第2話 幾久しく続くいつもの朝

山野さくらちゃんの朝は早い。

うそ。いや、本当なんだけどわたしに任せるときっと遅刻ギリギリアウト人生になってたはず。

『ピンポーン』

6時半のインターホンに山野家の誰も驚かない。

もう14年間ずっとと言っていいほどの日常だから。いや14年はいいすぎかぁ~。でも11年はガチだと思う。

まだベッドで眠っていたいわたしの部屋にもう誰か立ってる。いやぁ‥。眠い‥。

ほっぺつんつんされて起こされる。あぁ~夢から醒めちゃう。七色の綿菓子の森の中で寝っ転がっていたら上から色とりどりのキャンディがゆーっくり降ってきて口でキャッチし続ける夢がっ‥。ぱく、レモン味‥。ぱく、あ、ラムネだ、当たり‥。

やだやだ!去りたくない‥!


ぱちり。


目を開くと幼馴染みの顔面。さらさらの黒髪がわたしの鼻先をなでてくるよー、くしゃみでるわい!

「っぶえっ!!」

わ、夢との落差えぐいかわいくないくしゃみでた。これはくっさめ!って呼んでいいほどかわいくない。

「‥さくら‥」

幼馴染みが呟く。

「‥はいはい、おはよ~。今日も早いね。てか髪の毛こしょばいからやめて。今日は起こされるまではすっごくいい夢見てたんだよ~、あ、レモンキャンディとラムネどっちが好き?もっといろいろ降ってそうだったからもうちょっと遅く起こしてくれてもよかったのに~、わたしの好きなストロベリー味でたかもしれないじゃん!?」

いつも通り、わたしは幼馴染みに好き放題に話しかけながらのろのろ起きて身支度‥着替えめんど。

眠すぎるから先にリビングで朝ごはん。ブラックコーヒー(かっこいいっしょ?)と卵ふたつの目玉焼き丼。ママいつもありがとー!最近卵高いのに。パパは少食な青汁&ヨーグルト。ママは今朝はピザトースト食べてる。‥いいな‥明日リクエストしちゃおっかな。

ご飯作ってもらってるから飲み物くらいは自分で入れなくてはね。もう14歳なのだから。

かっこよくブラックコーヒーを入れながら(インスタント)もう一個カップを。幼馴染みのココアも入れる。

山野家のダイニングテーブルに4人が座り、各々好きに始める。わたしの隣に置いたココアの席に幼馴染みが座る。

「さくら」

また呼ぶ。

「なにー?」

こう返事するのにもはや意味はない。だって、

「‥ゆまるっこさわ‥いいろーぐ‥むぐなみよう‥」

体を真横にわたしの方に向けて座り、幼馴染みはわたしの顔をじーっと見ながら声をかけ続ける。

「わとののか‥ごどろつう‥」

そして、静かになった。ゆっくりとココアをすすりだす。猫舌め。

「うん。」

わたしが返事をすると、微かに笑う。とっっってもかわいい。主に山野家メンバーしか見られない笑顔。

「やっぱり、さくらちゃんの名前だけは言うのねぇ。不思議ねぇ。」

今までのわたしたちのほぼ全てを見てきたママが言う。

「円周率の長い数字の羅列の中には誰かの電話番号の並びがあるかも、って話があるだろ?『さくら』って言うのも彼女のランダムな文字列にたまたまあるだけかもしれないよ?」

と、パパが言う。

「違うよー。わたしのこと呼んでるってわたしが感じるんだから、やっぱりわたしのことだよ。」

山野家で幾度となく繰り返された雑な議論を終わらせて、顔洗いー、歯磨きしー、スキンケアしー、ちょこっとメイク、制服に着替えてバッグを持ったら出来上がり!くせっけの肩までのふわふわヘアーはわたしがバレないようにアイライナー入れたり、ほんのりカラーのリップとチーク付けたりしているうちに幼馴染みが可愛く編み込みにしてくれている。本人の黒髪サラサラストレートは下ろしたそのまま。わたしが替わりに編んであげようとしたことあるけど、つるっつる過ぎて編んでもほどけちゃうから諦めた。わたしが不器用なのではなく、髪の毛が真っ直ぐすぎるのだ。髪の毛まで綺麗過ぎるとか‥なんか‥。

「じゃあいってきまーす!」

「にまぞるは‥」

わたしは14歳になりたて。

幼馴染みはもうすぐ15歳になる。

わたしたちは、中学3年生になった。












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さくらちゃんと幼馴染みの日々 天王野苺 @domico

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