第43話 勉強合宿でもまた集合時間より…

 金曜日。いつものように下校時間まで勉強した後、みんなで帰りながらアリスの家まで行ってみることになった。前で楽しそうに話をするアリスと長名についていく。栄一と勉強の話をしたり、栄一が推しへの愛を語っているのを聞いたりしながら歩き続ける…が、どこまでいってもいつもの通学路と同じルートを辿るばかりだった。長名と栄一は中学も一緒だし同じ学区だから分かるけど、アリスもこっちなのか?

「…これ、俺と長名の家の方向に向かってるって訳じゃない?」

「大丈夫よ。ちゃんと私の家に向かってるから。」

――これは、実は近所に住んでいたやつだ。そういえば、最初に出会ったのも近所の交差点でぶつかった時だったし、同じ地区に住んでるのか。

 その後、アリスとぶつかった交差点を曲がり、アリスが出てきた方の道に入る。と思ったら一つ目の道で曲がる。これは我が家の裏の通りだぞ。

 そのまましばらく歩くとアリスはぴたりと立ち止まって両手を広げる。

「とうちゃーく!我が家はここでしたー!」

「ここでしたっていうか…裏…俺の家だし。」

「な…な…なんと!そうだったの!?こりゃびっくり!」

「いやいや、絶対知ってたでしょ。ずっとにやにやしてたし。」

「へっへっへ、どう?びっくりした?」

 はち切れんばかりの満面の笑顔で聞かれる。

「…したよ。まさか裏とは…言ってくれれば良かったのに。」

「お隣さんも把握してないなんて日本人失格だよ。」

「隣じゃなくて裏だし…」

「屁理屈言わない。」

「…裏はアリスちゃんで、隣は清香が住んでて…家までもハーレムか!」

 栄一が突然やっかんでくる。

「いや、いきなり何!?家までもって…家しかハーレムじゃないけど!ていうか、家にハーレムとかいう概念ないけどね!」

 謎のサプライズにまんまと引っかかってしまったものの、勉強合宿の場所も確認できたところでその日はお開きとなった。


 アリスの家の門の前で迷うこと5分。今は集合時間の30分前だ。楽しみで早く来たわけじゃなくて場所の…以下略。インターホンを押すかどうか悩んだけど、家の前でウロウロしてたら近所のおばさま方が何やらこっちを見てコソコソ話をしている気がする。意を決してインターホンを押す。

「はーい。って只男1人?めっちゃ早いじゃん!どうぞー。」

 玄関のドアが開いてアリスが顔を出す。

「まだ30分あるのに、楽しみにしすぎでしょ。」

「いや、集合場所の確認に…」

「それもういいから。どうぞ。おばさま方がこっち見てる気がするけど、何かしたの?」

「何だろうね?お邪魔しまーす。」

 家に入ってもアリスの家族の出迎えはなく、そもそも人の気配がない。

――これは、親が出かけててアリスの部屋で2人っきりになるやつだ。早く着きすぎて嬉し…緊急事態になってしまった。

「今…親いないんだ…この家に2人っきりだよ…どうする?…」

 そう言ったっきり、しおらしくなって黙ってしまった。

――これは、こっちを困らせるためにわざとやってるやつだ。ここで、焦ったりなんかしたらからかわれるに決まってる。

「…ど、どうするって、別に…勉強しに来たんだろ。」

「…なに焦ってるのよ。何か勉強以外で焦るようなこと考えちゃったりしたの?やらしいー。」

「いや、それは…」

 分かっててもからかわれるのを回避できないコミュ力の低さが恨めしい。

「はい、ここが私の部屋。適当に座って待ってて…あっ、部屋の中漁ったりしちゃ駄目よ。」

「そんなことするわけないだよ!」

「あははっ、冗談冗談。クローゼットの中以外ならどこ見てもいいからね。」

「見ないってば!」

 笑いながらアリスが出ていったため、女の子の部屋に1人で取り残されてしまった。こういう時、どうしたらいいのか…

 まずどこに座ったらいいのかを散々悩んだ結果、とりあえずテーブルの前の床にあぐらをかく。勉強机の横に天井まで届きそうなくらいの本棚があるのが目を引く。棚のほとんどが埋まっているが、半分くらいは背表紙に英語が書いてある。普段は日本語を流暢に話すから忘れがちだけど、こういう時帰国子女だったことを思い出させられる。

「あれ?どこも開いてない…本当に何もしなかったの?」

「いつの間にそんな変態認定されたの?」

「出会った時から?」

「その節はすみませんでした…」

 部屋に戻ってきたアリスに開口一番疑われる悲しさよ。

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