第119話 voice of support

「あ、あれ敵じゃない!?」


俺がのんびりと進んでいると夜音は俺のモニターを指さした。

彼女が自信満々に指した方向を見ると、敵がスナイパーを覗きながら歩いていた。


「ほんとだ。ナイス!」


夜音に感謝しつつ落ち着いてスナイパーを構える。

ここはミスれない場面。

なんてったってこの銃声1つで敵が集まる。

しかも俺はめちゃくちゃ不利な場所だった。


「決めるわ」


スコープを覗く。

敵が動き始めたタイミングで俺は素早く抜いた。


「よし」


「ナイス~」


夜音の拍手を受けつつ、倒した敵の物資を漁る。

これが定番ムーブ化しつつあった。


「どう?勝てそう?」


彼女が興味津々そうに聞いた。

正直言って分かんないとしか言えなかった。

だって、最近久々にやったことで環境がどう変わったかすら知らない。


「まあ、任せて」


けれどプライドは譲れなかった。



「とりあえずキルムーブするか」


一番簡単に環境変動を感じずに終わらせる方法。

それは相手が動く前に終わらせることだった。


幸いにも今スナイパーがある。

しかも今持っているスナイパーはダメージ量が多く、偏差も俺が慣れている。


「海斗!頑張って!」


そう新鮮でうれしい声が俺のプレイを極める。


「おう」


とりあえず調子に乗ることだけはやめないとなとあらかじめ肝に銘じる。


索敵するうえで一番簡単なのは走り回ること。

けれど、これは運が絡み合ってくる。


なので今回は別の方法でやることにした。



「ここら辺で高い場所はここか」



そう、上からいっぱい抜く作戦だった。

結構今の場所から近かったので移動時間はそこまでかからない。

弾数も十分。


「始めるかあ」


キルログにblancという名が浸透するほどに登場したのは言うまでも無かった。


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「よっしゃー」


案外上から抜くだけで人数は激減した。

残りの敵もそこまで強くなかった。


ショットガンであっさり勝ってそのまま勝利だ。


「これが世界1かー」


夜音は座っていた椅子にもたれかかった。


「いやいや、今は世界1位どころかトップランカーでもないけどね」


「それはやってないだけでしょー」


ほれほれと夜音は俺の肩をつつく。


「いや、流石にもうやり込まないかな」


「え~?」


「もう一度やる気はないの?」


ああ、また聞かれた。

視聴者にも聞かれた。

チームメンバーにも同じことを聞かれた。

そのたびに、しばらくはいいかなという言葉に頼ってしまった。


けれど実際、本当に俺はもうやらなくていいのか?

心の底からもう大会には参加しないと決めているのか?


「やる、かもな」


思わずそう呟いた。


そう呟いた自分自身に驚いた。


「やった~」


夜音はちょっと嬉しそうにニコッと俺に顔を向けた。

俺は作り笑顔みたいな表情を彼女に向けた。


「本当にやっていいのか……?」


「もちろんだよ!私はその声が聴きたかったのに」


「でも……」


「大丈夫。」


彼女は俺の肩を両手でつかむ。

前かがみになって俺の方を向いた。


「私が私じゃなくても、応援するよ。絶対に」


彼女の言葉はやけに信用感がある。

今までの信頼が積み重なってきたものなのか、それが幼馴染だったからなのか。



それとも、大切な人だったからなのか。



「そう。考えてみるよ」


急に夜音と対面することが恥ずかしく感じてきた。

慌てて目をそらす。


「それ、本当に考えるの~」


夜音は若干不満そうだった。

俺は何も言わず、ただモニターを見て画面をいじっていた。


「ねえ。」


「ああ。真剣に考えるよ」



俺はチームメンバーに一言メッセージを送った。




《今の環境教えて》と






その一言にチームメンバー3人は皆すぐ反応した。

案外暇なのかなとかクスッと笑っていると、


《アサルトの偏差変わったよ》


《新武器のDPS低いから使わない方が良い》


とか次々と送られてきた。


思った以上に真剣で俺はちょっと申し訳ないなとか思っていた。


「良い仲間じゃん」


隣で若干覗いていた夜音がそう言った。


「そうか……。まあそうだな」


「安心できるよ。海斗にもそういう仲間が居て」


「そうだ……な。おい、夜音?」


横を見ると夜音は眠ってしまいそうだ。

でも、この眠りはただの睡眠じゃない。


もしかして……



「おい!夜音!」


少しずつ夜音は俺の方へ倒れていく。






「海斗、また戻ってくる。けれど次会うときはもう短いかもね……」



そう言葉を言うと、彼女は眠りについた。

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