第96話 機転。そして均衡


「う~ん。どうしよっか」


1ラウンド目は人数差で結構ボコボコにされた。

少し策略変えないとな。

僅かな時間で頭を回す。


「そうだな。速攻で制圧しないときついかな」


少しでも相手に傾くと一気にやられる。

それくらいギリギリの戦いだ。


「じゃあバフ当てつつ私も攻撃入れるね」


「よし、それで行こう。」


俺たちの作戦はまた新たに変わり、2ラウンド目が始まった。




まずはさっきと同じ正面突破。

だが、今回は迷いなどない。

むしろ一瞬でも止まったり失速してしまうだけでも致命的だろう。


「よし、やるわ」


目の前からやってくる敵に寸分の狂いもなくエイムを当てる。


そしてすぐに後ろからやってくる敵にもしっかり焦点を当てる。

流石に2人が一度に襲い掛かると結構しんどい。

だからここで、ベルが対応してくれるのだ。


「片方耐えとくから頼んだ」


すると、もえも何か意識を汲み取ったのか俺への回復を止め、その分ベルに回復を注いだ。


まるで大きな信用を与えられているかのようだ。



「任せろ」


とりあえず目の前の的に集中する。

ベルがもう片方受け持ってくれているが長くはもたないだろう。

なので速攻で倒したい。


俺はまず右、左、と不規則に移動する。

相手のエイムをずらしながらも俺は正確に撃つのだ。


流石に感度調整が完璧じゃないから動きながらは難しい。

けれどここで決めるのがネスイだろ。




「おっけ、そっち行く」


1人倒すと

すぐにでもベルを助けに行く。

だがその前に後ろに居るサポーターを倒す。

彼女が死ぬ寸前のところでギリギリ間に合ったようだ。


そして、その敵を倒しラウンドを1つ獲得だ。


ーつえええ

ーACE取ってるって

ークラッチえぐい

ーこれ2ラウンド目で見れるのかよ

ー普通にネスイの視点きれいすぎ


「ナイス!!!!」


「いいね~ネスイ!この調子でいこ!」


「ないす……………」


なんとか3人でも行けるのかもしれない。



そう思ったのだが、そんな簡単に彼らに通用するわけがなかった。





3ラウンド目

まずは速攻で真ん中に行く。

そして、目の前の敵と対面するのだが、


(1人しかいない……………?)


足音が1人分しか聞こえない。






まさか!


そう思い味方のHPバーを見ると、とっくに遅かった。


「ネスイ!横からも!!」


ベルの声が聞こえたと同時に、左右からも攻撃が降り注いだ。


「え!?うわあ」


流石に対応しきれない。

1vs3とはいえこの状況。



一瞬にしてラウンド制覇数はまた差が開いた。




「あれ、どうするべきなのか……………」


「たぶんヒーラーが真ん中に居た。だから真ん中は結構ネスイが居ないときついかも」


「でも、右か左やらないときつくね?」


流石に真ん中だけ制圧したところで左右から攻撃されると意味がない。


「私が最悪やる。ネスイは右、ベルは真ん中に居て」


もえはそう言った。

やはり何か安心感がある。

俺もベルも何も話さず、ただ静かに理解した。



4ラウンド目


「じゃあベルは頑張って耐えて」


ベルは真ん中に、俺は右側に分かれた。

そして、相手側も戦略を変えずにいるようだ。

真正面から敵が一人やってくる。


「ネスイ!早く頼む!」


ベルは案外耐えているようだが、そっちも限界かもしれない。

俺はそう考え、すぐに倒す。

少しダメージは貰ったが誤差だろ。


そう思い、真ん中に居るアタッカーを攻撃したんだが。




「え!?……………左か」


左側には1人王者の風格で立ち回り攻撃をしていた。


「氷か……………気を付けて」


「うわ!ごめん」


ベルは真ん中に居るアタッカーとヒーラーをギリギリ倒した。

だが、流石にノーマークの敵からダメージをたくさんもらってしまい、やられてしまった。



流石に氷のアタッカーともえのヒーラーでは太刀打ちできないか?

そう内心思っていたのだがやはり彼女は考えていた。




「やる」


このゲームにはスペシャル技、いわゆる能力開花というのがあった。

3vs4で生き返り無しの短期決戦では滅多に使われない。

必要ゲージは生きていた秒数で増えていく。

だから特に貯まりにくいモードだった。


だが、今回のゲーム設定では能力開花の必要ゲージは持ち越しだった。


だからこそもえはどのラウンドも最後まで生き残るよう立ち回りを組んでいたのだった。




「go」


彼女のキャラは能力開花を撃った。




もえはこのゲームをやったことがある。

つまりキャラごとの性能も理解しているだろう。

だから、この場の打開策も考えてキャラを組んでいたのかもしれない。


(アタッカー型のヒーラーか)


回復役とは思えないミニガンで氷を圧倒する。

彼も物影に隠れるのだが能力開花によって破壊される。



結果、もえの機転がラウンドの獲得につながった。


ーすっごww

ーチートやん

ーもえちゃんと考えてたのか

ーなんでアタッカー型なのに攻めないのかと思ってた

ーゲージ貯めるため後ろ居たのか

ー強すぎ


「もえナイス!!」


これで2vs2

どっちも勝利がかかっている。


「もえすげえよ。私ももう少し耐えたかった」


ベルも十分耐えていたと思う。

およそアタッカー2人の猛攻を耐えたんだ。


「まあまあ。次どうするかだな」


問題は最終ラウンド。

俺の予測が正しければこの戦いでまた相手は戦略を変えてくる。

だから戦略を読みつつ考えるのが普通だが。


「もえが能力開花を撃った今、相手側も撃てる人がいるかもしれない。

だからそれの対策もすべきかもな」


俺の能力開花はシンプルに攻撃速度を上げるものだ。

ベルもサポート範囲内に居る味方の攻撃力を上げるだけ。

何か変異的なものがあればよかったのだが流石に無さそうだ。


「私の読みが正しければ右に行かないと絶対負ける」


そうもえが言った。


「まじか……………じゃあそうするか。」


その場対応するしか言いようがない。





迎えた5ラウンド目。


まずは3人とも左コースを進むのだが、


「え……………」


目の前から来たのは、さっき俺を討った相手、氷だった。


そしてその後ろにヒーラーも付いている。

ここで勝負を決める気かもしれない。

俺はとりあえず戦いつつ、考える。



あと2人はどこなのか。


だがそんなこと考える必要はすぐ消えた。


「やばい!後ろ!!」


どうやら後ろから挟み撃ちにしたらしい。

ベルともえはそっちに向かった。

完全に人数有利を生かした作戦のようだ。


「どうしようか……………」



絶賛ピンチ中だ。





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