第127話 エピローグ

「そろそろ行くぞ~」


スーツケースを持って、カバンを背負って。

夜音の家の前でそう言った。


すぐ行く~という彼女の声が聞こえつつ、俺はその場で待っていた。


「なんやかんや春休みずっと居たな。」


そして、親は結局帰ってこなかった。

夜音曰く、去年の夏は帰ってきていたらしいが、今年の春は帰らなかった。

まあ、会いたいがために帰ってきたわけではないが、会えないと少し悲しいというものだ。


だが、どうせ会ってもなという感情が頭の中を巡り、どうでもいいかとぱっと消えた。


「ごめん~」


夜音は階段をどたどたと駆け降りてきた。

俺はちょっとだけため息をつきつつ、


「行くぞ」


彼女の家のドアを開けた。






帰ろうかと思ったが、1人だけ挨拶しないといけない相手が居たものだ。


「何?って言おうとしたけどもう春休みも終わりなのね」


風夏は朝っぱらから呼び出されて少し機嫌が悪そうだった。

少し申し訳なかったのだが、挨拶しないわけが無かった。


後ろから彼女の親が出てきて、夜音と喋っている。


夜音も楽しそうに喋っているのを見ていると、風夏は横に来た。


「まあ、良かったね。なんとかなって」


「ありがと、本当に。感謝してもしきれないよ」


「これから頑張ってね。色々と」


風夏はまるでVTuberとプロゲーマーにも口を出していた気がする。


「任せろ。俺なら出来るよ」


今まで無かった前向きな気持ちが今生まれている。

その実感を感じつつ、しゃべっている夜音を眺めていた。


「次はいつ帰ってくるの」


「次か…もう当分は戻らないかもな」


今回は夜音の通院?のために帰ってきただけだった。

その件が解決した今帰る理由がない。

親と会ってもな………。


「そっか。また気軽に相談してよね」


「ああ。その時はまた頼るよ。」


もう彼女に頼らないようしっかりしないとな、という気持ちと、

やっぱり頼りになるなという再認識をしていた。



「じゃあ海斗、行こ」


彼女側でも話がついたようで、スーツケースを手にしていた。


「行くか。じゃあな」


風夏に手を振りつつ、俺も彼女に付いていく。


「また今度!」


久々に風夏の大声を聞いた気がした。

まるで懐かしい中学生のころのように。


今まではパンドラの箱として封じられた記憶だったが、今となってはいい思い出なのかもしれない。

決して良かったこととは言えないが、それでも自分を成長させてくれた出来事で、

これも運命なんだろうと受け入れた。



そんな懐かしい故郷をようやく去った。


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「いや~でもここもここで良いよね~」


いざ俺たちが住んでいる街に戻ると夜音はそんなことを言いだした。

どこでもそういうこと言うんだろうなとか思いつつ、それは心の中で唱えていた。


「今まで住んできた街があそこで、これから住んでいく街がこっちだからな」


「何かっこつけてんのよ」


ちょっとくすっと笑いつつ彼女はそう言った。


「とりあえず帰って何しようか」


「え~」


「とりあえず夜音に家事を教えないとな」


「うわ~いきなりやっちゃう~?」


と彼女は嫌味らしくそう言ったが、表情はまんざらでもなさそうだった。


「なんでそんな顔してんの」


「ちょっと楽しみ!」


「何が?」


「色々!」


楽しみと言われたちょっと驚いたが、まあ支えてくれるのはありがたい。

それが彼女にとって俺が居ることでしているかなんて関係なく、今あるというのが良いことだ。



帰ってから、まだ昼前。

荷物を片付け終わると、色々と家事を教えてみた。


つまずいた…わけでもなく、案外彼女はあっさりと終わらせていた。

これは才なのか?と俺は衝撃を隠せずにいた。


知識的な才能もあり、技術的な才能もあり………


おそらく前の夜音が受け継がれているんじゃないか?と密かに謎の結論は出来ていた。

記憶こそはなくなったが、別にこれはこれで楽しいしいいけどね。


「どう?行けそうか」


試しに昼ごはんを作ってもらった。

特に何も教えず、ただ彼女の腕前が知りたかっただけ。


「うん!」


そう言った彼女の自信満々の顔を思い出しつつ、一口食べてみた。



「あ~美味いな…」


なんか昔の夜音に似ている。

というか味付けが一緒な感じもする。


「どうやって作ったんだ?」


思わず彼女に聞いて見た。

キッチンで誇らしそうにしていた彼女は、


「なんか、これ作ろうと思ったらレシピが頭の中で浮かんできたんだよ。

直感的なね?それでそのままやったら出来ちゃった」



「なるほど…」


前の夜音がどれだけのレシピを覚えていたんだろうくらい疑問に思った。


「これからやっていけそうか?」


「うん!」


彼女はそう言った。

まあ、これからどうなるかなんて知らない。


けれど今はこの生活を守っていかないとな………。






「もしもし。すみません」


俺は一件電話をかけた。


「はい。どうしました?ネスイさん」


かけた先は岩佐さん。俺のマネージャーだ。


「今日からまた頑張ります。」


「どうしたんですか急に。もちろん頑張ってほしいものですが…」


「宣言を聞いてもらおうと思って」


「なんですか、それは」


ちょっと岩佐さんは笑った。

正直俺も何してるのかはっきり分かっていない。

けれど伝えたかったのだ。

これからVTuber頑張っていくって。




そして、もう一人電話をかけた。

案外皆暇なのか、それとも俺が繋げている人が暇なのか定かではないがすぐにつながった。


「どうした?blanc急に」


「lucus。俺頑張るよ」


「お?まじで?」


「ああ」


プロゲーマー宣言もした。

復活して、また全世界に名前を轟かせたい。

そういう思いも生まれていたのだ。



「頑張るぞ、みんなで」


「ああ」





これから頑張らないとなと心に決めつつ、俺は気合いを入れた。


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【後書き】

3.5章終了!!

次は4章!


書きたいこと全部書きます!


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