第47話 付き合ってる2人が同時に席を外すと…

「それよりも聞いてよ!只男ってば女湯に行こうとして排水口の鉄格子に思いっきり頭打ってんだよ!たんこぶになってるし!」

 栄一が大笑いしながら男湯での出来事を大いに曲解して説明する。

「えっ…まぁ、只男君も男の子だし…ね…」

「さいってー…やっぱり変態じゃない!」

「違っ…それは元々栄一がのぞっ…むがっ…」

「よーし!風呂上がりといえばコーヒー牛乳だなぁ!っとその前に厠へ。」

「あっ、私も!」

 真相を言おうとするも栄一に押さえつけられてしまう。栄一は都合が悪くなる前に退散しようと決め込んだのか、そのまま長名と去って行ってしまった。自分に都合が悪い時の対応の上手さは抜群だな。

 アリスと2人っきりになってしまい、変態と言われた手前、気まずい空気が流れる。

「さっきの、女湯に行こうとしたっていうのは…」

「どうせ何かに巻き込まれたんでしょ?分かってるわよ。どれだけ一緒にいたと思ってるの。」

 さっきの反応は栄一の話に乗っかっただけらしかった。アリスが誤解しないでいてくれて心から安心した。

「でも、たんこぶになってるのは本当なのね…痛そう…大丈夫?」

 大丈夫?と聞きながら、たんこぶの部分を指で突きながらこちらの反応を楽しんでいる。

「いや、痛いけど…触ると余計に痛いけど…聞いてる?まぁ、これくらいどうでも良いけど。」

「ふふっ、どうでも良くはないんじゃない?ちゃんと冷やしとくんだよ。」

「はい…」

「なんだかコーヒー牛乳って聞いたら飲みたくなっちゃったね。二人とも遅いし先に買っちゃお。」

 アリスに連れられるまま牛乳瓶の自販機でそれぞれコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を買う。それをたんこぶに当てたり、腰に手を当てて正しい姿勢で飲むことを教えたり、飲みながら雑談したり…と二人で結構な時間を過ごしたが、いつまで経っても栄一達が帰って来ない。

――付き合いたての2人が一緒に席を外す。そもそもこの勉強合宿も栄一達が一緒にいるため説もある……これは、2人でイチャついてるやつだ。邪魔しちゃ悪いな。

「全然帰って来ないけど、あの2人は大丈夫なのかな?ちょっと探しに行ってくるね。」

「あっ…一緒に行くよ。」

 銭湯の外のトイレに行ったはずだから…と探しに外に出ると、近くの公園のベンチで楽しそうに話しているのを見つけた。やっぱり2人でイチャつきたかったみたいだ。それにしても、付き合ってるだけあって距離感が近いな。

 アリスが声をかけようと近づいていくが、途中で静止したかと思うと急に振り返って戻ってきた。

「どうした?呼びに行ったんじゃないのか?」

「まぁ、いいじゃない…ほっときましょうよ。」

「でも、一緒に帰った方が良くないか?俺が呼んでくる。」

「…あっ。いや、それは…」

 アリスは何か言いにくそうにしているが、とりあえず2人を呼びに近付いていく。さっきも思ったが、やけに距離感か近いような…というかこれは…

 途中で引き返してアリスに合流すると、分かってますよと言わんばかりにアリスはうなずいていた。

「だからほっときましょって言ったのよ。」

「これで声を掛けるのは野暮すぎるな。」

「…もしかしたら、この勉強合宿はあの2人がこういう時間を作るためでもあったのかも…?」

「うーん、…だね!2人が息を揃えて提案してきた時に薄々勘づいてはいたけど。」

「知ってたなら言いなさいよ!今も全然空気読まずに話しかけそうになったじゃん!もう、帰るよ。」

「勝手に戻っていいの?」

「先に帰るってメッセージ入れとくわ。お邪魔虫は退散よ。」

「まぁ、俺もアリスと2人で話せて嬉しいけどね。」

 さっき思ったことを言わずに叱られたから、今度は思ったことを口に出して言うってことを実践してみる。アリスの反応はどうだ?

「…とりあえず言いましたって感じね。60点。何も言わないよりは遥かにマシだけどね。それでも言い方ってものが…」

 考えが見透かされたようで辛口な評価をいただいた。その上、帰り道の間中ずっと、いかに女心が分かっていないか、どういうのが女の子は嬉しいのかについて延々と説教されることになったのだった。

 でも、話しているアリスの表情は柔らかく、いつもより声も明るく饒舌だった気がするから、口に出して言ったことは正解だったと思い込むことにした。

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