第50話 打ち上げを避けようとしても…

 放課後、打ち上げに行くメンバーは教室で雑談をして時間を潰していた。

――これは、アリスに見つかったら連れて行かれるやつだ。丁度今いないみたいだからこの間に逃げよう。

 テスト前から徹夜癖がついてしまって眠気が激しいからこっそり帰るんだ。決して、打ち上げが嫌というわけじゃない…と誰にも聞かれてないのに心の中で言い訳をする。

 教室を出ると、こちらの考えを見透かしたように廊下でアリスが見張っていた。その後ろには同じように捕まった栄一と長名が困り顔をして立ち尽くしていた。

「どうして皆帰ろうとするの?最初はこの4人で話してたことなんだから皆参加に決まってるじゃない!」

「いやぁ、徹夜癖がついて…帰って寝たいんですけど…無理?」

「無理!みんながいないと楽しくない!」

 拒否権はなく、3人ともアリスに引きずられるように連行された。

 こんなに大人数でカラオケに来るのは初めてだった。大人数でも入れる大部屋があることも初めて知った。とりあえず、目立たないように隅っこに陣取る。真向かいの隅には同じように栄一と長名が並んで座っている。こういう時2人でいいなぁ…と思い助けを求めるようにアリスを探すと、北王子君達に捕まって真ん中に座らされていた。カラオケが始まってからも、何度もマイクを回され美声を披露している。明朗活発という言葉が似合う人々に囲まれてあんなに楽しそうにできるなんて、コミュ力のある人はすごい。そう感心しながら話し相手もいない退屈さから眠気に襲われると、隣に激しく座ってくる人がいた。驚いて目を上げると、アリスが汗を拭きながらこっちに移動して来ていた。

「只男も楽しんでる?何か歌った?」

「楽しいよ。歌は1人で楽しむ派なんだ。北王子君達はいいの?」

「1人で楽しむ派って初めて聞いた。北王子君達は、うーん…もういいや。楽しいんだけどちょっと疲れちゃう。」

 アリスでも人付き合いで疲れることもあるのか。

「…でも、北王子君はアリスと一緒にいたいと思うよ。多分好きだし…」

「そうなのかな?ちょっと自惚れかと思ってたけど、そんな感じしてたんだよねぇ…でも、困ったなぁ…」

「困るの?良い人じゃん、北王子君。」

「本気で言ってる?それ…うーん…私の好きな人は違う人なんだよね…」

 アリスの言葉を聞いて一気に血が逆流した。違う人ということは、好きな人はいるということになる…はず。その相手は誰なのか色々と想像を巡らせ、いくつもの不安と淡い期待が次々と押し寄せて心臓の動きを後押ししている。

「…そっかぁ…そりゃ北王子君も気の毒だね。」

「誰だと思う?…好きな人。」

「えっ、そりゃ…だ…誰かなー…俺も知ってる人…?」

「うーん…秘密!」

「秘密って…まぁ、そう…そっか…あー、ちょっとトイレ行ってくる。」

 詳しく聞きたい気もするが、聞くのも怖い気がして心臓が飛び出しそうなくらい勢いよく動いてる。動揺していることを悟られたくなくて、行きたくもないトイレに行くふりをする。もう少し落ち着くまで戻るのは待とう。

――こういう時、大体来るんだよなぁ。さっきもずっと視線感じてたし。

「よっ、佐藤君。歌ってる?」

 北王子君が軽い感じで話しかけてくる。けど、目は真剣な気がするのは気のせいじゃないはず。

「まぁ、そこそこに…」

「佐藤君ってさぁ、アリスちゃんと仲良いよね?付き合ったりとかしてるの?」

 ど真ん中直球で探りを入れにきた。イケメンはこういう時でもイケメンなのか。

「いや、そういう感じじゃないので…」

「そっかぁ…じゃあ俺が告白しても大丈夫?俺、かなり本気なんだよね。」

 何て答えたところで北王子君の思いは変わらないような気もするが、さっきのアリスの発言を聞いた後で何も言わないのも失礼な気がする。

「あの、でも…アリス…広井さんは…他に好きな人とかいそうな感じな…気もするような?」

「あぁ、それなら分かってるよ。っていうか、ほとんどの人は気付いてるでしょ。」

 そのほとんどに含まれていない人が目の前にいますが。

「でもさ、いけるからいくとか無理そうだからいかないとかって違うんじゃないかな。無理でもいってみることで何か生まれたり、逆転することもあるかもだしね。」

 北王子君はどこまでいってもイケメンだった。さらっと名言めいたことを言われてぐぅの音も出てこない。どうしてアリスはこんな優良株に惹かれないんだろうか。

「まぁ、うかうかしてるといつの間にか取られてても知らないぞってことで。」

 そう言い残して、北王子君は部屋の前で一息ついてから戻っていった。

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