第17話 水着選びはペアになって…
まず当初の目的である水着を選ぶことになった。
「せっかくだし、ペアになって2人で選ぶってのはどう?試着した中から良さそうなのを相手に選んでもらうってことで。ペア同士の水着は当日のお楽しみにするの。」
まさかのアリスから素敵過ぎる提案をしてくれた。だが、この発言の意図は男女で別々になって長名と水着を選ぶことが目的だろう。しかし、そうはさせない。何としても先手を打って男女ペアを作らねば。
――水着回でのこの発言。さらにここまでの栄一の活躍……これは、栄一が割って入って男女ペアを無理やり作るやつだ。陰ながらサポートしよう…
「じゃあ、清香と私がいっし…」
「長名ちゃんの魅力を120%引き出せるのはこの私以外に誰がいるだろうか、いや、いない。さぁさぁ!長名ちゃんはこっちに!」
「あ…でも……」
活躍が目覚ましい栄一は、思惑通り長名の手を引いてあっという間に別ブースまで連れ去っていってしまった。最近、長名は栄一に振り回されっぱなしのような気がするが、あの2人もいつの間にか仲良くなっているようだし大丈夫か。
「行ってしまったのは仕方ない!俺たちも俺たちで選ぶしかないな!うん!」
望み通りの展開になり、栄一と自分の体質に心の底から感謝した。緩みそうになる顔を必死で引き締めながら平静を装う。
「そ…そうね。じゃ、じゃあ私から選ぼうかな。」
アリスは近くの水着をいくつか無造作に手に取って試着室へ入っていった。
適当に手に取ったように見えたが、あんな選び方で大丈夫なのだろうか。そもそも栄一達がいなくなってから挙動がおかしい気がする。まさか、まだ2人だと気まずいのか。さっきまで普通に話せてた気がするけど、無理をしていたのかもしれない。
待っている間にあれこれと考えていると、アリスから呼ばれる。1着目の着替えが終わり、そこから観客が1人しかいない贅沢なファッションショーが始まった。
1着目。かわいい系のワンピース型は、明るく元気な性格とよく合ってる。2着目。クールなハイネックは、隠されているところと出ているところのギャップで逆にセクシーに見える。3着目。フリルのオフショルは、ひらひらに目を取られて見入ってしまう…つまり、何を着ていても似合い過ぎてしまっている。適当に選んだようだったが、美人は何を着ても似合ってしまうものなのだ。このショーを独り占めしてしまい、全国の皆様にお送りできないのが残念で仕方がない。まあ、お送りできてもしないが。
「もう!さっきから似合うばっかりで全然参考になんないじゃん!次で最後だからちゃんと考えてよね。」
もうお開きになってしまうことに寂しさを感じながら、最後の1着を目に焼き付けようと心に決める。
カーテンを開けて出てきたアリスが着ていたのは、黒の正統派のビキニだった。シンプルであるがゆえに素材の良さが引き立ち、これまでの中でもぶっちぎりに似合っている。
「私くらいスタイルが良いとこんなのも似合っちゃうのよね。」
「あぁ…たしかに、これが一番似合ってる。」
「ちょっと、そんな素で反応されると私が自意識過剰みたいじゃない。いつもみたいにつっこんでくれなきゃ。」
「…ごめんごめん…見惚れてた。」
たしかに一番似合っているのだが、なんといっても布面積が少ない。この露出の多さは男子高校生には刺激が強過ぎて思考停止してしまった。
「…何よ、その反応。まあ私もこれが一番似合ってるかなぁとは思ったけどね。」
「いや、そりゃ…一番似合うといえば似合うんだけど…」
「なんだか歯切れが悪いわね。言いたいことがあるなら言いなさいよ。」
「うん。似合うんだけど、ちょっとセクシー過ぎるというか、肌が出てる部分が多いというか…正直、あんまり他の人に見せてほしくない…かな。」
見せてほしくないというよりも、この水着で出歩くのは危険だという方が近い気がする。
「…何を言ってんのよ!これだけで着ないわよ!普段はシャツとかで隠すものなのよ、もぅ…」
そう言って慌てたようにカーテンの向こうに引っ込んでしまった。
そこでファッションショーはお開きとなり、私服に着替えたアリスがそそくさと1人で水着を買ってきてしまった。どの水着にしたのか聞いてもかたくなに教えてくれることはなかった。
「只男も当日のお楽しみよ。すけべな只男にはそっちの方が嬉しいでしょ。」
「それも言えてる。」
「そこは否定しなさい。」
「ただ、すけべもあるが、他の男にアリスが目を付けられないかという心配もある。」
「何よそれ。只男は独占欲が強いタイプかぁ。」
「ど…独占欲って…そうなのか?…」
そういうことなんだろうか。まあ、もしも海で変な男に絡まれそうになっても、きっとこの体質のおかげで回避できるだろう。そう思ってそれ以上この話題を続けるのはやめた。
その後、こちらの水着は適当なデザインの中からアリスに選んでもらったものを買い、栄一達と合流することになった。
栄一は別れた時よりもつやつやした顔になっていて、長名はやつれたように見える。
「俺、今日という日を一生忘れない…!」
「私も…忘れられない…」
同じようなことを言っているのに、全く意味が違って聞こえるのが不思議だ。向こうのペアで何が起こったのかが容易に想像ができる。
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