第116話 suddenly?
運命というものは誰にも決められない。
これは不変に存在する事実だった。
そして、その運命は誰の口からも告げられない。
自らその道を選び、進み続けるしかなかったのだ。
そして、海斗はその決断が迫られたのだ。
「ね、海斗。私っていつまで生きれるの?」
そう彼女はある日突然聞いてきた。
そんな事を俺は知るわけもなかった。
だから病院の担当医に聞いてみた。
「そろそろだね」
そう先生は言った。
突然のことで頭は動かなかった。
なんとか電話を切るとその場で立ち崩れる。
幸いにも夜音は外出中だった。
「どうしよう……」
夜音と会えたことを理由に決断を先延ばしにしていたのだ。
水族館の時、
「私が何も後悔とは言わない。けれど海斗を支えるって決めたから。海斗の決断に付いていく」
そういわれた。
と言っても俺が決めることは1つしかない。
夜音に対して治療を始める、ただそれだけだ。
もしこれをしなかったら彼女がどうなるかなんてわからない。
もはや決めるべきことは確定していたのだ。
あとは俺自身の覚悟だけだった。
「俺だけじゃ…やっぱり無理だ」
とりあえず頼りない彼女の親に電話してみた。
「…ということなんですけど…」
「そう。海斗君はどうしたい?」
「えっと…俺は…」
ここで言葉が詰まってしまう。
「海斗君の決断が彼女の全てだから。」
そう言って電話が切られた。
はっきり言って夜音の親は育児放棄そのものだった。
外から見れば、他人の意見を最優先してる善者に見えなくもない。
けれど接していくと、それは違った。
ただ自分達は何も考えず。
他人に頼るだけだった。
「はぁ…」
こうなることは想定していた。
だからそこまで期待はしていなかったがそれでも何か悔しくなる。
気持ちを切り替えよう。
俺は風夏に連絡を入れた。
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次の日、俺は彼女の家を訪ねた。
「どいつもこいつも私ばっかり…」
そう風夏が呟いていた。
「ごめん…でも俺だけじゃ決められなかった」
とりあえず胸の内を全部話した。
いつまでも決断を決めれないこと。
そもそも決断すべきことは決まっていること。
親は頼りにならないこと。
「だから、第三者の声が必要なんだよ…」
「はぁ。」
風夏は大きくタメ息を着いた。
「海斗、お前はあの時からずっと罪悪感を背負っているかもしれない。」
「それは当たり前だ。気にするなとは一概に言えないことだ。」
「でも現に彼女は海斗に決断を委ねている。
それはつまり、覚悟は出来ているんだよ。」
俺はハッとした。
確かに水族館から帰ったとき、明らかに顔つきは変わっていた。
仕草も何か元通りになっていた。
もし、いつ消えてもいいようにしていたなら…
彼女は今も、恐怖と戦っているのだろうか。
それでも俺にはその表情を1つも見せない。
これが果たして彼女の長所なのか短所なのか。
俺にはもう分からなかった。
「だから、海斗は早く決断を決めて、彼女にいち早く伝えることだと思うよ。」
風夏とはあまり深く関わったことがない。
それでも互いのことは大体分かる。
何よりも夜音について知っていたのが彼女しかいなかった。
頭がそこまで良いとは言えない。
けれどそれはあくまで学力的な面であって、
その他ではずば抜けた性格を持っていると思う。
「ありがと。何か後押ししてくれた気分だよ」
「そう。私もこんな決断したくはないよ。親が悪いんだよ…結局」
風夏は可哀想な目で彼女の机のモニターを眺めていた。
「あんたの親も大概だよ」
目を合わせたくなかったのか暫くは前を向いてくれなかった。
何はともあれ、やることは決まった。
俺は夜音に1つの連絡を入れた。
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