第42話 テスト前の週末といえば…
その日の放課後から早速図書室に残って勉強を始める。栄一と長名は言っていたように部活動で欠席のため、1対1でも教えられる教科の中でも1番危なそうな日本史から教えることになった。
「教えるといっても日本史はほとんど暗記するだけだからなぁ。とりあえず、どれくらい覚えてるかクイズ形式で確認してみよう。」
「えっ…うん…分かった…」
一問一答形式でよく出る単語やテストに出そうな単語を聞いてみる。
10分後、そこには無残な結果にうちひしがれる二人が残されていた。ここまで覚えていないとは…逆に答えられる問題を考える方が難しい。
「…授業中何をしてたんだ…」
「だってだって…日本語の名前は似たようなのばっかりだし、漢字は難しいし…」
まぁ、生粋の日本人でも覚えるのに苦労するぐらいだから、アリスは言わずもがなか。
「うーん、単語とか人物名とか覚えるのは後回しにしよう。まず歴史の流れが分かれば覚えやすくなるから。」
「只男が優しい…でもそれが逆に辛い…」
アリスは半泣きになりながら、教える内容を必死にノートに取って覚えようとしている。ちゃんとやる気はあるみたいだ。
今回の試験範囲の流れや覚えるべき場面などをおさらいしていると、外がいつの間にか暗くなっており気が付けば下校時間になってしまった。結局、この日は日本史しかできなかった。こんなペースで大丈夫なんだろうか。
「こんなに日本史のことが分かったのは初めて!この調子でどんどんやったら良い点取れそう!」
こっちの焦りとは裏腹に、アリスは随分とやる気になったみたいで嬉しそうに息巻いている。本人がやる気になっているところに水を差すのも悪いし、余計なことは言わないでおこう。
次の日からも放課後は下校時間になるまで図書室で勉強を続けた。国語も悲惨なものだったが、日本史と国語以外はそこそこできるようだったので、本人が言うように日本史と国語に集中して取り組めば良さそうだった。
木曜日には部活動が休みだった栄一と長名が合流して、お互いの苦手科目は教え合いながらアリスの実力を確認してもらって勉強を進めた。
「…アリスちゃん、只男と勉強してたんだよね…?」
「もちろん!最近歴史の流れも分かるようになってきて頭の中にスイスイ入ってる気がするのよね。」
「…そ、そうなんだ…只男も頑張ったな…」
栄一が憐れむような目でこちらを見てくる。長名も何も言わないが、生温かい眼差しでアリスのことを見守っていた。
「そうなんだよ!毎日下校時間まで残ってここまで上り詰めてきたって感じ!な!」
「なんで只男がそんなに必死なのよ…ん?みんな何か反応が悪くない?…もしかして私ってそんなにできてない?」
「そんなことないよ!歴史の流れはほぼ頭に入ってるから、あとはテストに出そうな単語を関係付けて覚えれば大丈夫だよ!」
学年最上位層の長名から褒められて、アリスも鼻を高くしている。けど、長名のフォローの必死さから危機的な状況なのはすぐに分かった。本人以外は。
そこから長名はほぼ付きっきりでアリスの面倒を見てくれ、そのおかげもあってアリスはどんどん知識を吸収していった。が、これまでの蓄積がなさ過ぎるせいで勉強すべき内容はまだまだ山積みだった。
――これは、間に合わないから勉強合宿をすることになるやつだ。でも、合宿をしたところで間に合うような気はしないんだが。
「アリスちゃんも頑張ってるけど、ちょっと時間が足りないよね…よし、勉強合宿しようか!」
こういう時に絶妙な提案をしてくれるのはいつも栄一だ。
「それいいね!この週末からウチの部活も休みに入るし。」
すかさず長名が同意する。こういう時に長名が積極的に発言するのは珍しい。さらに、都合良く部活動の休みが被っているなんて…この二人、もともと合宿するつもりで口裏合わせてきたな。もちろんアリスのためっていうのが1番だろうけど、付き合いたての2人が少しでも一緒にいたいという本音も混じっているな。そんな思惑があったとしても反対する理由もないし、ちょっとワクワクする自分もいるし、合宿には大賛成なんだが。
「みんな、ありがとう!大好き!」
アリスは二人の思惑に微塵も気付かずに大喜びしている。
「そうとなったら、みんな私の家に来て!迷惑かけるんだから場所ぐらい用意しなくちゃ!」
「でも、アリスの家って近くなのか?」
この問いに対して、アリスと長名が驚いた顔でこちらを見てきた。何で長名まで?
「そっか、只男君はアリスちゃんの家知らないんだね。」
「そういえば、教えたことなかったっけ?今日の放課後にでも案内してあげる。」
アリスと長名が目を見合わせて訳知り顔で笑っている。ちなみに栄一は長名から聞いているらしく、知らないのは1人だけのようだった。
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