修学旅行

第29話 修学旅行で同じ班になるのはもちろん…

 10月も終わりに近づき、木々も華やか色付き冬支度を始めている。

 夏休み明けから着々と準備が進んできた一大イベントの時期がやってきた。そう、京都大阪を巡る修学旅行である。

 1日目は移動と大阪観光、2日目は大阪にある遊園地で一日自由行動、3日目は京都に移動して自由散策、4日目は班毎に選択した文化体験をして帰るという流れである。遊園地や京都で自由といっても、基本は班行動だ。

 その班分けは夏休み明けすぐの授業でもう終わっている。適当な担任のおかげで、4〜6人1班で自由に組んでも良いということだったので、当然のようにいつもの4人で組んだ。我々男性陣はともかく、アリスと長名はクラスでも相当な人気者なのに、本当にこのメンバーで良かったのか尋ねてみた。

「只男や栄一くんと一緒だと変な虫も寄り付かなくて丁度いいのよ。それに、清香はこのメンバーじゃないとダメみた...」

「アリスちゃん!少しお口チャックしようか?」

「ごめんごめん。とにかくこの4人がいいのよ!」

 途中で長名に止められていたが、一応このメンバーがいい理由もあるみたいだ。それにしても、長名はなぜこのメンバーじゃないとダメなのだろうか。何度聞いてもはぐらかされてしまうが、何か強いこだわりでもあるのだろうか。


 修学旅行初日。

 大阪へは新幹線で向かう。新幹線が停まる大きな駅で集合し、班で固まって乗り込む。新幹線というのは、日常とは違うというだけでも楽しいのに、そこに友達が加わることでどうしてこんなにも楽しさが跳ね上がるのか。トランプや富士山前での記念撮影など、4人で大騒ぎしているといつの間にか大阪に到着してしまった。

 大阪では、クラス毎にバスに乗って主だった観光地を巡るツアーになっている。某看板前で写真を撮ったり、大阪名物を食べたり、神様の足の裏を触ったりして過ごしたが...ここはこれといった出来事もなかったのでナレーションベースでも良いや。

 夜。ホテルで夕食と入浴を終え、部屋で思い思いに自由時間を過ごしていた時、栄一が突然叫びながら立ち上がった。

「俺、この修学旅行で勝負をかける!明日はできるだけ長名ちゃんと一緒に過ごして、良い感じになったら、告白するわ!」

 少しまどろんだ空気が流れていた部屋が一気に活気付く。感嘆の声をあげたり囃し立てたりしている内に、誰かが枕を投げつけて枕投げが始まった。風呂上がりなのに汗だくになった頃に、見回りの先生が怒鳴り声と共に入ってきて終戦となった。

「ちょっと気合い入れ直してくる。」

 一喝されて静まり返った部屋から栄一は出て行き、戻ってきたのは消灯時間間際であった。

「時間かかったな。何かあったのか?」

「いや、明日の計画を立てている時に広井さんが通りがかって...まぁ大丈夫...なはず。」

 何となく心配そうな様子だったが、気合も十分であったためそれ以上追及するのはやめておいた。

――これは、アリスが気を回し過ぎて空回りするやつだ。明日はアリスの行動にも気を付けないと。

「明日、できるだけサポートするから。」

「あぁ、頼んだ。」

 言葉少なに返事をして、栄一は布団の中に潜っていってしまった。

 明日はできるだけ自然にアリスを引き離す仕事に徹しよう。そう決意したものの、アリスが相手だとどうなるか読めない。不安だ。でも、アリスもきっと協力してくれる方向で動くはずだから大丈夫だろう。

 使命感と一抹の不安にかられながら、修学旅行初日の幕は閉じたのだった。

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