第112話 new morning

久々に実家で配信をしたその翌日。


「え!?」


俺は病院からの電話で目を覚ました。

急いで支度をして家を出た。





どうやら夜音の意識が戻ったらしい。






「はぁ……はぁ」


早朝すぎて病院内には誰も居ない。

俺の息切れの声だけが聞こえてくるくらい静かだ。



「あ、海斗君。こっちだよ」


先生に呼び出されてそのまま付いて行った。


行っている途中、先生にはこういわれた。


「夜音ちゃんなんだけど、事情はすぐに理解していたよ。」


と言っていた。

飲み込みが早いということは

本当にあの時の秀才な彼女が戻ってきているのかもしれない。


俺はそっと病室の扉を開けた。





1人しかいない病室。

その奥に人影が一つだけ。


あの頃見た夜音が座っていた。

声なんて聴かなくても一瞬見たその仕草で彼女が前のだと分かった。



「夜音……」



俺がおもわず口に漏らすと、彼女はこっちのほうを向いた。


「海斗?朝からどうしたの?」



そう懐かしい声でそう言った。



俺はあまりにも懐かしく、そして寂しかった。

だからこそ今ここで会えたことがすごく嬉しかった。



「ちょっと、海斗。なんで泣いてるの?」



あれ、涙が出てきたようだ。

今まで彼女に会えなかったか悲しみは今も残っていたんだな。



「ごめん……。」


「なんで謝るの……」


「ごめん!!!!」



俺は彼女に会う資格なんてなかったってことを今気が付いた。

どうしても許してほしいわけではなかった。

彼女に謝ることしかできなかった。


「海斗、こっちに来て。」


夜音は少し手を招いてくれた。

俺は少し申し訳なくも近づいた。


「成長したんだね」


夜音は俺の頭をそっと撫でてそう告げた。


「うん…」


彼女はおそらく自分が理解しきれてないはずだ。

なのにそれでも俺の事を気にかけてくる。


すごく優しくて、そんな人を俺は失ったんだな。




「俺も夜音に会えてうれしい……」


「私も嬉しいよ」


夜音の手は凄く温かい。

昔と変わらない感じがする。




「私、1年以上居なかったんだね」


「そうだね…懐かしいよ」


俺は頭を上げた。

ずっと頭を撫でられるとちょっと恥ずかしい。



「海斗、学校行けてる?」


「うん。俺はもう今までとは違うよ」


「そっかあ。私はどうしてる?」



どこまで事情を説明されているのか気になっていたが、結構言われているのかもしれない。

まあ、基本話していても彼女なら大丈夫かもな。



「いっぱい友達が居るよ。」


夜音は満足そうにうなずいた。

可愛い仕草だからこそ、惚れてしまいそうだ。


「あ」


「どうしたの?」


彼女は何か思い出したかのように聞いた。


「風夏はどうしたの?てか色々話してほしいな」


彼女の中はまだ整理しきってないように見える。

けれどそれでもしっかり情報を集めるあたりは本当に彼女らしい。




「まあ夜音が変わってからの事を話すよ」




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「そっか。私も色々変わったね」


俺の予想が正しければ彼女はVTuberをやっている事を知らない。

たぶん夜音が変わってから新しく始めたものなんじゃないかって思った。


夜音が凄く興味深そうに話を聞いていると、病室の扉が開いた。



「夜音!!!!」


そう言って走ってきたのは風夏だった。


「海斗なんで電話かけなかったの」


あ、そういえば急いでいたからメールにしたんだった。

後から電話かけようと思って忘れてたな。


「ごめんごめん。」


「風夏もちょっと成長したよね」


「えへへ」


夜音は風夏の頭を撫でた。

風夏は嬉しそうな顔をしていた。



「あ、聞いて!私結構頑張ったことがあるんだ!!!!」



そう言って風夏のこの1年の話が始まった。



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