第120話 true

「もう彼女の時間は長くないでしょう」


そう言われて俺は時が止まったかと思った。



夜音が倒れて彼女は救急車で、俺は自転車で行った。

救急車で苦しむ彼女を観たくなかったという訳のわからない理由にも、救急側は納得してくれた。



病院に着くと、すでに彼女は病室に入れられていた。

どうやら治療は終わった後らしい。

というかおそらく治療することなんてないんじゃないかとも思った。



「夜音ってあとどのくらい持つんですか?」


「あと……そうだな。」


少し長い沈黙が続いた。

出来るだけ長くなってほしいという希望を持ちつつ、返答を待った。


「あと、3日が限界かな」


3日……。


これが夜音に与えられた猶予と考えるべきだろうか。


「3日目に治療手術をする予定だ。」


「そうですか」


何か考えてしまう癖が、ここにきて消えてしまった。

頭が真っ白になり何も考えることが出来なくなっていると、


「覚悟を決めるんだ。これは運命だ」



そうだった。

覚悟……それが俺に足りないもの。



「分かりました……。」


「夜音とあと一度、話すことは出来ますか」


「ああ。おそらくな。だが今日はしんどい気がする」


そう先生に言われた。

もしかしたら、とは思ったものの、ここはおとなしく引いておこう。


「分かりました。また明日お邪魔させていただきます」


俺は病院を後にした。


昨日の彼女の笑顔は未だに脳裏から離れないままだった。



まだ夕方とは言えないような明るい空の中、

ポケットに入れていたスマホから通知が届いた。


「風夏……?」


どうやら彼女に呼び出されるらしい。

もう何も話すことはないのになとか思いつつ、目的の場所に足を運んだ。




「どうした?」


風夏は家に居る印象が強いからこそ、太陽が当たる広い公園に呼び出されると違和感しかなかった。


「あ、早かったね」


彼女はベンチに座ってのんびりと眺めていたようだ。

俺も横に座って公園を眺める。


特に何も考えず、気楽に遊ぶ小さな子供たちを見ていた。

ブランコとかすべり台とか、

もともとこんなところに公園なんかあったのか?とか思いつつ、ぼーっとしていた。



「実はさ…」


少し時間が空いた後、風夏は口を開いた。

俺は「ん」とだけ反応しつつ未だ子供たちを見ていた。


「夜音からもよく色々話を聞いていてさ」


「それは今の話か?」


「今も昔も。というか昔はもっと頻度多かった気がするよ。」


「そうなのか」


どのくらいの頻度かはいまいちわからないけど風夏の言い方的に結構来ていたのかもしれない。


「海斗について、よく相談されたよ」


「俺?」


唐突に俺の名前が出てきて少し混乱した。

驚きは顔に出さないよう意識したけれど、もしかしたら出ていたかもな。


「うん。本当にたくさん相談された」


「それって言っても良かったのか」


俺について相談していた夜音という真実にも驚くが、そもそもそれを俺に伝えて良かったのだろうか。


「最後夜音に会ったとき、そう言われたんだよ。」


「私について、何もかも海斗に話してあげてって」


「流石にすべてを話すわけにはいかないけどね」


最後にそう言って彼女は若干笑った。

笑ったと言っても失笑に近い笑いな気がした。



「特に海斗の将来をどうすべきかなんて何度聞かされたことか」


「……ごめん」


「別に海斗が悪いとは言ってないよ。色々あったんでしょ?」


確かに色々あった。

全然クラスになじめなくて……。

そのまま学校に行かなくなった。


けれどそれが理由で彼女に負担をかけたなんて言い訳は通用しない。


「色々あったよ、それでも俺が悪いよ」



「ええそうかな?」


俺の周りは、何と言うか、擁護者が多い気がする。

別にダメなものは、ダメ。

そう言ってくれたら良いのになと思うことがよくある。


「そんなことを言いだしたら二人の親環境が可哀そうだよ」


風夏は申し訳なさそうにそう言った。


「うん。」


それは俺も思う。

俺の親はまず今どこに居るかなんて知らない。

口座にお金が入ってきて、そして月1あるかないかの連絡のみ。


風夏の親だったら……なんてどれだけ考えたことか。




夜音の親もあながち例外じゃない。

放任主義という肩書だが、実際は育児放棄に近い。

夜音は別に凄く嫌悪感を抱いていないのかもしれないが、周りから見たら凄く可哀そうにしか見えない。

今回の事も、彼女の親はあまり大ごとだと捉えていない感じが大きすぎる。

別に死んでもいいやくらいの感覚なのかもしれない。


「そうだな」


今更だが、同情することしかなかった。

特に何か加えて言えることはない。




「でも、それでも夜音は頑張ったよ」



今、初めて本気で彼女について考えた。

そう感じた。




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