう言った。

若干冗談交じりではあったが、彼女の方は至って真剣だった。


手で涙を拭くと俺の方に笑って


「そりゃもちろんですよ」


いつものendmが戻ってきていた。


「endmは偉いよな、ちゃんと身の回りのことを考えれてな」


俺には無理だった。

今でこそ反省を活かせれているが、それは一度の過ちがあってこそだった。


「ありがとうございます」


完全にいつものendmだ。

さっきまでの姿を彷彿とさせないほどに、


でもなんだがその姿がたくましくて、

圧倒されそうで、思わず強気になってしまう。


「付いてこいよ、優勝を見せてやる」


俺はそう言って振り返った。

少しずつまた廊下に戻る時、後ろでボソッと小さな声が聞こえた。


「ありがとう」


その声は今まで聞いたことがないくらい優しくて、身体がふわっと包み込まれる感覚だった。



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【後書き】

めっちゃサボってました。

10日以上空けてますねやば

ごめんなさい!!!

8月はもう少し投稿頻度をあげたい!



あとスマホ書きづらい!!!!


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