第123話 Welcome back

「ん~……あれ海斗?」


病室から目を覚ました夜音。

それはこの短期間で再会した彼女ではない彼女だった。

声も高くなり、仕草も変わった。


でも、今見れば夜音に似ている部分が多い夜音だ。

わけがわからなくなりそう。


「あ、おはよう」


病院の先生にそろそろ起きるかもと言われたのでベッドの横で待っていたのだ。

無事戻ってきた夜音と、本当に行ってしまった夜音というのを再確認して何とも言えない気持ちだった。


「あれ?なんで私病室に居るの?」


「まあ、色々あっただけだよ。気にしないで」


「いや、それではごまかせないでしょ」


わんちゃんこれで行けるかと思ったけど無理のようだ。

これ、話すべきなのかな……とか思ったら病室のドアが開いた。


出てきたのは病院の先生……ではなく風夏だった。



「あ、夜音起きた?急に意識がなくなって心配だったんだよ」


風夏は俺の方をちらっと見た。

まるで合わせろとでも言うように。

でもここで俺は嘘をつきたいとは思えなかった。


「夜音、1つ真剣な話がある。」


風夏は正気!?という目でこっちを見てくるが気にしない。


俺は去年何があったか、今生きている夜音はなんなのか、この春休み何があったのか言える範囲で話をした。


最初は信じていなさそうだった夜音も風夏や俺の雰囲気から察したのか落ち着いた。



「というわけだ。だから何かしろというわけではないが改めてよろしくな」


俺は手を彼女に差し出した。

よろしくという気持ちを込めて出したのだが、夜音は驚いていた。

このまま手を引っ込めようかと思っていたら、


「私は私だよ。別に海斗や風夏に何を言われようが気にしない。」


そう言って握手してくれた。

また、彼女との生活が始まるのか、と思うと少しずつ胸がいっぱいになってくる。


風夏は少し夜音と話がしたかったようだ。

だから、俺は病室を出て、先に病院の先生に報告しに行く。

あらかじめ先生からは、意識が戻っても別にすぐ言いに来なくても良いよ。

と言われていたから慌てず言いに行く。


それにしても風夏と夜音って今も仲良しなんだなって思った。

はっきり言って俺の中では昔の夜音は風夏と仲良かったが今がどうなっているかなんて知らなかった。


受験が終わるとすぐに引っ越したし、余計にだった。


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俺は先生に報告した。

先生は


「分かった。すぐ行くよ」


と余裕のある感じだった。


病室のドアを開けて入ろうと思ったら、声が聞こえた。

盗み聞きをするわけじゃなかったが、少し話が聞こえてきてしまい立ち止まった。


「え~出来るかな」


「出来る出来ないじゃなくてやらないと将来のためになんないよ」


「いや、やるけどさ~。」


「なんなら私がそっちに行こうか」


「はっ?」


「いや、それもいい案かな~って」


まあ話筋は相変わらず分からないし、入っても問題ないかなとドアを開けた。


「あ、おかえり~どうだった?」


「すぐ来るってさ」


「おっけ~」


風夏は横にあったバッグを手にかけた。


「じゃ、そろそろ帰るね。あっち戻るまでに一回くらい顔見せてよね」


「分かった~」


そう言って風夏は病室を出て行った。


俺は夜音のベッドの横にあった椅子に腰を掛けた。


「はあ。本当に疲れたよ」


「えっと……色々ありがとうね」


「急にどうしたの?」


夜音が謝るなんて珍しい、と思った


「風夏に家事を手伝えって話をされてさ、よく考えたら海斗に任せきりだったなあって」


まあ、俺が義務感覚でやっていただけだが、これに気が付いた夜音は偉いかもしれない。


「まあ、いいよ。これから一緒に頑張ろ」




「春休み大変だったな本当に」


「私は春休みの記憶ほぼないけどね」


ちょっと笑いつつ彼女はそう言った。


「ねーねー」


「ん?」


彼女に呼びかけられ、向いたら窓を見ていた。

その様子はまるで、あの夜音にそっくりだった。



「私ってどんな人だったの」



特に様子を変えることもなく、ただそれだけを俺に聞いてきた。


俺は色々考えた。

夜音なんて天才の塊だ。

何もかもに長けているとしか言えない気がした。

けれど、何かそれだと彼女には伝わんないんじゃないか?と思った。


「夜音は夜音みたいな人だったよ」


「なにそれw」


夜音はくすくすと笑いつつ外の景色を見つめる。

横顔の笑顔がきれいだと俺は思った。


「昔も今も夜音ってことに変わりないからさ、俺からしたら。」


つい最近まではそうじゃなかった。

けれどもう覚悟は決まった。

俺の今までを築いてくれた夜音、これからを築く夜音。


どちらも大事にすると……。



「そっか。風夏の話を聞いてると、私も寄せた方が良いのかなって思ったけどやっぱりいいか」


「それで良いと思うよ」



「どうする?明日から」


夜音は切り替えたかのようにそう言った。

春休みはあと1週間ほどある。

まだ帰るまでの余裕はあるし何かしてもいいかもしれない。


「配信するか?」


冗談交じりでそう言った。


「やりたいけど機材が…あっ」


「ん?どうした」


「私の家にわんちゃん機材あるかも!」


「まじか」


冗談が事実になりそうでびっくりだ。

俺もVTuberくらいだったら今の機材で足りそうかなとは思っている。

一応別で居るものはスーツケースに入れてきているし準備は万端だ。


「でもこんなところで何するの」


「え~海斗は何したい?」


「もう少しトーク力が欲しいかな」


「じゃあゲーム実況しつついっぱいコメ読もう!」


「そうするか」


夜音はもうはりきっていた。

別にこの運命に決められて進んできたわけじゃない。


けれどこの道でも楽しい人生は送れるかもしれない。




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