第19話 無双劇

ー相手戦士

ーやば

ーこれ相手負けれない

ー相当な腕前ないと負けるぞ

ー流石にネスイさんでも無理だろ

ー怪しい


俺は立ち上がって、相手の場所を確認する。

相手も俺の位置が分かっていなくて全面的に警戒している。

距離は若干遠く相手の方が優勢だ。

もう少しバレずに前に行きたくても、前方に物影はない。

つまりここで一か八かの勝負に出る。


加速化スピード!」



この技は言うまでもなく、速さが上がる。

森のなかを走りまくっていたら獲得した技だ。


相手の銃弾を避けながら腰にある短剣を抜く。

だが、流石に全てが反射で避けられる弾ではなかった。

正面に来た弾をどうするかは一つしかない。


「流水!」


水が流れるような滑らかさで短剣を振る。

攻撃範囲も広く、動きながらも打てるので加速化と合わせて使うといいんじゃないかと思っていた。


相手の弾を一方的に受け流し、避け続け、ついに正面まで来た。


「聖剣」


青い光にまとわれながら振った短剣は、相手の死んだ描写をも飲み込むほどの光を放った。



[ラウンドwin]の描写が出て、手に持っていた専用機器を思わず落としてしまった。

落ちたことに気がついて、ゴーグルを外す。



『えっ、え~…』



春陽さんの引いたような声が聞こえて苦笑してしまった。



一応もう1つの姿がバレないように避ける技術は、下げていたつもりだったが、

負けたくないという気持ちで忘れてしまっていた。


ー化け物

ーチーター

ーチーターを越えてる

ー全部避けてるやん

ーこれこのゲーム無双できそうで草

ーおかしいて

ー春陽さん、負けたな

ー春陽引いてる


そんな皆からの称賛の中に、埋もれている1つのコメントを見つけた。


ーblancじゃね?


あ、やっぱり察する人は居るんだなぁと気付いた。

もう少し控えめにしようと自分に戒めを掛けつつ、コメントに反応していった。


「皆ありがとう、もっと頑張るよ」


ーもう頑張らなくていい

ー誰も勝てん

ー世界一呼べ

ー最強AIと戦ったら?

ーもう人間に敵がいなくなっとるやん



『は、はぁ…やば…』


「あ、春陽さんもありがとうございます。敵を削ってくれたので勝てました」


確かに勝ててはいたが、春陽さんの削りがないと人数さが更に厳しくなって負けていただろう。


『あ、じゃあ忘れてたけどご褒美あげるね』


何だっけ。

確か、呼び捨てで良い的な事だっけ?


「あ、ありがとうございます。春陽」


やっぱり呼び捨てだとぎこちないなぁと思っていた。

先輩なのでやっぱりさん付けにした方が良いかなぁと考えていると、


『敬語も無しね』


「え?」


まぁ確かに敬語が付いてると呼び捨てには合わない。

自分は呼び捨てを止める方が良いと考えていたが、春陽はその逆を考えたらしい。


『ね?良いでしょ?』


どうしよっか考えていたけど、春陽が考えた案という建前があるから大丈夫かと思い、


「分かった」


基本高校でもため口で話す人がほとんどいない。

居るとしたら、空太と夜音くらいだろう。


『ちょっと新鮮だね』


ーネスイさん案外そういう人なのか

ー不思議が多すぎる

ー忘れるな、二回目の配信だってことを

ーあ

ーそういえばそうか

ーじゃあ仕方ない



「というわけで、今回は春陽と遊びました!皆は楽しかった?」


ーおう

ー楽しかった

ー切り抜き確定

ー毎回抜かれるぞ

ーていうか、枠越えてるだろ


「あ、枠は一時間ですね」


ちなみに実際にしたのは二時間半くらいだ。

別に枠を超したところで問題は無いが、スケジュールと考えたら越しすぎた気はする。


ー越しすぎだろw

ー1時間半超えてるw

ーまぁしゃーない

ー二人とも夢中だった。

ーお疲れ様です


『やりすぎちゃった』


てへぺろとでも言うような声が聞こえた。


「まぁ良いか」


HESKALはとても緩い企業だ。

噂によると二時間配信遅刻した人や、寝落ちした人に何も言わないらしい。

あきれていると捉えても良い感じはするが…


ちなみに寝落ちした人はプリームと言う人らしい。

ちょっと聞き覚えがなきにしもあらずだな。


「というわけで、見てくれてありがとう。」


時間も時間なので締めに入る。


「春陽のチャンネル登録もよろしくね。そしてネスイの登録もよろしく」


『よろ~』



「じゃあおつねす!」


『おつぴ~』




こうして、ほぼ化け物ゲーマーの二人の配信が終わった。



しっかりと切れた事を確認して、近くに掛けてる時計を見る。

時間は11時30分を回っていた。


何か飲みたいと思って部屋を出ると、案の定ソファにもたれていた夜音がいた。


「何してるんだよ」


呼び掛けても反応がなかった。

まさかと思って近寄ると、寝ていた。


一応男の家だと気がついて欲しいなぁと思いながら、

いつもの事だったので割り切って、飲み物を取りに行く。

冷蔵庫にはコーラ辺りしかいれてなかったのでそれをコップに入れて戻る。



机にコップを置いて、夜音を観察する。

まさかこんなやつが俺の家で堂々と寝てるとは、誰も思わないんだろうなぁという適当な事を考えていた。

もしも学校の誰かに知られたら、学校中が大騒ぎだ。



「ふわぁぁ」


急に眠気が襲ってきた。

流石に夜音の横で寝るのは不味いと思って、寝室に行きたかったが足が動かない。

俺の頭はもう半分寝ているんだろう。



「い、行かない、と…」







結局二人はソファで一緒に寝てしまった。

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