第114話 realize


「水族館何年ぶりだろ…」


そう俺がボソッと呟いた。

宣言通り、今日は夜音と水族館だ。

午前中は夜音曰く部屋の整理をしたかったらしい。

だから午後からだった。



一刻も早く問題解決しないといけないんだけどこれくらい許してくれるだろ。



「ここ1回も行ったことないんだよね。楽しみ!」


夜音からすると未来にタイムスリップした感覚なのかな?

とかどうでもいいことを考えていると


「海斗!」


前から彼女に呼ばれた。


「あ、ごめんすぐ行く」



そんなこと今考える必要ないかと思って駆け足で彼女の方へ向かった。







「うわぁ。大きい水槽だね」



入ってすぐ目の前にはすごく大きい水槽があった。

なかには色んな魚が泳いでたりしてよく見える。


「あ、あの魚大きい」


彼女が指を指した先には青くて大きい魚が居た。

名前なんて分かんないけれど色んな種類があるんだなとは思った。



「あ、こっちにも何かあるよ?」



薄暗いトンネルのようなところへ続く道があった。




実際はクラゲとか深海魚的なものを置いているらしい。


昔は水族館に行ったところでとでも思っていただろう。

でもいざ来てみるとそれはそれで面白いのが良い。



「へぇ…いるかショーとかあるみたいだよ?」



たまたまもうすぐイルカショーらしい。


「じゃあ行くか」


もはや夜音の行きたいところにただ付いていっている気がする。

けれど楽しいしいっか。






「あ、あれは亀さん!?」


「ペンギンもいるよ!!」


とまぁ夜音といるとなかなかに忙しい。


今いる彼女とこういうところに行ったのはいつぶりかな。

最低でも俺が学校に行っていた頃だ。

3年前…?


時の流れって怖いな。


「ねーねー。あっちにも行かない!?」




うーん。やっぱり忙しいな



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「もうこんな時間かぁ」


もう17:00を過ぎたところだろうか。

人の減りも徐々に減りつつあった。


「どうする。帰るか?」




「近くに海があるしそこに行きたい」



そう彼女は行った。

別に時間はいくらでもあるので行くかぁ





「はぁ。海って綺麗だね。何も考えなくて良い」


夜音は砂浜の上に立ってそう言った。


「海斗、私ね怖いよ。」


俺は思わず彼女の方を向いた。

今までの夜音とは違い、今にでも泣きそうな一匹狼だった。



「ある日突然目を覚ましたら、未来に居るんだよ。」


俺は何も言えず、ただ黙って彼女の話を聞いていた。


「急に海斗も変わったし、私も急に変わった。記憶なんて一切ないままね」


「だから、どうすればいいか分からなかった。」


「周りから見てちゃんとしているように見せたけど内心不安だった」


「本当に怖かった…。」


そう言って彼女は俺の方を向いた。

そして急にハグしてきた。


「ちょっとだけ温もりを感じたい」


そう言って、胸に頭を擦り付けていた。


「ごめん」


俺はそう言って彼女の背中をさすることしか出来なかった。

夜音からは若干すすり泣く声も聞こえた。



ハグされた嬉しさなんて無かった。

むしろこうしてしまった申し訳なさでいっぱいだった。



「ありがと」


時間にして2,3分くらい沈黙の時間があった。

そして彼女はもう一度俺の方を向きなおした。


「私、薄々気が付いてることがあるの」


俺は何なのか分からないので彼女の目を見る。


夜音はもう決意を固めていた。





「もうすぐこの私の意識、死んじゃうんでしょ」





そうか。

夜音は秀才で、洞察力も優れている。




こんなことに気が付かないはずがなかった。



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