第51話 つい寝てしまった後に起きたら…

 北王子君に続いて戻るのは何となく気まずいような気がして、少し時間を置いてから部屋に戻る。席に座ると北王子君が移動してきていてアリスと話していたが、アリスはこちらに気が付くとくるりと向きを変えて話しかけてきた。

「長かったじゃない。こっそり帰ったのかと思った。」

「…今絶賛帰りたい気分です。」

 アリス越しの北王子君の顔が見れない。

「何でそんなこと言うのよ!せっかくデュエット入れたのに。」

「…デュエット?ってあの男女が一緒に歌うというリア充にしか許されない、あの?」

「別にリア充じゃなくても許されるけど、それよ。」

「誰と誰が?」

「もちろん、私とあなたが。でなきゃわざわざ言ったりしないでしょ。」

「…帰ります。」

「ダメダメダメー!」

 荷物を持って席を立ち上がるが、アリスが荷物にしがみついて引き止める。その間に、曲の前奏が流れ始める。

「これだ!はいはーい!私と佐藤只男が歌いまーす!」

 荷物をロックされたまま、張り付いた笑顔の北王子君からマイクを渡されてしまい、逃げられない空気が流れる。いつもよりも一段と元気なアリスと人前で歌う緊張でいつもよりもさらに声が出ない自分の対比。これが地獄か。

 無限にも一瞬にも感じられた時間が終わり、力尽きて椅子に体を投げ出す。

「楽しかったね!あー緊張して喉カラカラ!」

 歌った時のテンションをまだ引きずってるのか、いつもより高めのトーンでアリスが話しかけてくる。

「…ソウダネ。タノシカッタネ。」

「棒読み!」

 ただでさえ寝不足なのに、北王子君に謎のプレッシャーをかけられ、人前で歌うという慣れないことをしたことで、精も根も尽き果ててしまった。

 そのせいで、突然急激な眠気に襲われてきた。ここまでの疲れが一気にきてしまった。寝るわけじゃないけど、回復するためにちょっとだけ目を瞑る。決して寝るつもりではない。が、だんだん瞼が重く、意識が遠のいていく。このままこの気持ちよさに身を委ねて眠ってしまいたくなる…

 ふと周りの音を聞くとなんだかガタガタと騒がしくなってきている。いつの間にか何かに寄りかかっているみたいだけど、瞼が重くて目を開けるのも億劫だ。目を閉じながら周りの音に耳をそばだててみる。

「…私がギリギリまで…から先に行ってて…」

「…じゃあ起きたら後で…ね…先に会計に…」

「…バイバーイ…」

 会話の内容からすると帰る人がいるみたいだ。先に帰って良いのならこんな所でまどろんでいないで家に帰って寝れば良かった…

 いつの間にか飛んだ意識がちゃんと戻った頃には、周りには誰もいなくなっていた。寄りかかっていたものはまだそこにあるらしく、左頬に柔らかな感触を感じる。寝ぼけまなこで左を向いてみると、アリスがスマホをいじっている。その右肩に頭を乗せていたみたいだ…

っていつから!?どれくらい経った?

 弾かれるように起き上がると、突然のことに驚いたアリスと目が合う。

「…おはよう。いきなり起き上がるからびっくりしたじゃん。」

「ごめん…てか、ごめん。ずっと寝てた…他の人は?」

「先にお会計して行ったよ。物足りない人達はファミレスに行ってるって。どうする、行く?」

「…いや、もう帰るよ。」

「だよねー、私も。」

「でも、アリスは誘われてるんじゃ…」

「あの…片付けてもよろしいですか?」

 ドアの前で店員が気まずそうに立っていた。この人が入って来る音で起きたのか。

「あっ…すみません…出ようか。」

「そうだね…」

 外に出ると辺りは暗くなっていて、クラスメイトの人影は一つも残っていなかった。

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