第46話 男湯ですることといえば…

 集合した時には真上でさんさんと照りつけていた太陽も沈み、辺りが真っ暗になった頃、誰かの腹時計が盛大に晩御飯の時間を知らせてくれた。

「腹減ったー!一旦中止にしてどっか食べに行こう。」

「栄一君に賛成!ねぇねぇ、ご飯食べに行くついでにお風呂も入りに行こうよ。近くに銭湯あるのに行ったことないんだ。」

「あぁ、あそこね。いいじゃん。あそこは長名と何回か行ったこともあるよな。」

「そうだね。何かイベントあったらあそこに入って帰るみたいな流れあったもんね。」

「俺の清香と銭湯に?ちょっとその話詳しく…!まさか、清香とおんなじ風呂に入ったとか…!?もしそうだったら…只男、消すよ?」

「消すって、怖っ…いやいやいやいや、小っちゃい頃の話だし、一緒に入る訳ないじゃん!な!」

「…まぁ、それならギリギリ許すか。」

「ギリギリなんだ…」

 栄一の猟奇的な一面が暴走する前にさっさと支度して近所にファミレスに向かう。

 ファミレスではドリンクバーのジュースを魔改造しながら腹ごしらえを済ませて銭湯に向かう。友達と話しながら夜道を歩いているだけで非日常感に足元が浮ついてしまうのは何でなんだろうか。

 銭湯に到着して男女別れて浴場に入ると、栄一が突然落ち着きなく周囲を探索し始めた。

「何してんだ?素っ裸でうろうろと。」

「おいおい、こういう年季の入った銭湯には大体覗き穴があるってもんだろう。さっき館内図を見たけど、こっちの壁が女湯と繋がってるはずなんだよ。」

「…その無駄に高い行動力と洞察力には言葉が出ないよ。」

「ありがとう。無駄口はいいから手伝ってくれ。」

「褒めてないけどな。」

 こんな悪だくみを手伝うわけもなく、とりあえず執念深い男は放置して体を洗うことにする。体も洗い終わり洗顔までできた頃、ついに栄一が奇声を発した。

「おぉ!この亀裂の深さは!これはかすかに向こう側が見えるような…」

 体勢を変えながら何とか1番奥まで見える角度を必死に探す姿に少し憐れみを感じ始めたため、もう止めることにした。

「栄一、もうそこまででいいだろ。不審者を通り越して本当の変質者だぞ。」

「待て待て。こっちから見ればもうちょっと奥まで見えるはず…!」

「そんなに必死にならないでも…あっ…」

 栄一を止めようとした拍子に足を滑らせてバランスを崩してしまう。

――これは、お湯の中に飛び込んだら浴槽の下が繋がっていて女湯に行ってしまうやつじゃないか!?…そういうことなら仕方ないな。別に、望んだわけではないけど成り行きなんだから仕方ないよな。

 バランスを崩したまま浴槽に飛び込んでしまい、派手に水飛沫を上げながらお湯の中に潜っていった。その勢いのまま壁際の排水口に向かって流されていく。チラッと覗いてみると排水口の向こうにもう一つ浴槽があるのが見えた。やっぱり繋がってるんだ!そのまま排水口を通ってあちら側に…

 行けるわけもなく、ぶっとい鉄格子に思いっきり頭を打ちつけるだけだった…

 そりゃそうだ。こんな簡単に女湯に行けるわけなんてないんだ。この世界線にはそんなラッキーすけべは存在しないんだ…ジンジン痛む頭を撫でながら浴槽の隅に小さく座って湯に浸かりながら自分で自分を慰めた。

「いやぁ、良いお湯だったー!」

 一足先に上がって待合室で待っていると女子組が上がってきた。お湯の熱で上気した顔や乾かしたてでちょっと無防備な髪など、風呂上がりの女子特有の艶っぽさに変な緊張をしてしまう。

「あらあら、風呂上がりの女子ってなんだか色っぽくて艶があるねぇ。」

 栄一が思ったままの感想に口に出す。彼は心の声の翻訳機のようだ。

「あ、ありがとう…ちょっと恥ずかしいよぅ…」

 長名が照れながら髪を撫でつけて顔を隠す。この2人はイチャついててもほのぼのとするから全く悪意が湧かない。ごちそうさまです。

「ほら、只男も何か言うことないの?うん?」

 堂々とした仁王立ちをしながらアリスが催促してくる。

「あぁ…右に同じ?」

「何ていう気の利かなさ!そこは何でもいいから褒めとくものなのよ。可愛いねとか素敵だねとか君に夢中になっちゃうよとか君になら僕の生涯賃金全部貢ぎたいよとか。」

「…いやぁ、アリスが可愛いのはいつものことだし、生涯賃金はちょっと…」

「…いつものことでも口に出して褒められたいものなの!もう!」

 アリスから右の張り手が飛んでくる。痛っ…くはない。そんなに怒ってはないのか。それにしても、いつものことでもわざわざ言われたいなんて女心は難しい…

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