第97話 計画外
【Bチーム】
「勝算はある。」
葵はそう呟いた。
そしてその言葉に反応したマナが、
「ん?聞きたい!」
そう言った。
葵は静かに頷くと資料を手に取った。
「私達にとって一番脅威なのはネスイだ。」
「だから、この勝負。もし人数差でも押しきれなかったときの秘策を今考えた。」
そう言って彼女は資料の、マップが映った紙を見つけた。
「あくまで最終ラウンドの秘策だが」
メンバー全員が葵の話に聞き入っている。
「ネスイを右コースか左コースかに引き寄せる。」
「そして、そこで戦ってもらうのが氷だ。」
「そうか。だが、中央エリアじゃなきゃダメなのか?」
氷は作戦に納得しつつも疑問はあったようだ。
「いや、これは端に寄せるからこそ意味がある」
葵は何か自信がある様子だった。
「続きを聞かせてください」
アクリスの発言に耳を傾け、また口を動かす。
「片方に寄せることでもう片方ががら空きだ。
そこで、前後挟み撃ちにしようと思うんだ。」
「いや、それはしんどくないか?前後挟み撃ちと読まれたら彼は真っ先に引き下がるぞ?」
流石は氷だった。
一度対面したからこそ分かる彼のスタイルは今は戦略の資料となっている。
「だから氷が足止めをするんだ。1vs4、もし氷とヒーラーがダウンしたとしても1v2だ。大きく勝算が傾く。」
「なるほど…片方に寄せるのは結構簡単だが、これが上手く刺さるのか?」
「氷にすべてがかかっている」
--------------------------------------------------------------
今この状況をどうするべきか考えていた。
後ろでベルともえが戦ってるのだが長くは持たない。
「二人とも出来るだけ耐えてくれ!」
俺は目の前にいる氷を倒すしかないのか……………。
氷の後ろにはヒーラーが居るからこそ短期で終わらせないといけない。
しかも後ろからも来るからなおさらだ。
「さて、行くか!」
とりあえず障害物を使いつつ前に進んでいく。
そして、ここで能力開花だ!
「行け!」
俺の能力開花は攻撃速度上昇。短期決戦には有利だ。
だからこそこのタイミングで決めるしかない。
だが、相手もそんな簡単な相手ではない。
「うわ、やべ!」
相手が身を出したかと思うと、その次には竜へと変わっている。
(能力開花使ってきたか)
どんな効果のものか分からないが、出来るだけ避けるように動くしかない。
「よし!」
なんとかすれすれでかわせた。
そして、そのまま氷を押し切った。
奥に居たヒーラーも倒しつつ、すぐに後ろに向かおうとした。
「倒した!今行く……あれ」
まだ俺の計算上では生きてると思ったのだがもう死んでいた。
「まさか……」
氷の能力開花はそんな生易しいものじゃない。
攻撃範囲の上昇、壁貫通、攻撃速度上昇
これらが集まった集大成があの竜だったのか。
おそらく彼はベルやもえの事も考えた位置で撃った。
だから俺が簡単に避けれたし、俺からしたら氷が捨て身のように見えたのだった。
「なるほどな、面白い」
今この場は1vs2だ。
人数不利のこの状況で2人を落とすしかない。
とりあえず後方から一気に来ても困るのでまずは場から下がる。
ただ、中心部の陣営を取られると負けなのでそれにも気を使わないといけない。
敵は二人、片方はダメージ量が重い重装型、もう片方は攻撃速後の速い速度型。
どちらから倒すかと言われれば、俺は前者から倒す。
このゲームは弾を避けるという概念が生みにくいからこそ、一発のダメージは重いときつい。
逆に攻撃速度が速いキャラはダメージ量が少ないからこそエイム重視で倒せる。
厄介な方を倒したい。
「ネスイ頑張れ!!」
ベルの応援も耳に入りつつ、まずは重装型を狙う。
読みが正しければ、速度型は俺の後ろ、重装型が俺の進む方向に居るはずだ。
距離的な効率を考えれば当たり前だった。
「よし、やるわ」
考えは当たりで、前からやってくる。
とりあえず敵は躊躇なく撃ってくる。
だからこそ遮蔽物を上手く使い、相手のクールタイムで撃つ。
これが心がけていれば弾速が遅い相手に有効だった。
だが、今回は話が別だ。
後ろからすぐにもう一人来る以上時間が無い。
ここは捨て身で行くべきか、それとも運願いで行くか。
「頼んだ。勇者」
もえの小さな響きが、俺の考えを決めた。
攻めるか。
とりあえず運も実力のうちだ。
敵を撃ちつつ近づいていく。
右側に動くことで相手は右に弾を撃つ。
そしてそれを俺は予測し左に移動することでダメージ量を大きく減らせる。
「よしこの調子だ!」
相手の能力開花を発動させるまえに削りきった。
それと同時に後ろから敵が来る。
「おそらく葵さんか…」
俺はここで誤っていた。
葵さんの実力を知らずに勝算が向いたと勘違いしたと。
俺はさっき、能力開花を使った。
だが、この人が使ったとはまだ言い切れない。
そのことに気が付いてからでは遅かった。
俺は相手が対応できる前に倒し切ろうと思った。
「当たれ!」
ひたすら撃ちつつ進み続ける。
けれど彼女は冷静に遮蔽物を上手く使ってカウンターを仕掛けてきた。
「やっば。」
俺は流石にこれ以上は危ないと思い物影に隠れた。
「待って…まずい」
もえが危機感を表したようにそう言った。
そして俺がえ?と聞き返す前に理解した。
(能力開花か)
流石に3vs4でもわんちゃんあるんじゃないかとそう過信した俺がバカだった。
「焦ったか……」
勝利の天秤はBチームに傾いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます