学年末テスト

第41話 幼馴染は成績良いのに対して…

「…緊急会議を始めます…!」

 昼休みに突然アリスに呼び出されたかと思うと、いきなりの物騒な発言に面を食らってしまう。横には同じように呆然としている栄一と長名が立っている。

「皆さん、今月末に控えているイベントは何かご存じですか?」

「節分…はこの間終わったし…」

「にんにくの日!」

「天皇誕生日?」

「違うちがーう!みんなわざと間違ってるでしょ。学年末テストだよ、が、く、ね、ん、ま、つ!」

「あぁー…」

「それか。」

「学年末があるから何?」

 もちろん分かっていた。が、長名を除いてそれほど成績の良くない我々はあえて話題から避けていたのだ。長名にいたっては意識せずとも高得点が取れるという強者の余裕である。

「私、広井アリスは先ほど担任の先生から呼び出しを受けまして。進級が危ういと警告を受けたのです…」

「そんなのテストの度に言われてんじゃん。」

「うるさい!今回は先生も本気そうだったの…テスト3週間前にわざわざ呼び出して言うっていうのも本気っぽいでしょ?だから…お願いします!助けてください!」

「うーん、教えるのは全然かまわないんだけど、アリスちゃんは何が苦手なの?」

「苦手ってほどではないと思うんだけど…国語と社会と数学と理科…かな?」

「英語以外全部じゃん!…かな?とか言っても誤魔化せてないから。さすがに全部をみっちりは無理でしょ。ちょっとは絞らないと。」

「うぅ…数学と理科は自分でできる…と思う。でも、国語と日本史だけは絶対無理!現代文の心情とか日本史の人物名とかが特に…」

「そもそもどうして日本史選んだんだよ…世界史にしとこうよ…」

「だって…日本のことだけなら範囲狭いかと思って…」

「その発想が勉強できない人のそれ。」

「何だってぇ!?」

「と、とにかく!現状を把握するために2学期の成績を見せ合いっこしようよ。」

 一瞬アリスと一触即発な空気になるが、長名の提案でそれぞれの成績を確認することになった。

「せーの…」

 さすがの長名は全て80点越えだ。栄一も要領良く平均70点位取っているが、世界史と理科がやや弱い印象か。肝心のアリスは…英語だけ90点台で飛び抜けて良いがそれ以外は30点くらい…特に国語と日本史は20点周辺という悲惨なものだった。

「英語以外全部赤点かい!…解散。来年は後輩になるけど仲良くしてあげてもいいよ。」

「待って待って!留年する前提なのやめよ。それにちょっと上から目線だし。」

「これは先生が早めに呼び出したのも分かるな…」

「なんだかんだ言ってるけど、只男だって英語と数学40点台じゃん。」

「40点台だから赤点じゃないし。国語と日本史なんかは80点越えだからね。」

「そんなことどうでもいいのよ!何でもいいから助けてください。」

「どうでもいいって…アリスが言ってきたのに…」

 進級がかかって切羽詰まっているからか、アリスからの当たりも一段と強くなっている。

「二人とも夫婦漫才はいいから。とりあえず、アリスちゃんは確かに危ない感じがするから…早速だけど、今日から図書室にでも通って勉強し始めないといけないね。」

「うーん…そうだね。さすがにこのままじゃまずいよねぇ…」

 普段は優しい栄一や長名からも辛口なコメントをされて本気でショックを受けている。

「まずいのは分かってるの…」

 いつもの調子も鳴りを潜めてしおらしく落ち込んでいる。それを見て栄一も長名も慌ててフォローに回る。

「ご、ごめんごめん!みんなで勉強すれば大丈夫だよ、きっと。」

「そ、そうだね。大丈夫だよ、アリスちゃん。みんなで勉強すれば何とかなるよ。」

「ありがとう…」

「あっ、でもまだ俺と清香は部活があるから、まずは只男とアリスちゃんで頑張りな。時々は顔出すから。」

「そんなぁ…只男と2人だなんて…不安しかない…でも、2人が来るまでにはマシになるように頑張ってみる!只男、ビシバシいくからね!」

「全部こっちの台詞なんだよなぁ。」

 こうして今日の放課後から図書室で勉強することに決め、それぞれ自席に戻っていった。すると、今までのやり取りを遠巻きに見ていた男子生徒がアリスに近付いてきた。

「広井さんにも苦手なものがあるんだね。」

 この高身長にイケメンフェイスにイケメンボイスは、体育祭で大活躍した北王子君だ。いつもの陽気なメンバー達を置いて何をしに来たのか。

「まぁ、ね。ちょーっと日本との文化の違いにつまずいてるだけなんだけどね。」

 必死で強がるアリス。きっと会話の中身も聞こえてただろうから意味ないのに。

「そっかぁ。ちなみに俺、日本史と国語がクラス1位なんだけど教えてあげよっか?」

「クラス1位!?すごい!ぜひ…って思ったけど、本当に残念なことに先に只男とやる約束しちゃったから、また今度分からない所とかあったら教えて。」

「そっか。じゃあいつでも声掛けてね。広井さんのためならなんでも教えてあげちゃうから。」

 そう言い残して北王子君は颯爽と自分のグループに戻っていった。途中で目が合った時に軽く微笑まれたけど、何なんだろう。イケメンのやることはよく分からない。

「ドンマイー」

「振られてんじゃねえかよー」

 グループのメンバーに囃し立てられている北王子君は困ったような顔をしながらも、一瞬まだ諦めていない顔でアリスを見つめた…ような気がした。

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