第117話 Be careful with the truth

「どうしたの?こんなところに呼んで。」


夜音は面白がりつつそう言って、柵を掴みながら外の風景を見ていた。

まだ完全に暗いわけではなく、オレンジ色の光が混ざっている。


「ごめんな。でもここに来て話がしたかった」


俺が来た場所は町外れの夜景スポット。

結構有名なのだが、最近は人の数も減ってきていた。


「俺さ、夜音が消えたあの日。まだ思い出すんだよ」


彼女は突然姿を消した。

その突然さに俺は混乱してしまったのは言うまでもない。



「でも、その日俺はここで誓ったんだよ。」










そうだ。

夜音が急に消え、何者かわからない残滓がベッドに横たわっていたとき。


「海斗、一旦町の空気を吸いに行ったらどうだ。なんなら付いていくぞ」


そう病院の先生に言われた。

夜音から離れたくない。

そう言いたかったが不思議と身体は動いたのだ。




初めて出会ったこの場所、ここから見える景色に俺は不思議と吸い込まれた。


「どうだ。綺麗だろ」


「はい…」


俺が最近学校に行けてないことを知った上でここを選んでいたのかもしれない。

見たことのない新鮮な風景に目は吸い込まれていた。


「海斗、お前はこれからどうするつもりだ?」


俺が柵に乗り出しながら見ていたその後ろで先生はそう言った。


「俺は…もう誰にも負担をかけたくない」


「というと?」


「自分の趣味ごときで1人の人生が潰れたんだ。この罪は一生消えないし、永遠に償わないといけない」


「よく分かってんじゃねえか。」


先生は優しく俺の頭を撫でた。


「お前も、お前なりに頑張ってた。将来どうするか考えているならそれで十分だ。 」


俺は自然と振り返り、先生に抱きついた。


今まで俺がしてきたこと。

必然的に考え、

俺は涙が出た。


「俺、もう誰も不幸にさせたくない。」


「うん」



先生は特に何も言うことなく聞いてくれた。

俺はゆっくり先生から離れると、柵を掴む。


「もう、誰も失わない…」



そう誓った。



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「海斗は凄いよ」


俺が回想に入っているといつの間にか彼女は夜景を見ていた。


「私1人でそこまで人生変えれるなんて。」


「でも、やらなくちゃいけないことだったから。」


俺は夜音を眺めた。


「海斗はずっと私の事で悩んでくれた。でも、それはもういいよ」


「でも…」


俺がそう言いかけたところで夜音は振り返った。


「海斗、もし私の事を想ってくれるなら、全部海斗がする必要はないよ。」


「海斗だけが悪いわけじゃない。それに、海斗は1つの夢を追ってた大人じゃん」


「でも、1つの夢を追ってたから、今こうなった」


俺は彼女から目を背けた。

どうしても同じ敷居にはいけない。

行くことが出来ないからだ。


「海斗」


夜音は優しい声でそう俺に言った。


「大人は誰だってミスをする。中学生ならなおさら。別にミスが成長に繋がればいいんだよ。」


俺がゆっくり夜音を見ると、彼女は後ろ姿を見せていた。


「私が海斗を支えるって決めたから。」



彼女の姿はいつだってたくましい。

俺が今まで目指してきた人はこんな人間だった。

それは今も変わらない。



「ね、一枚写真撮ろうよ。」


夜音はスマホを左手に持って俺の方へ振り返る。

彼女の目には若干涙を浮かべていた。


「次の私に繋ぐためにも。ね?」


俺は静かに頷いた。



彼女は覚悟を固めていた。

夜音自身は次の自分に繋げればいいと思っているのか。

どう繋ぐかなんて知らない。

けれど夜音なら本当にやり遂げるんじゃないか?


何かそう言い切れる自信があった。




結局は何も聞けなかった。

けれど別にこれで良いんじゃないかとも思えた。




薬の効果なんてまだ消えないだろ。

そう言い聞かせている自分がいた。


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