第16話 待ち合わせ時間前に来る奴の言い訳といえば…
土曜日。結局、終業式の日の後も栄一が待ち合わせの詳細まで決めてしまった。待ち合わせはショッピングモールの入り口に10時。現在の時刻は、9時ちょっと過ぎ。別に、今日が楽しみで朝早くに目が覚めてしまって落ち着かないから早く来てしまったというわけではないわけだが。断じて違うのだが。ただ待ち合わせ場所の確認のために早めに家を出たら、たまたま交通の便が良くてたまたま早く着き過ぎてしまっただけなわけだが。
1時間近くも早く来過ぎてしまい、待つのにどうやって時間を潰そうか考えていると、道路の向かい側からこちらにやって来る人影があった。
――これは、同じように楽しみで早く着き過ぎた人が来ているやつだ。そして、こんな時にそんな浮かれた行動をしてしまうのはアリスに違いない。
近づいてくる人を見てみると、やっぱりアリスだ。こちらに気づいた途端、悪戯っぽい笑顔になって飛び跳ねるようにして歩いてくる。アリスはイメージ通り動きやすそうなパンツスタイルの私服である。
「只男!あれあれ?どうしたの、こんなに早くに?もしかして…楽しみ過ぎて早く着いちゃったやつ?」
こっちに向かってくる時ににやにやしていた理由が分かった。到着早々いじってくる気満々だったわけだ。
「別に…楽しみだからってわけじゃないし。」
「まぁね、何年かぶりの水着だし、何よりも初めて女の子と出かけるからワクワクしないわけないよね。」
「久しぶりの海には心は躍るけど…って、何で女の子との買い物が初めてって決めつけてるんだよ!?」
「え?違うの!?もし初めてじゃないんだったら、ごめんね。」
「そりゃあ…初めてだけどさ…どうして事実は変わらないのに、人から指摘されると惨めさが段違いなんだろう…」
「うんうん、そうだよね。辛いよね。」
「加害者が共感するな。そんなことよりも、アリスこそどうしてこんな早い時間に?」
「えっ私?私は…あれよ。ここは初めて来るから待ち合わせ場所の確認のために早めに家を出たら、たまたま上手いこと来れちゃったのよね。」
似たようなセリフをついさっきどこかで聞いた気がする。
「そうかそうか…アリスもワクワクしちゃったわけだ。」
「ワクワクしちゃったって…場所の確認って言ったでしょ。」
「ふーん。場所の確認のために1時間近くも早くに来ちゃうほど慎重な性格だったんだね。知らなかった。」
「もう!意地悪!おっしゃる通りワクワクしてますよ!何か文句ある?私は素直だからいつまでも誤魔化したりしませんからね、誰かさんと違って。」
「何を!?俺は本当に場所の確認に早く出ただけですー。」
「また何か言ってるし。さっきアリス、も、って言ったくせに。」
「それは…言葉のアヤというか…」
「そうやっていつまでも素直にならなかったら、いつか大事なものを取り逃がしちゃうんだからね。」
「何だよ、それ。確認って言ったら確認だし。」
「はいはい。分かりました。素直じゃない只男君だけど、いてくれて良かったよ。1人で何して過ごそうか、全然浮かんでなかったんだよね。」
それはこちらこそだ。アリスが来てくれたおかげで、話しているだけでも暇することがない。
「俺は1人でも好きに見て回ろうと思ってたけどな。」
「はいはい。私のためにお付き合いいただいてるんですね。ありがとうございます。」
「そんな塩対応されると俺が駄々っ子みたいじゃないか。」
「えっ?何か違うの?」
「おい!」
「あはは。冗談冗談。」
気が合うのか、間が合うのか、アリスと喋っているとどんどん話が続いて途切れることがない。
「あーあ、なんだかんだ言ってやっぱりアリスとこうやって馬鹿話してる時が1番楽しい気がするな。」
また軽口が返ってくるかと思ったが、アリスはそっぽを向いてしまっていた。
「…そう。そうね。只男は時々そういう時があるよね。」
「んっ?何が?」
「別に何でもない。すぐに女の子を口説こうとしちゃだめだよって話。」
「どこからそうなるんだよ。口説いたことなんてないっての。」
そうこうしているうちに、きっちり集合時間5分前に長名が現れ、栄一は2分程遅れて慌てて走ってきた。
「それでは、4人揃ったところでしゅっぱーつ!」
「遅刻して来た奴がいきなり仕切ってるし。」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないでさっさと行きましょ。やっとサービス回に突入なんだから。」
栄一が相変わらず訳分からないことを言いながら、3人を率いてショッピングモールへと足取り軽く入っていく。
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