第35話 肝試しの時は大体…
地主神社で参拝をしてから清水寺を出て、祇園を通って建仁寺に向かう。建仁寺では坐禅体験をするということだ。きちんと事前予約まで取ってあるらしい。長名の班長力には頭が上がらない。
寺に着いて国宝や文化財を案内された後、坐禅についての説明を簡単に受けて坐禅体験が始まった。雑念や気負いを無くして呼吸に意識を集中する…らしいが、どうしても考え事が頭をもたげてしまう。アリスとどう接するのが良いのか、これからどうしていきたいのか。なかなかどうしてこのタイミングでの坐禅なのだろう。雑念にまみれて集中できない。すると、それを察して住職が警策で喝を入れに来てくれる。他の人の倍ほどの回数喝を入れてもらったことから、どれだけ雑念にまみれているかお分かりいただけるだろう。喝を入れていただく度に隣のアリスが嬉しそうに吹き出す。チラッと横目に盗み見ると同じように見ていたようで目が合ってしまう。こういうのも楽しいんだよなぁ。また雑念が生まれる。そして、住職が警策を与える音が2つ鳴り響く…
観光を終え、京都での宿に戻った。伝統の長さを感じさせるような古ぼけ…味のある旅館に泊まることになっている。ここは例年お世話になっている場所であり、毎年の恒例行事にも協力的であるため、多少の施設の不具合には目を瞑っているとかいないとか。
毎年の恒例行事とは…肝試しである。希望者はペアを作り、夜になると雰囲気の出る旅館を出発し、裏の森を半周して帰ってくるというシンプルなものである。しかし、シンプルなルートとは裏腹に、毎年改良(悪?)を加えられるという教員によるドッキリによって毎年ギブアップする生徒が後を絶たないという噂だ。
ペア決めでは、カップルで回るのかと思いきや、アリスがどうしても長名と回りたいということで栄一と組むことになり、何の面白みのないペアが出来上がってしまった。
――怖がりなアリスが甘えやすい長名と回りたかったのだろう……これは、怖がり過ぎてしまうあまりに長名とはぐれてしまうやつだ。怖いなら参加しなければいいのに。一応対策しておこうか。
「これ毎年やらかしちゃう人が出るくらい怖いらしいから今のうちにトイレ行っておいた方がいいかなぁ。」
独り言にしては大きすぎる声量で、近くにいるアリスに聞こえるように呟く。
「あ…そういえば!…わ…私、トイレ行っとこうかな。」
「それじゃあ荷物見ておくからアリスが先に行ってきなよ。」
「じゃ…お言葉に甘えて。」
普段なら絶対に怪しまれる優しさを見せるが、余裕のない今は全く疑う様子もなくトイレに立ち去っていった。
この間にアリスの荷物から覗いているスマホのマナーボタンと音量ボタンをいじる。流石に中身を開いて勝手に触ることはできないから、気休め程度かもしれないけど、まぁ効果はあるだろう。
戻ってきたアリスはスマホを触られたことに気付く様子もなく肝試しのルートを執拗に確認している。迷子フラグを自分から立てにきているな。
肝試しが始まり、初めの方に入っていったペアの叫び声が鳴り響く。アリスはその度に小さく震えてどんどん萎縮していった。
何組か見送った後、アリスと長名の順番が来た。アリスが腕にしがみつきすぎて長名の服に濃い皺ができている。アリスをなだめる長名が心なしか頼もしく見えるのは、一緒にいるアリスがあまりにも怯えているからだろう。
アリス達が入っていってすぐ、明らかに仕掛けもない場所から悲鳴が上がる。これは前途多難だろうなと長名に同情していると、入ってもいいという合図が出て栄一と森の中に入っていく。
流石に毎年やっているだけあって予想以上に手の込んだ仕掛けの数々に感心してしまうが、男2人ではそんなに盛り上がることもなく、仕掛け場所を予想したり仕組みを分析したりして男子らしい楽しみ方に興じた。
中盤に差し掛かった頃、ゾンビのコスプレをした先生と長名が困惑した様子で立ち尽くしていた。予想から全く外れない抜群の安定感だ。
「どうした?まるで突然出てきた先生を怖がりすぎてアリスが明後日の方向に逃げてしまったような顔をしているじゃないか。」
「何で知ってるの!?見てたの!?怖い!」
「いやいや、長名がそんな顔してたから。とりあえず、俺が探してくるから大体どっちの方に走っていったか教えてもらっていい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます