第3話 私の答え

 水族館の深海エリア。

 私はそこでクリオネを見ながら、朱莉と会った日を思う。

「はじめまして、私は朱莉。これから仲良くしてね」

 高校に入ってすぐに、朱莉に話しかけられたのが私たちの始まりだった。そのときの太陽みたいな笑顔に当てられて、私はすぐに朱莉と仲良くなった。価値観も結構合っているし、それに朱莉の気遣いやぶっちゃける素直さが私たちの仲をさらに深めさせた。

 ――そんな日々が楽しくて、私が友達としての好意じゃなくて、恋人としての好意を自覚するようになってしまった。

「なんで朱莉のこと、好きになっちゃったんだろう……」

 私がつい口にしちゃっても、ガラス越しのクリオネから答えが返ってくることはない。

 私としてもこの気持ちは言わないつもりだった。けど、日に日に大きくなっていく気持ちは止まってくれなくて、ついに昨日カップルとしてデートしたい言ってしまった。


 実際、デートはできるだろうって思ってた。朱莉の性格だし、ちょっと煽れば乗ってくるだろうと。その考え自体は正しかったんだけど……。

「私の気持ちが予想外だったなー」

 そう、私は今日めちゃくちゃ浮かれていた。今日告白しようかなとかカップルみたいにベタベタしようかなとか、そんなことを考えていた。

 だからだろう……あんなコーヒーぐらいで意識しちゃったのは。思えば間接キスなんて朱莉とは何度もしていたし、気にしていなかった。だけどデートってことで意識しすぎてああなってしまったんだ。

 それにあのCM……運がなさすぎるよ。

 過剰に反応してしまった私も悪いけど、あれはさすがに予想外すぎる。

「けど……無理って言われたのがきつかったな」

 あの言葉はさすがに効いた。飛び出さぐらいには。

 けど朱莉とのデートっということで往生際悪く、まだ水族館で魚を見ている。

 これじゃ探しに来て欲しいって言っているめんどくさい女だ。

 ……というか来るわけないでしょ。いきなり飛び出して、連絡もしてないし。それに場所だってわかんないんだから。

 現実は物語のように王子様が見つけてくれるわけじゃない。それが王子様じゃなくお姫様なら尚更――。

 それに来てくれても、結ばれずに離れるくらいならこのまま見つかんないほうがいい。

 私は深海エリアを去ろうとすると。

「やっと見つけた」

 太陽のような彼女がそこには立っていた。


 ***


「……よくわかったね」

 真希は私を見て驚くように言う。

 ホントここまで来させておいて……。

 私は責めるように言う。

「だってショーとは一番遠いし……それに嫌なことあったら深海の神秘さで忘れたいんでしょ?」

 あれから冷静になってどこいるかを真剣に考えたんだ。それで普通、ショー行くか? ってなったんだよね。私だったらそんなカップルがたくさんいるところ絶対嫌だし。

 そこで地図を見てみると一番遠かったのが、深海エリアだった。それに朝話していたことも思い出して、じゃあここだってなったんだ。

 真希がここにいたことで、そう考えた私は正解だったようだ。

「よく覚えているね」

「だってあの時なんか変だったし、それで思ったの。これほんとは今日私に告白する予定だったんだって」

「……」

 真希は無言でクリオネに顔を向ける。

 ……やっぱそうだったんだ。

 普通に考えて、関節キスなんて何回もしているんだし。

 だったら私は彼女の告白にはちゃんと答えないといけないだろう。

 その前に。

「まず、考えないで無理とか言ってごめん」

「……私のほうこそ逃げてごめん」

 これで仲直りはいいだろう。

 私の答えはやっぱり……。

「私は……真希をそういう目では見れない」

「うん……」

「だから今後も友達として仲良くしていきたい」

「うん?」


 私の言葉に気落ちしていた真希が「何言ってんの? こいつ」みたいな目で見てくる。いや、そんな目で見るなよ。

「え? だって振っちゃったけど、こうして遊びには行きたいじゃん?」

 さっきとは打って変わり、明るい調子になった私を真希はついにゴミを見るみたいに私を見てくる。

「朱莉、あんた今私のこと振っておいて、これからも仲良くしてって言ってんの?」

「うん」

「……」

 ついに真希の言葉が途切れるけど、知ったことか!

 私もキレながら叫ぶ。

「だってあんたが私たちの関係を変えようとしたんでしょ! こっちの事情も考えないでさ。だったら私の気持ちも優先してほしいんだけど!!」 

「私に友達でいろって?」

「そう」

「うわー……」

 真希がすごいドン引いているけど、気にしない。

 あんたの事情は分かったけど、私だって我慢なんてする気はない。

 だって真希がどう言おうと、私から離れるつもりなんてない。これで避けるんだったら、一生付きまとってやる。


 そんな私の決意を真希も理解したようで、ため息をつく。

「わかった」

「ホント?」

「まあ、私も朱莉とは離れたくないし……でも」

「っつ!」

 頬に柔らかいものが当たる。

 ってちょっとこいつ、キスしやがった!

 私は頬を抑えるように距離をとる。

 そこには今までのような挑発的な笑みを浮かべた真希がいた。

「私、朱莉とは友達で終わるつもりないから」

 おおう。なんか火がついちゃった、って日和るな私! こういう目で見られても友達やるって決めたんだから。

 情熱的に見られるけど、こっちだって落とされるつもりはない。

 私は煽るようにして叫ぶ。

「やってみなよ? 私は絶対落ちないから……てか、せっかくショー見ようとしたのに見れなかったじゃん!」

 ショーの終了のアナウンスが流れて、思わず叫ぶ。

「そうだね。じゃ、次のデートで見に行こっか」

「次のでね!」

 友達と恋人。お互いの距離感が少し違くなってしまったけど、また二人でここに来れるように、私たちは次の約束する。

 そのことを複雑に思いながら私たちは不敵に笑う。

 こうして私と真希のお試しデートは幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まずは女の子同士でデートしてみない? @kminato11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ