第28話 帰り道は自分で歩くが、一人では歩きづらくて…

 女子力が高く優しい女性がアリスの足を見て絆創膏を貸してくれ、足の負担を減らす歩き方を教えてくれた。

「優しい人もいるもんだなぁ。世の中捨てたもんじゃないな。」

「何をおじいさんみたいなこと言ってんの。でも、楽になったからありがたかったね。」

 帰りは自分で歩けると言うので、並んで歩きながら帰ることになった。だが、まだ痛みは残るようでぎこちない歩き方にペースを緩めて合わせる形になる。

「楽になっても、歩きにくいは歩きにくいのよね…ちょっと腕貸してくれない?」

――これは、側から見たら腕を組んで歩いているように見えるやつじゃないか。今回は下手に緊張が伝わらないようにいつも通り振る舞わなくては。

「あ、あぁ。こ、これでいいか?」

 いつも通りを意識すると逆にぎこちなくなってしまうやつ。アリスも失笑してるし、絶対からかわれるに違いない。そう思ったが、予想に反してアリスは大人しく黙ったまま腕を掴んでいる。

「まだ辛いのか?」

「…えっ!?なんで?全然平気だけど…」

「なんか静かすぎるから。まだどっか痛むのかと思って。」

「べ…別にちょっと、歩くのに苦戦してただけよ。」

「本当にそれだけか?なんか様子がおかしくないか?足痛いんじゃないか?またおんぶするか?」

「あんたは私のおかんか!心配し過ぎだから。ほんとに体は大丈夫だから…ちょっと…こうやって腕掴んでたら、……みたいだなって…」

 アリスの言葉が段々と小さくなっていって後半何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。

「えぇ?なんだって?よく聞こえないよ?」

「別に聞こえてなくていいから!っていうか、そんなじろじろ見てないで、前向いて歩きなさいよ!足元危ないんだからね。」

 アリスがごにょごにょ言ってるから聞き返したのに、なぜかそれを怒られるという理不尽に見舞われた。アリスは俯きがちに歩いているから表情を確認できないが、そこまで怒っているわけでもなさそうだし、苦しそうにしている様子もなさそうだから、言うとおりにしっかり前を向いてエスコートすることに集中した。

 結局、待ち合わせ場所に着いた時には人混みもまばらになっていて、栄一と長名をすぐに見つけることができた。遠くから見ていると腕を組んで歩いているように見えたことで、栄一から冷やかされたり経緯を聞かれたりしたが、やましいことはないことをきちんと説明する。すると、

「そこでもう一押しなんだけどな…まぁ、それが只男らしいか。」

などと呟きながら、納得したような残念そうな反応をされた。

 アリスは長名の顔を見るや飛びついていって、また大粒の涙を流しながら謝っていた。いつまでも泣き止まないアリスを長名が慰めている様子を眺めながら、さっきまで掴まれていた腕の熱がいつまで経っても引かないのを感じていた。

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